第16話 新年早々両親は離婚した

文字数 1,042文字

 夕方父が帰ってくると、派手な言い争いが始まった。
「だから、悪かったって謝ってるだろう。昨日は早めに仕事が片付いて、イブだし金曜日だから、ちょっと一杯だけ引っ掛けていこうってことになって――気づいたら、何故か中村のアパートで寝てたんだ。知ってるだろ中村。ほら、二期下で営業一部の」
「大方、またキャバクラかなんかで酔いつぶれたんでしょう。イブだからドンペリいっちゃう~? とかホステスにねだられて、鼻の下伸ばして、大枚むしり取られたんでしょう。バカみたい。大バカよ。あんた自分の犯した罪の重大さ、理解できてるの? 事故がなくてホントよかったわよ。美里や静香にもし万が一のことがあったら、一体どうするつもりだったのよ」
「悪かったって。だがな、おれが帰ってくるまで待たないで、いそいそと恋人の許に出かけたお前にだって罪があるんじゃないのか」
「なによそれ。その問題はもう片付いてるはずでしょう。ぶり返さないでよ。あんただって人のことなんて言えないんだから。お相子じゃない」
「いや……だから、そういうこと言ってるんじゃなくて……」
「そもそも、昨日の晩、美里と静香の面倒を見るっていったのはあんたの方なのよ。どうして約束守れないのよ。それに、なんで今日はさっさと家に帰ってこなかったのよ。もう六時じゃない。叱られるのが怖かったわけ」
「いや、そうじゃない。昨晩美里と静香のために買ったプレゼントを、どこかに置き忘れちゃったんだ。それで今日あちこち探し回って、結局見つからなくて、新しいのを仕入れてきた」
 父は紙袋から大きな包みを出すと、さっきから部屋の隅で両親の言い合いに耳を澄ませていたわたしと静香を呼んだ。
「美里、静香、遅くなっちゃったね。はい、プレゼントだよ。えっと――サンタさんは風邪を引いちゃってね。昨日の晩はこれなかったんだ。だから、プレゼントはおとうさんが預かっている。これがそうだ」
 わたしと静香は歓声を上げ、すぐさまプレゼントの包みを破った。
 わたしの包みには、セーラームーンではなくリカちゃんが入っていた。静香のはウイングガンダムではなく、エヴァンゲリオン零号機だった。静香は「うわ~。一つ目だあ」と怖がった。
 翌日幼稚園に行ったわたしは、仲のいい女の子に、サンタさんが自分と妹のプレゼントを間違えたことを話した。
「えっ、ミサトちゃん。サンタ信じてるの? サンタクロースなんて、本当はいないんだよ」
 サンタがいないと知って、ショックを受けたのもつかの間、新年早々両親は離婚した。
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