第3話(二日後)

文字数 613文字

 二日後に、本当に舟木さんは紀子の家に一人でやってきた。
 もちろん両親とは初対面だった。
 舟木さんは膝を折りきちんと手をついて
 「紀子さんと結婚を前提にお付き合いをさせてください」と頭を下げた。
 紀子は両親にはそれまでにすでに電話の内容を伝えてはいたが。
 両親が驚いたことは言うまでもない。
 本気か。と父親は驚愕し、あまりに突然の話に母親も半信半疑で、口がきけない。いずれにしても急な話だった。
 すぐに決断もできるわけもなかった。娘はたぶらかされているのではないか。
 舟木一夫といえば「高校三年生」の大ヒットで芸能界でも名のとおった一流歌手。日本人なら誰でも知っている歌手だ。
 それなりの収入もあり当然芸能界の裏表も知りまた何らかの女性関係にもあるいは修羅場に身を置いたこともあろう。世間の水の酸いも甘いも十分知っているはず。
 それが仙台の、後援会のただの一ファンの、世間を何も見知らぬうちの娘になぜ突然にこんな話を!
 しかもまだ娘は学生。まだ19歳、なのに。なぜ?
娘は楽屋を訪れたことは何度かあると言うが今まで二人きりで個人的に話したことは一度もないという。
 それが舟木一夫さんのようなそんな芸能界の大物歌手がうちの娘に今から結婚前提としてお付き合いをさせてほしいなんていうのは、これはあまりに恐ろしい。とうてい信じられない話だ。娘は騙されかけている、舟木さんのおもちゃにされている。
 両親がそう考えたのも無理はなかった。

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