第15話(京都のホテル)

文字数 625文字

 京都のホテルでの出来事だった。
 神戸での舟木ショーの公演のあと事務所の付き人と京都で泊まった。別々の部屋に分かれたが朝になっても起きてこないので不審に思った付き人がフロントに告げ部屋に入ったら血まみれの舟木さんが倒れていた。
 舟木さんは果物ナイフで自分の胸を刺しその後で首を刺していた。おびただしい血が流れ、すでに舟木さんは意識不明の昏睡状態だった。すぐに救急車で病院に運ばれた。
 お医者さんはあと5,6分遅かったら命はなかったと言ったらしい。全治1か月の重傷だった。
 病室に事務所の関係者が駆け付けた。
 まだ意識のない舟木の耳もとでバンドマスターのチャーリー脇野さんは
 「この大馬鹿野郎!」
 とどなっていた。
 誰もがそう思った。いったい舟木さんはどうしたんだ。
 誰も舟木の胸のうちを正確に知るものはいなかった。
 週刊誌が書き立てた。
 「女性関係が原因か」。「アイドルスター歌手ゆえの甘えと弱さ」。
 大阪の新歌舞伎座の1か月公演「鼠小僧只今参上」はすべて中止。新歌舞伎座に大きな穴をあけた。
 また予定していたテレビ「ヒットパレード」も完全中止となった。
 事務所はその弁済費用をすべて支払う。
 舟木事務所の運営マネージャーである舟木の父親栄吉は、
「申し開きもない。父親としてもう舟木一夫は二度と芸能界には復帰させないつもりです」
 と、周囲に宣言した。
 いよいよ舟木一夫は芸能界からはじき出されるだろうか。
 父親としてもいたたまれない気持ちだったのだ。
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