第4話(一方の舟木)

文字数 577文字

 一方の舟木。
 紀子の家に電話した舟木は突然の非常識を百も承知していた。もちろん紀子をたぶらかそうと電話したのではない。
 舟木にはそれ以前に奇妙な直感があったのだった。
 後々になればなるほどそれは絶対的な確信に変わっていったのだがそれは不思議な予兆だった。
 その出会いを舟木はまざまざと覚えている。
 4年前だった。
 「その人は昔」が公開された昭和42年。
 仙台での公演のあと後援会主催でファンとの茶話会の懇談があった。
 舟木の斜め向かい側の席に座っているその女の子を見たときに舟木は雷に打たれたような衝撃を受けた。電気のようなものが背中に走ったのを覚えている。
 今まで会ったこともない可愛く可憐な女の子だった。
 これが一目ぼれ、というのだろうか、何か神聖な天使がそこに座っていて自分の人生を支え導いてくれる、そんな感じがした。健気な美しさ。とにかく可憐で可愛い。
 舟木が見てきた今までの女性の誰よりも強烈なオーラをその女の子は発していた。
 その子が自分の人生の伴侶になるような強い予感がしたのだ。
 その予感は後になればなるほど舟木の胸の中で確信に近いものになった。
 舟木はその時に名前もしらない一ファンのその女の子との結婚を確かに実感したのだった。
 後援会の関係者に聞けばまだ中三の15歳という。
 「俺はあの女の子と結婚する!」
 心の中でそうつぶやいた。

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