第18話 ファミレス(2)
文字数 1,300文字
「ねえ」と彼女は言った。
わざわざ寄ってもらった僕のバイト近くのファミレスで。サラダとスープを軽く食べた後に。
「ちょっと待って」とも言った。
「変わってなくない?」
その手にはネイルオイルがあった。口調に反してその両手は、やさしく丸く添えられていて、ひよこを傷つけないように気を使っているような手加減だった。
「ちゃんと説明して。分かる? これが続くようなら結局、商品券ちょうだいとかなるよ?」
「それは嫌です」
でしょ?
「まず、今日って何の日なの?」
「出会って半年」
「そう。あたしたちの出会いはさしずめ桃園の誓いってわけだもんね。それは偉いね。で?」
二人でネイルオイルを見た。
「なんで?」
「いや、だって……」
彼女は最後まで言わせてくれなかった。
「ジュンはネット情報のコピペをやめて、ちゃんとあたしを見てくれるって約束したよね。もしかしてあの時のハンドクリームを大事に使ってるのが見られちゃったのかな。それはあたしが悪いかもだけどさ、だって1回使ったらいい匂いだったんだもん、でもね」
めっちゃ早口。
僕はそのうち怒られている気分にならなくなっていた。
「ハイブランドのボディケア用品に慣れたくない気持ちもあってね。これからの生活を思うと美容貧乏になるのなんて絶対に嫌だし、かといって生活水準を下げるのってすっごく難しいじゃん。よく考えて。Wi-Fiとかワイヤレスイヤホンのない生活なんてもう考えられないでしょ。これならジュンにも分かるよね。なのになんでukaてさ、偶然かもしれないけど微妙にセンスいいのが逆にムカつくんだよ」
「はい……」
「はい、どうぞ」
おうむ返しにされてちょっと理解に時間を取られた。
「え?」
「はい。ジュンの番だよ」
「あ、そういうルール? あのさ、これからもまたアサヒくんとキャッチボールするのかなって思ってさ」
「え?」
「だからそういうのもいいかなって。終わり」
「ああ、そういう感じ? あー。まあ、そうだよね」
彼女は視線を泳がせた。
「そうかー。うん、そういうのか。えー、えっとね」
「なに刺さってんの?」
「はあ? 刺さってねーし! むしろジュンが勝手に刺した気に…… は? えっ! むりむりむりむり! なに新しいの取り出してるの? だめだって!」
「いやだめじゃなくて、本当はこっちが本命なんだって」
紙袋の奥から簡単に包装された、ステンレス製の少しお高目のトングを取り出した。
「むり!」
「いや、むりじゃなくて…… パスタ盛りずらいって言ってたし」
彼女はテーブルに顔を伏せてしまった。
「ねえちょっとずるくない? アカリさんって重要な時はすぐそうやって顔を隠すよね」
彼女はしばらく深呼吸をすると、真顔のまま姿勢を正した。
鼻をすんっと一回鳴らす。
「ごめん、そうだね。ずるかったねあたし。で? これからどうする? デザート頼む? あたしまだ時間があるし平気だよ。あとちょっと……」
自然と口角がゆるゆるほどけていった。
「むり……」
ぱたんと倒れた。
「なにその表情。もう彼女じゃん」
「うん……」
「今日からだったら、ちょうどいい節目だしさ」
「うん……」
【ちょっとだけ違う】
【――終わり――】
わざわざ寄ってもらった僕のバイト近くのファミレスで。サラダとスープを軽く食べた後に。
「ちょっと待って」とも言った。
「変わってなくない?」
その手にはネイルオイルがあった。口調に反してその両手は、やさしく丸く添えられていて、ひよこを傷つけないように気を使っているような手加減だった。
「ちゃんと説明して。分かる? これが続くようなら結局、商品券ちょうだいとかなるよ?」
「それは嫌です」
でしょ?
「まず、今日って何の日なの?」
「出会って半年」
「そう。あたしたちの出会いはさしずめ桃園の誓いってわけだもんね。それは偉いね。で?」
二人でネイルオイルを見た。
「なんで?」
「いや、だって……」
彼女は最後まで言わせてくれなかった。
「ジュンはネット情報のコピペをやめて、ちゃんとあたしを見てくれるって約束したよね。もしかしてあの時のハンドクリームを大事に使ってるのが見られちゃったのかな。それはあたしが悪いかもだけどさ、だって1回使ったらいい匂いだったんだもん、でもね」
めっちゃ早口。
僕はそのうち怒られている気分にならなくなっていた。
「ハイブランドのボディケア用品に慣れたくない気持ちもあってね。これからの生活を思うと美容貧乏になるのなんて絶対に嫌だし、かといって生活水準を下げるのってすっごく難しいじゃん。よく考えて。Wi-Fiとかワイヤレスイヤホンのない生活なんてもう考えられないでしょ。これならジュンにも分かるよね。なのになんでukaてさ、偶然かもしれないけど微妙にセンスいいのが逆にムカつくんだよ」
「はい……」
「はい、どうぞ」
おうむ返しにされてちょっと理解に時間を取られた。
「え?」
「はい。ジュンの番だよ」
「あ、そういうルール? あのさ、これからもまたアサヒくんとキャッチボールするのかなって思ってさ」
「え?」
「だからそういうのもいいかなって。終わり」
「ああ、そういう感じ? あー。まあ、そうだよね」
彼女は視線を泳がせた。
「そうかー。うん、そういうのか。えー、えっとね」
「なに刺さってんの?」
「はあ? 刺さってねーし! むしろジュンが勝手に刺した気に…… は? えっ! むりむりむりむり! なに新しいの取り出してるの? だめだって!」
「いやだめじゃなくて、本当はこっちが本命なんだって」
紙袋の奥から簡単に包装された、ステンレス製の少しお高目のトングを取り出した。
「むり!」
「いや、むりじゃなくて…… パスタ盛りずらいって言ってたし」
彼女はテーブルに顔を伏せてしまった。
「ねえちょっとずるくない? アカリさんって重要な時はすぐそうやって顔を隠すよね」
彼女はしばらく深呼吸をすると、真顔のまま姿勢を正した。
鼻をすんっと一回鳴らす。
「ごめん、そうだね。ずるかったねあたし。で? これからどうする? デザート頼む? あたしまだ時間があるし平気だよ。あとちょっと……」
自然と口角がゆるゆるほどけていった。
「むり……」
ぱたんと倒れた。
「なにその表情。もう彼女じゃん」
「うん……」
「今日からだったら、ちょうどいい節目だしさ」
「うん……」
【ちょっとだけ違う】
【――終わり――】