第1話 ファミレス(1)
文字数 1,101文字
彼女は飽きていた。
ファミレスのテーブルに突っ伏して、両手を伸ばしてスマホの画面を見ていた。眉をひそめて唇をとんがらせていた。アプリの操作に夢中になっているでもなく、コンテクストに集中しているでもないことは雑なスワイプで知れた。
硝子戸の向こうを新車を乗せた積載車が過ぎた。水たまりを跳ね上げ、通行人が声を上げた。アカリさんはぼんやりと窓に興味のない目を向けた。単なる生理反応としての目線だった。
「だるくね?」
そう、同意を求めているでもないつぶやきをこぼした。
「だるいっすね」
そう、僕は答えた。
僕の前にはこそげ取りきれずに残ったホワイトソースがこびりついたグラタン皿があった。僕はこんなものを食べたかったわけではなかった。毎回注文して毎回思う感想だった。
「水温の高すぎる温水プールではしゃいだ後くらいだるいっす」
すると、僕に彼女はジト目を向けてきた。
「そこまでだるくねえよ」
アカリさんはスマホをパタンとテーブルに置いた。テーブルに垂直に立てたひだり肘に鼻を埋める。
「そこまでだるくねえ!」
アカリさんは両肩を小刻みに震わせた。
会計を済ませて表に出ると、もうすでに雨は上がっていた。僕たちは駅の方面に向かって歩き出した。アカリさんは何を考えているのか、立ち止まったり歩を緩めたりして、なかなか隣を歩いてくれなかった。
僕はしばらく待ちながら、ぼんやりと先輩グループの中で後ろの方にいるアカリさんを思い浮かべていた。先輩グループ…… アカリさんがよくいる3年生のグループの中心人物はカナタくんと言った……。二度三度アカリさんの口から話が出たことがあった。なんでも変に情報通で、あまり校内行事に関心がなくて不真面目だけど仲間思いで……。まあ、僕にとっては嫉妬の対象にしかならない器用なタイプの男のようだ。
相棒はコウキくんと言って、背が高くてイケメンだった。そのコウキくんの彼女がアカリさんの友達のヒマリさん。でもなぜかアカリさんとヒマリさんの間には物理的な距離が隔たれていることがよくあって、その距離には二人三人の取り巻きがいることが多かった。
今日もアカリさんは後ろを歩く。僕とアカリさんとの間にも物理的な距離の隔たりがあった。
「じゃあね」
交差点でアカリさんはそう言って歩みを止めた。もうこれ以上、あなたを送迎しません、私はあなたの彼女ではありません、そう訴えているように思えた。
僕がリアクションに困ってぼんやりしていたら、彼女はスマホをひらひらさせて背中を向けた。メッセ、送る、了解。彼女はまた両肩を震わせた。なにをこらえているのか、彼女は感情を隠している素振りを見せることがあった。
ファミレスのテーブルに突っ伏して、両手を伸ばしてスマホの画面を見ていた。眉をひそめて唇をとんがらせていた。アプリの操作に夢中になっているでもなく、コンテクストに集中しているでもないことは雑なスワイプで知れた。
硝子戸の向こうを新車を乗せた積載車が過ぎた。水たまりを跳ね上げ、通行人が声を上げた。アカリさんはぼんやりと窓に興味のない目を向けた。単なる生理反応としての目線だった。
「だるくね?」
そう、同意を求めているでもないつぶやきをこぼした。
「だるいっすね」
そう、僕は答えた。
僕の前にはこそげ取りきれずに残ったホワイトソースがこびりついたグラタン皿があった。僕はこんなものを食べたかったわけではなかった。毎回注文して毎回思う感想だった。
「水温の高すぎる温水プールではしゃいだ後くらいだるいっす」
すると、僕に彼女はジト目を向けてきた。
「そこまでだるくねえよ」
アカリさんはスマホをパタンとテーブルに置いた。テーブルに垂直に立てたひだり肘に鼻を埋める。
「そこまでだるくねえ!」
アカリさんは両肩を小刻みに震わせた。
会計を済ませて表に出ると、もうすでに雨は上がっていた。僕たちは駅の方面に向かって歩き出した。アカリさんは何を考えているのか、立ち止まったり歩を緩めたりして、なかなか隣を歩いてくれなかった。
僕はしばらく待ちながら、ぼんやりと先輩グループの中で後ろの方にいるアカリさんを思い浮かべていた。先輩グループ…… アカリさんがよくいる3年生のグループの中心人物はカナタくんと言った……。二度三度アカリさんの口から話が出たことがあった。なんでも変に情報通で、あまり校内行事に関心がなくて不真面目だけど仲間思いで……。まあ、僕にとっては嫉妬の対象にしかならない器用なタイプの男のようだ。
相棒はコウキくんと言って、背が高くてイケメンだった。そのコウキくんの彼女がアカリさんの友達のヒマリさん。でもなぜかアカリさんとヒマリさんの間には物理的な距離が隔たれていることがよくあって、その距離には二人三人の取り巻きがいることが多かった。
今日もアカリさんは後ろを歩く。僕とアカリさんとの間にも物理的な距離の隔たりがあった。
「じゃあね」
交差点でアカリさんはそう言って歩みを止めた。もうこれ以上、あなたを送迎しません、私はあなたの彼女ではありません、そう訴えているように思えた。
僕がリアクションに困ってぼんやりしていたら、彼女はスマホをひらひらさせて背中を向けた。メッセ、送る、了解。彼女はまた両肩を震わせた。なにをこらえているのか、彼女は感情を隠している素振りを見せることがあった。