第12話 最大の過ち
文字数 7,480文字
正気を失った護衛士は、護衛士長を含めた7人。
早急な避難対策が必要です。
「
村中に響き渡るんじゃないかってぐらいの
ですが、外で見張りをしていた為、鱗粉が降りかからずに済んでいる
そんな中、指揮をする立場の上官や、先輩達が襲ってくる。パワハラ反対!
どうしてそれが麻薬の効果だって思ったのでしょう?経験が無いとその様な発想になりませんよね?麻薬検査をどうぞっ!
「どうやら、一匹だけの様だね。」
「クソッ!全滅させたと思ったのに!」
『結界だって、毎日ちゃんと張り直していました。外から侵入できるはずありません!』
「おそらく、どこか見えづらい場所に繭があったんだろう。で、孵化しちまったんだね。」
僕らも、自分の手ぬぐいで、手早く口と鼻を覆います。
僕らは、正気を失った護衛士達に向かって、箒を振り回して突進しました。鱗粉さえ払ってしまえば、正常に戻るのですから。
『失礼します!』
お詫びを言いながら、僕は、
ところが、スパンっ!っと音と共に、箒の先端がドサっと地面に落下してしまいました。
『え?』
顔を上げると、狂護衛士の剣先が、僕に向かっていました。
「ミツチ、何やってんだ!剣を持った相手に、箒なんかで敵う訳ないだろ!逃げろ!」
盾を構えた
冷静に考えれば、仰る通り。安物の使い古した切れ味の悪い農民の鎌や鍬、包丁と違い、兵士の剣はピカピカに研がれた業物。箒を切るなんて、豆腐を切るぐらい簡単。
何も知らない
「吸い込んでしまうのが原因なら、箒で払っても意味ないだろ?」
『一回の吸い込み程度なら、効果は数秒なんです。でも、ずっと吸い続ければ、ずっと正気を失ったまま。だから、鱗粉を払う必要があるんです。』
「分かった。……けど、俺達にはその妖怪も鱗粉も見えないしな。」
「僕らでなんとかしますから、隙を見て、建物の中に逃げてください!」
ですが、一番大人しそうだった護衛士が、なかなか建物の中に逃げ込んできれません。鞘をつけたままの剣と盾で、思いっ切り特定の狂護衛士を殴っていました。……日頃の恨みかな?
僕らが使える法術は、結界術と、囮になる術、そして、火練術という炎を飛ばす術。
結界術は、道具が必要なので、今すぐは無理。
囮になる術は、策がないと体力が減るだけで意味がありません。
炎は、絶対にダメです。平民が貴族を殺したら、死刑になってしまいます。それに、誰も死んで欲しくありません!直ぐに治る怪異なのですから。
「
風練術を放たれた護衛士長は、ボンっ!と音と共に茂みの中に吹っ飛びましたが、起き上がった後は、キョトンとし、頭の周りに沢山の?を浮かべていました。
「は?私は一体…………。」
村長は、ポカン状態の護衛士長を助け起こすと、直ぐ様、
なるほど、風で鱗粉を飛ばすのですね。……ですが……。
「
「5級だって?」
村長の質問に、僕らは頷きました。
そうなのです。風練術は、妖術士見習い4級から習う技。一応……上級生の練習を見ているので、詠唱は覚えていますが、実際にやった事はありません。
「私は、
まさかの精神論アドバイス。それに修行って、林業の事でしょうか?
とはいえ、
意味不明だとボヤく
構えた手のひらから、強い風圧を感じた瞬間、僕に向かって剣を振りかざした狂護衛士と、自分の身体が弾ける様に吹っ飛びました。
「大丈夫か?ミツチ!」
目を丸くした
『
「あぁ!スッゲーよ、ミツチ!」
まさか、成功するとも思いませんでしたし、あんなに威力が出るとも思っていなかったので、踏ん張りが足りなかった様です。
もしかして、自分には風属性に適性が⁉︎などと期待してしまっていましたが、詠唱を教えただけの
「俺にも出来た!!」
『あの林業フルコース、風練術の修行だったみたいですね。』
「来月の試験には出ねぇけどな。」
僕らは二手に別れ、次々と狂人化してしまった護衛士達を風練術で治し、
怪我人は出たものの、幸い、軽傷ばかり。
ホッとした僕らは、直ぐ様、あの
「やっぱりだね。」
井戸の中には、
幸い、他の2つはまだ孵化していないようなので、僕と
「気持ち悪りぃ!それに臭い!」
炎の中で
「井戸の底まで、頭が回らなかった。私も、歳かね。」
戻るや否や、村長は、年嵩の護衛士長に頭を下げ、今回の怪異の騒動を謝罪し、今晩はここで休んで下さいと提案をしました。
「気にするでない。
どうやら話が分かる護衛士長な様で、この件についてのお咎めは無しとなりました。良かったです。
「それと、折角の申し出だが、我々は直ぐに立たねばならん。既に日程が、だいぶ押してしまっているからな。」
「そうですか……。申し訳ございません。
「しかし、ここでもとなると、今後も道中、気をつけねばならんな。」
「ここでも……っと申しますと?」
護衛士長は、ため息を吐きました。
「こんな話、誰も信じないだろうが、元妖術士だったそなたなら信じてくれよう。」
どうやら
「実は、一昨日、
ところがだ。町中の人達が、時が止まったかの様に、ぴくりとも動かない。
歩いたままの姿、立ち話をしている姿、飲み物や、食べ物を持ったままの姿。まさに、何かをしている途中の姿のまま止まっていた。
まるで、金縛りにでもあったかのように。」
「起きたまま……ですか?」
「ただ、時が止まっている訳ではないので、涙を流してる者、よだれ、鼻水を流す者、そして、糞尿を垂れ流していた者も多くいた。」
「とにかく、これは大変だと思い、早馬を隣の町の役場に向かわせ、役人が来るまで我々は、外にいる町人達を担ぎ、建物の中に移動させた。
生きているのなら、陽にさらされたままでは、喉も乾くだろうし、夜になれば冷え込むからな。
まぁ、素人の発想ではあるが……。」
「動かした時、手足を曲げたりする事はできたのですか?」
「いいや。銅像の様に動かなかった。だが、眼球だけは動かせる様で、一生懸命私達に、何かを訴えておった。それが、余計哀れでな……。」
「実に奇妙な……。
町の方々のお世話をされていたから、予定が遅れたという訳なのですね。
「世話といっても、役人が来るまでだ。護送任務があったからな……。
だが、今となっては、去ってしまった事を後悔しておる。」
「何かあったのですか?」
「あったのではない、なかったのだ。
やって来た役人曰く、今、祈祷師も妖術士も各地で怪異が多発している為、予約が詰まっており、早くても一ヶ月後になると言う。
しかも、これが怪異によるモノだという証明書がないと、依頼もできないと。
で、その証明書は、どこで貰えるのかと聞けば、祈祷師か妖術士からだと。
それなら、その証明書を出す祈祷師や妖術は、どうやたら来てくれるのかと聞けば、申請して待つしかないのだと抜かしおる!信じられるか⁈
どこの役人も、自分の頭は使わず、手続き通りにしか動かん!!
誰がどう見ても、あれは怪異以外ありえないというのにっ!!!」
「
村長は首を横に振ってから答えました。
「残念ですが、和尚様は、どこかへ出張されたようで、ずっと戻っておられないのです。妖術士も全員出払っているとか。
私も、至急、ご相談した事があるのですが……。」
「そうか……。」
「
「私が……ですか?ですが、私は……もう。」
「勿論、とうに引退されたのは知っておる。
だが、其方の知識と経験があれば、原因を掴んでくれるだろうと期待しているのだ。」
「期待と仰られても……。」
「頼む!」
護衛士長は、浮かぶかと頭を下げました。
「おやめ下さい!貴族様が、平民に頭を下げるなど!」
「解決しなくてもいいのだ。何か情報が掴めておれば、それが証明となるだろ?カラス門戸の者なら、其方の証言を疑うまい。
それに、予め捜査をしておけば、手間が省ける。妖術士が参った時、直ぐに解決できるやもしれん。」
「村長、行ってあげてくだせぇ。あん町にぁ、私の娘が嫁いでんよ。あたしからもお頼み申します!」
怪我の手当ての手伝いで来ていた中年女性が、頭を下げました。
「オラからも頼みます。あそこには、親友がおります。どうかどうか!」
「私の妹も、あん町におります!村の事は私らに任せてくんなせぇ!」
他の村人達も、続々お願いして来ました。
村人達と護衛士達が頭を深々と下げるのを見渡し、最後に、護衛士長の懇願する様な目を見てから、深くため息を吐いた後、
「分かりました。私にできる事をやってみましょう。」
「ただ、供に、この子を連れて行ってもいいですか?」
「構わんが……、その子は、お孫さんか?」
僕の素性を知らない
「いいえ。この子は、
ほぉっと、
「今の私には、霊が視えませんが、霊感が強いこの子と一緒なら、第六感が触発されるのか、視える様になるのです。」
「分かった。なら、彼の分の経費と依頼料も払おう。もちろん、後で報酬も支払う。」
「いえ。経費だけで十分です。この子は、まだ修行の身なので。」
その旅立ちの時、
残念ながら、父は俯いたままで、顔はよく見えませんでした。
でも多分、それで良かったんです。思い出なんか無い方がいいのですから……。
「おい!くそババァ!何、勝手に決めてんだよ!俺ら、それどころじゃねーんだよ!」
「誰が、ババァだって?」
「テメェだ!鏡、見た事ねぇのかよ⁈」
「っというか、
「俺ら、お師匠の居場所を聞いて、馬鹿げた結婚を止めに行かなきゃなんねぇんだ!だから、ミツチは行けねぇんだって!」
「一人で勝手に行きゃいいだろ?
ミツチは、和尚様が戻るまで、私が修行を見る事になっている。だから、連れて行く。」
「修行なんかしてる場合じゃないんだって!なぁ、ミツチ?」
いきなり振られて、僕は戸惑いました。
お師匠さんの事も気になりますが、何よりも、厨房係で、僕の叔父にあたる
僕が、生きてるって事を知れば、祖母は元気になるかも知れませんし、祖父は、冤罪者の父に、復讐の為の死刑宣告をしなくて済むのですから……。
けれど……、その事情を
この11年間、ずっと祖父母に僕がまだ生きている事を知らせなかった。きっと……何か理由があるはずです。そして、それを決めたのは、おそらく和尚様。
『僕は……。僕は、行きます。
「よく言った、ミツチ!」
満面な笑みで、
「はぁ?なんでだよ!!お師匠の事が気になんねぇのかよ?心配じゃねぇのかよ?変だろ?
あのクソビッチ、
ぜってぇ、無理やり結婚させられんだ。止めてやんねーと可哀想だろ⁈」
怒った
確かに、変な話だとは思います。
それに、
お師匠さんが、
いえいえ!いくら何でもそれは……。それに、お願いした所で、断られるはずです。
『どの様な経緯で、結婚となったのかは見当もつきませんが、別に殺される訳じゃないでしょ?
けど、
「霊感が無いババァと、見習い五級のお前が行った所で、何ができんだよ?
町の奴らを、全員金縛りにしちまう様な怪異だぞ?小物なワケねぇだろ⁈」
『そうかも知れません。けど、調査だけならできます。
その緊急性を、妖術士総本山に報告すれば、最優先で妖術士を手配してくれるはずです。
だから、お師匠さんの件は、
「分かったよ!分かった!俺も行く!」
『え?』
「別に、あんたは来なくていいんだって。っと言うか、あんた筆記試験の方がヤバいんだろ?寺で勉強してな。」
「うるせぇババァ!黙ってろ!」
「とっとと
『
「まぁ……、本当にヤバイ事になってんなら、
『
お師匠さんの件に、
「あぁ……そっか。使えねぇなぁ〜。まぁいいや、とにかく直ぐに終わらせようぜ。それからお師匠だ!」
この時の僕らは、それが最善な判断だと思っていましたが、実は、とんでもない判断ミスだったとは、思ってもみなかったのです。
あの時、もし、お師匠さんの方を優先していれば……、あんな事件が起こるはずなど……なかったのですから……。
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