第10話 僕の名前
文字数 9,282文字
僕らは、蓮林 村長達の案内で、無事に崖上の九九村 村へ戻る事ができたのは、夕暮れ前でした。
「全く、あの高さから落ちて、怪我一つ無いなんて、奇跡だね。」
『「まぁ……。」』
太良 さんと僕はそれだけ答え、あえて取り繕う様な事は言いませんでした。下手に嘘をつくと、ツッコミの嵐に遭いそうですし、本当の事を喋れば、もっと面倒臭い事になるのは確実です。
それと幸いな事に、発狂した人が現れたとの知らせが入った為、蓮林 村長と紗里 さんは、再び江躯 の討伐と、その鱗粉を浴びて、発狂してしまった人達の治療をしに行く羽目となったので、とりあえず、その場はしのげました。
蓮林 村長の家の方へ向かうと、メガネをかけた細身の学者風男性が、オロオロ。財布でも失くされたのかな?
その人は真っ青な顔をした茶徒 さんでした。茶徒 さんは、僕らを目にすると、「良かった〜」っと崩れる様に地べたに座り込み、僕らの無事を喜んでくれました。どうやら誰かが、知らせたらしいですね。
所が、ぬか喜びをさせたのも束の間、太良 さんが、圭亜 の水神事件を僕に話してしまった事、そして、僕の中にいる邪神と化した元水神の忠告を伝えると、茶徒 さんの顔は、また青ざめてしまいました。
「参りましたね。和尚様が不在の時に……。」
「すみません……。」
太良 さんが、茶徒 さんに頭を下げるので、僕も慌てて下げました。
「まぁ……ミツチの件は、遅かれ早かれ露見されるのは想定済みでしたし、その時の対策も考えていましたから、問題ありません。
ただ、飛天が現れるという情報に関しては、荒唐無稽過ぎて、和尚様のご判断を仰ぐしか……。寺に戻り次第、直ぐに赤烏 (連絡係の赤いカラスの妖怪)を使って報告しましょう。」
『はい……、お願いします。』
そう言いながら僕は、まだ顔色が悪い茶徒 さんに、又頭を下げました。
当然の反応ですよね。僕自身ですら邪神だの飛天だの、ガッカリ家族だの、不幸増し増しの悪夢のような話を聞かされ、消化不良を起こしそうなのですから。
「とりあえずミツチは、和尚様が戻るまで、蓮林 村長の家で御厄介になりなさい。」
『え?何故ですか?』
「寺にいたら、ミツチの性格上、八咫 に謝らずにはいられないでしょ?」
『…………。』
「また圭亜 事件での被害者は、八咫 だけではありません。実は、見習生にも妖術士達の中にも、あの事件で家族や友、恋人を失っている者が何人かいます。
幸いな事に、ミツチが生贄にされ、邪神に憑依された等の詳細を知っているのは、和尚様と、私を含めた当時の特級、上級妖術士。そして八咫 と太良 さんだけ。
一般的に知られているのは、領主の孫が生贄にされたらしい……っという程度。
よって、黙ってさえいれば、誰かが気がつく事など決してないのです。」
茶徒 さんの“気がづく“という言葉には、“傷つく“という意味も含まれているようにも感じました。
圭亜 から布能洲 寺までの距離はそう遠くはありません。そして、当時の最寄りの都と言ったら圭亜 。
あの事件によって廃都となるまで、皆さんが、頻繁に行き来をしていたのは容易に想像できます。だとしたら、家族や知り合いがいても、何もおかしくはありません。
11年の時を掛けて、どうにか辛い過去から立ち上がってきたのに、こちらの都合と罪悪感を軽減する為に謝罪するのは、悪戯に被害者を傷つけるだけ……と言う事なのでしょう。そして、僕には、その責任を取る術を……持ち合わせていない……。
「ミツチはまだ4歳だったから、当時の知り合いが今のミツチを見たとしても、気づかない。それに、名前も違うから、何も心配はないよ。」
太良 さんはそう言ってから、あっ!っと小さく叫びました。
『もしかして……、僕の今の名前って、偽名……ですか?僕の名前だけカタカナですし……。』
太良 さんの助けを求める様な視線を受けた茶徒 さんは、はぁ〜っと溜息を吐いてから、答えてくれました。
「”ミツチ”という名は、偽名ではありません。
かと言って、生まれた時の命名でもありません。
生贄として、水神に捧げられた時、命名、すなわち”命の名”も捧げてしまったからです。」
僕は、首を傾げました。
『それは……僕の名前を捧げてしまったから、元の名前が使えないと言う事ですか?』
「そういう訳ではありません。
命名とはどの様なものか、和尚様の授業で習いましたか?」
『はい。
命は、肉体が滅びるまでの間の存在。なので命名とは、その肉体につけた名……ですよね?』
「そうです。
では、生贄を捧げる時、命名も捧げる場合の意味は?」
『えっと……。
生贄として、肉体だけを捧げる場合は、単に供物を意味します。
ですが、命名も捧げる場合は、受肉してもらう事が目的です。
おそらく圭亜 の事件で、受肉目的の生贄を捧げた理由は、水神の”神体”だった山を、炭鉱目的で崩してしまったから、そのお詫びにと、事の張本人の孫を”依代”として差し出した……。
命名も捧げたのは、受肉する時の術に必要だから?』
茶徒 さんは頷くと、近くにあった大きな岩の上に腰掛けました。
「その様な所ですね。
基本、受肉も憑依も、外来の魂と在来の魂の二つの魂が、肉体を共有してしまった状態の事を言いますが、憑依は、ずっと共有状態である事に対し、受肉は、強い方の魂が、もう一つの魂を徐々に吸収し、最後には完全に乗っ取ってしまう状態を言います。
我々が一番恐れたのは、邪神が、君の魂を吸収した完全受肉状態。
それは歩く厄災となり、人々は、永遠に怯えて暮らす羽目となる。なぜなら、神は、肉体を不老不死にできるからです。
駆けつけた1000人もの優秀な祈祷師達は、邪神の怒りを鎮める為に、盛大な祈祷を行いましたが、徒労に終わりました。
残る手段は、封印。
ですが、肉体を封印する事など出来ません。かといって、邪神を永遠に監禁できるような技術は現代にはない。となると、まずは邪神を肉体から追い出し、霊体、神霊に戻す必要があります。
その方法は、“命名“を元の持ち主に返す事。
祈祷師達は、一生懸命交渉をしたようですが、即却下。
なら、こっちで持ち主の名を勝手に変更してしまおう!って事で呼ばれたのが、君の正式な名付け親、布能洲 寺カラス門戸の李庵 和尚様でした。名義変更ができるのは、名付け親だけなので。」
『え?和尚さんが?僕の?』
その質問に答えたのは、太良 さんでした。
「普通、命名は、祈祷師か僧侶がするんだ。
ほら名前って、ある意味、呪だろ?
今も当時もだけど、圭亜 の領地内で、一番権威ある僧侶は、李庵 和尚様。
だから、この辺りの人達の大半は、李庵 和尚様に頼んでるんだよ。」
……プライドの高い祈祷師が、地元の妖術士に協力依頼したなんて、おかしいと思ってました。そういう事でしたか……。
『ですが、邪神に知られないよう、勝手に名義変更をするだなんて、可能なのでしょうか?』
茶徒 さんが、首を横に振りました。
「無理です。
相手は、邪神とはいえ神は神。まして、体内にいるのですからコッソリなど不可能。
加えて、邪神は、ずっと大人しく我々の相手をしてくれる程、冷静ではなく、むしろ暴れまくっていたので、まずは、結界を張り、その場に留める事から始めなければなりませんでした。」
ふと僕は、太良 さんが教えてくれた事を思い出しました。
『八咫 が……。八咫 が現れたんですね?』
「そうです。当時5歳だったので、空気が読めないのは仕方がないとしても、無鉄砲もいい所でした。
当時から、第六感に優れていた八咫 は、君を視て直ぐに、邪神が君を依代にしている事に気付いたそうです。で、邪神の影で怯えてる君の霊が視えたから、君の方に声をかけたと言っていました。
もちろん、祈祷師も、我々も、君に働き掛ける方面からも試してはいましたが、君は怯えるばかりで、ますます邪神の影に隠れてしまったのです。ですが、八咫 の時だけは違った。
歳が近い子供同士だったからなのでしょう、君は、八咫 の声に応えた。そして、八咫 の説得と励ましで、君、自らが邪神の説得を始めた。
まぁ……結局、邪神を説得する事はできなかった様ですが、その僅かな間だけ、邪神の動きを止め、注意を逸らしてもらう事ができました。
で、その隙に我々は、君の周りに結界を張り、邪神をその場に留めさせる事に成功したのです。」
出会った時から、八咫 は、僕を助けてくれてたんですね……。
「話を、名付けに戻しましょう。
太良 さんが仰った通り、名付けは“呪“。
どのような”文字”で書くかは、本人、すなわち肉体に伝える必要はありませんが、どのように“発音“をするのかは、“呪術“に必要な工程の一端なので、本人に伝えなければなりません。」
『では、名を変えた時点で、バレてしまうのですね。でも、文字さえバレなければいい。そう言う事ですか?』
また茶徒 さんが、首を横に振りました。
「先程も言ったように、相手は神。
どんなに難しい漢字で書こうが、異国の言語で書こうが、その文字は直ぐに見破られてしまった。
そして、本来なら、本人が命名の放棄をしない限り、名付け親にしかできないはずの命名の変更を、神の能力で、自分の名に変更してしまったのです。
ですが、和尚様は諦めませんでした。いろんな名前の名義変更を何百回、何千回、何万回もひたすら繰り返し、三日三晩も続けられました。」
『ええっ⁈』
「一見、それは非常に馬鹿馬鹿しく、愚かな行為と思われましたが、それは、和尚様の作戦。
もう、邪神も祈祷師達も呆れ返り、四日目に突入しようとした頃、和尚様は君に、邪神と同じ”ミツチ”という名を、新たに名付けました。もちろん漢字も同じで。」
一番、簡単に見破られそうな名をつけるなんて、どうしてでしょう?
「名付ける、変更するの作業に飽き飽きし、苛立っていた邪神ミツチは、うっかり自分の名で、肉体の名義変更してしまった。基本的な事に気づかずに。
その結果、邪神ミツチは完全受肉状態となる前に、和尚様と我々によって、剣に封印されてしまった。
寺で祀られている祠にある剣です。君達の掃除担当の。」
あの祠……?ますます分かりません。あそこに封印されているのなら、僕の中に居るのは誰でしょう?
それに、基本的な事とは?
『あの、何故そうなるのですか?同じ名前でも、別個体なのですよ?』
「どうやら、君も基本を忘れてしまったようですね。」
茶徒 さんは立ち上がると、蓮林 村長の家の表札を指でさしました。
そこには、“蓮林 “と言う文字が書かれて、その横には、息子さんの名、“拿理 “と書かれていました。
「命名に使われる“読み方“と“文字“。“読み方“は、肉体の持ち主の名。この家では、“不動産登記の名“に該当します。
で、“文字“は家に入る為の“鍵“を指しますが、ここでは分かりやすく“合言葉“にしましょう。」
太良 さんが、生徒の様に手を挙げました。
「分かりました!“命名“も捧げたのは、入る為の“合言葉“が分からなければ、肉体に入れないからですね?」
苦笑しながら茶徒 さんは頷くと、説明を続けました。
「正解です。
和尚様と、邪神は、登記の名義変更と、その合言葉の変更をひたすら繰り返していた訳なのです。」
「いや、待って下さい。それはおかしいです。もう邪神は家の中にいるんですよ。和尚様がいくら合言葉を変えようが、もう関係ないじゃないですか?相手にする必要がありません。」
「そうですね。
でも、その家の扉が“合言葉“によって勝手に開けられ、ハエや蚊が何十匹も入れられたらどうです?」
「それは……鬱陶しいですね。追い出して、扉を閉めたいです。」
「でしょ?合言葉を知られると言う事は、扉が開けられると言う事。つまり、呪われやすいと言う事です。」
「ですが、相手は神ですよ?失礼かもしれませんが、いくら和尚様や一流妖術士が大勢でやったとしても、所詮は人。人がかけた呪いになどかかるのでしょうか?」
「大したダメージは与えられないでしょうが、先程、例に挙げた様に、鬱陶しいと思わせる程度の呪いなら可能でした。だから、苛立たせる事ができたのです。」
「なるほど……。」
太良 さんは、指を顎にあて、何度も頷きました。
一緒になるほどと納得している僕に向かって、茶徒 さんがメガネを位置を直しながら質問をしました。
「さて、ミツチ。君が忘れた基本を思い出しましたか?」
考えてから、僕は首を横に振りました。
『すみません。まだ分かりません。
……家が肉体だとするなら、その家の住人……親である“蓮林 “村長さんが僕の魂で、息子の“拿理 “さんが邪神の魂っと言う訳ですよね?
生贄で命名も捧げた事で、僕は、肉体を放棄したから、邪神は、僕の体を所有し、依代にする事ができた。
つまり、この家は、“蓮林 “村長さんの家だったけど、息子の“拿理 “さんに譲ったから、この家は、拿理 さんの物になった。
で、拿理 さんの家名義となってしまったけど、蓮林 さんが自分の名前を、拿理 さんに変更。
…ん〜…やはり、名前を息子と同じにしたって、家の名義は息子さんである事に変わりないですよ。』
茶徒 さんは、頷いてから、ズレたメガネを指で直してから、僕らに質問をしました。
「では、ゆっくり、最初から考えてみましょう。
この家は、蓮林 さんの家でしたが、所有権を放棄し、拿理 さんに譲りました。
で、正式に役場で手続きをしたので登記は“拿理 “さん名義となりました。
この家は、拿理 さんのものですね?」
太良 さんと僕は、顔を見合わせてから、頷きました。
「今度は、蓮林 さんの名に名義変更をします。誰の家ですか?」
『……蓮林 さんの……です。』
「そうです。では、また拿理 さんの名に名義変更します。誰のですか?」
『拿理 さんのです。』
茶徒 さんは、こくりと頷きました。
「その通り。
それでは、今度は蓮林 さんの名前を“拿理 “に変更しますが、名義変更はしません。もちろん合言葉も。誰の家ですか?」
『……息子さんの方の“拿理 “さんのです。』
「では、息子の拿理 さんご自身が、役場で、“拿理 “と言う人物に名義変更をしたら?」
『えぇっ⁉︎ それは…… 息子さんの拿理 さんご自身が変更と言うのですから、ご自分を指してるわけではないですよね?
自分名義だったのを変更と仰ってるわけですから……、もう一人の“拿理 “さん、母親の事を指してる……と言う事ですか?』
同意を求めるように僕が太良 さんを見、太良 さんは「ん〜……」と唸りながら、答えを求めるように茶徒 さんを見ました。
「そうなります。
ま、実際、役場ではもっと色々な手続きが必要でしょうが、あくまで例えで、術の話なので、突っ込まないで下さい。
和尚様が最後に行ったのは、命名の変更ではなく、君の魂の名。魂名の変更。
魂名を変えただけなのに、邪神は、うっかり自分の術で、肉体の名義も合言葉も君の名に変更してしまったのです。」
『ですが、邪神が、直ぐに気づいて変更って事にはならないのですか?読み方も、文字も知ってるんですよ?』
「無理だった様です。その証拠に、和尚様と我々で封印術をかけ、無力化する事ができたのですから。
邪神といえど神。神の術は、自身でも解くのには手こずったようです。」
『名付け親だったから、和尚さんは、神の術を使った名義でも変更をする事ができた。けれど、邪神は名付け親じゃないから、自分の術であっても、変更するのは困難だった……という事ですか?』
「そうです。先程も申しましたが、そもそも命名の変更ができるのは、名付け親ただ一人。邪神が変更できたのは、神の術という、強行をしたからです。」
それで、僕の名は、邪神と同じ“ミツチ“……。
『漢字を教えて頂けないのは、何故ですか?』
「通常、術者が子に名をつける時、魂名を術で調べます。
魂名は、現世だけの命名とは違い、前世からの名であり、死んだ後も、来世でも同じ。君の時の様に、よほどの事がない限り変わりません。
魂名に呪いがかかれば、現世だけで終わらず、来世でも続いてしまう。しかも、魂名が使われた呪詛は、命名にかけられた呪詛の倍の効果。つまり、魂名とは、魂を晒すようなもの。全裸と同じ状態。
だから、命名する時は、魂名を調べ、魂名とは全く違う名を授けなければならないのです。」
僕は、ごくりと唾を飲み込みました。
『今の僕は、……命名と魂名が同じ。だから、漢字を教えられない……という事ですか?」
「そうです。
君の本当の漢字名を知るのは、和尚様と邪神だけ。
危険を避けるには、誰にも教える訳にはいかないのです。例え、本人が望もうと。」
「いや……。それって不味くないですか?」
心配そうな顔で、太良 さんが質問をしました。
「だって、術を使えば、魂名が分かるのですよね?だったら、ミツチに限らず、誰もが危険に晒されるって事になりませんか?」
「それは大丈夫……とは言い切れませんが、その術を扱えるのは、この世でも数人程度。勿論、それは秘術ですが、誰もが習えばできるようになる術でもないようです。
なので、よほどの事がない限り、魂名を知られる事などありません。」
「なるほど、だから、高明な祈祷師や僧侶に命名を依頼するのですね。その術が使えるから。」
「それはどうでしょう?魂名の事は基本言いませんから。太良 さんだって、今までこの事は知らなかったでしょ?」
「……あぁ……確かに。」
僕もひとまず安心しました。
が、安托士 が言っていた「ミツチに聞けば?」を思い出し、ヒヤッとしました。
おそらく、あの言葉は、僕にではなく、僕の中で封印されてる邪神ミツチの方だったのでしょう。
あれ?それって、あの時、返答次第では、僕が、邪神と同じ名前だって事が知られてしまったんじゃ……。
邪神ミツチの名前って、どれだけ怪異達の間で知られているのでしょう?まして、その文字まで知ってる……としたら?
だとしたら、邪神ミツチの知り合いに会うなんて、危険極まりない行為って事ですよね?
邪神ミツチは元水神。そして水神は、水属性。安托士 は、水辺にいたから、おそらく水属性。水大蛇も水属性。
……お師匠さんが、僕を単独で、水辺に近寄らせたがらなかったのって、水神の配下、つまり、水神ミツチの名を知る水属性の怪異と接触をさせない為?いや、敵対関係の怪異も知ってる可能性がありますよね?邪神ミツチにかけたはずの術が僕にかかってしまわない様に?
それこそ、僕に偽名をつけとけばいいのにとも思いますが、命名は呪であり、御守り。
魂名の読み方を晒すのは危険ですが、うっかりとは言え、邪神が僕に命名した名前でもあります。それは最強の御守りなはず。和尚様は、”ミツチ”と言う御守りを使った方がいいと判断されたのかもしれません。
『………で、その邪神は、寺に封印されているのなら、体内にいる方は、何者ですか?』
名前の事は解決しましたが、こっちの方がある意味問題です。
「寺に封印されているのは、邪神ミツチの人間に対する“復讐心“です。
いくら和尚様が凄いと言っても、所詮は人であり、侍従契約をしているのは全て妖怪。我々が助力をしても、神を丸ごと封印するなど不可能。
なので、“復讐心“の部分だけを封印し、残りは、ミツチの中に。」
残りって……。夕飯の残りじゃないんですから。そんなモノ残さないで欲しいです。
『僕の中に残したって……、大丈夫なのですか?』
「今まで大丈夫だったでしょ?」
『はい……。多分。』
崖から落ちた時、助けられてしまいましたしね。
「又、大人しく君と共存していくという契約なので、危険な事はないと思います。」
そういえば、太良 さんが、契約は守られてる……的な事を仰ってましたね。
『契約って……。』
「君が死病にかかっていた事は、聞きましたね?」
『はい。細胞が死んでいく病で、余命わずかだったと。』
「そうでしたね。邪神を君の肉体から追い出す事も可能でしたが、そうすると病の所為で君は死んでしまいます。
なので、邪神と交渉し、君が契約者となり、体内に留まってもらう事となったのです。肉体が滅びる寿命まで。」
そうなのですね。だから、僕はまだ生きてる。そしてその代償として、死後、僕は邪神に……。
「とにかく、ミツチは、和尚様が戻るまで、蓮林 村長の家で修行です。幸い、蓮林 村長は、基礎中の基礎の法術の達人。丁度、来月の昇級試験も控えてますし。しっかり叩き込んでもらうといいでしょう。」
『分かりました。』
茶徒 さんは微笑んで頷いてから、また真剣な表情に戻りました。
「因みに、蓮林 村長達も、圭亜 事件にミツチが関わっている事を知らないので、質問等しない様に。」
『はい。』
僕はそう答えてから、太良 さんに質問をしました。
『あの、最後に、一つ聞きたいんですけど。』
「……なんだい?」
太良 さんが、ちょっと緊張気味に僕を見ました。
『僕の……お父さん……って。』
太良 さんは困った顔をしてから、相談をする様に、茶徒 さんを見つめました。
茶徒 さんはしばらく考え込んでいましたが、ようやく頷いたので、太良 さんは、躊躇いがちに話し始めました。
「ミツチの父上は、私の母方の従兄だ。」
『従兄?』
僕は、少しがっかりしました。もしかして太良 さんが、僕のお父さんかと期待していたからです。
『では、今は……何処に?』
その質問に、太良 さんは顔を青ざめ、僕らから視線を逸らしました。茶徒 さんも困った顔をしています。
「それは……」
そう太良 さんが言いかけた所で、紗里 さんと、蓮林 村長が、箒を担いて戻ってくるのが見えました。
茶徒 さんは、挨拶をしてから、蓮林 村長に、僕の修行をつけてくれるようにと頼んでくれました。
そして、心配そうな顔をしている太良 さんと、「え?なんでミツチが?」っと質問攻めの紗里 さんを連れ、とっとと寺へ帰ってしまったのでした。
完全に、父親の事を聞きそびれてしまいました。
ですが、太良 さん達の反応からすると、あまり期待しない方がいい様な気がします。
翌日、八咫 にも、僕が崖から落ちたと言う話が耳に入ったらしく、心配して村まで駆けつけてくれました。
嬉しいですが、茶徒 さんの予想通り、八咫 への罪悪感がいっぱいで、僕は、いつもの様に接する事ができません。
幸い八咫 は、崖から落ちた時のショックがまだ残ってるんだろうと勝手に解釈をしてくれた様で、僕のぎこちない態度を怪しんだ感じはありませんでした。
けれど……、その所為なのか、その翌日も、そのまた翌日も、毎日毎日、八咫 は僕に会いに来るんです……。お見舞いと言って……。
その都度、激怒した茶徒 さんが、「試験勉強はどうした⁉︎」と強制連行をしに来るのですが、懲りた様子は全くありません。
又、茶徒 さんにお願いされたのでしょう、蓮林 村長も八咫 を追い返してはいるのですが、直ぐに、村に戻って来てしまって、僕と一緒に修行をしているんです……。
僕……、村にいる意味ないですよね?
「全く、あの高さから落ちて、怪我一つ無いなんて、奇跡だね。」
『「まぁ……。」』
それと幸いな事に、発狂した人が現れたとの知らせが入った為、
その人は真っ青な顔をした
所が、ぬか喜びをさせたのも束の間、
「参りましたね。和尚様が不在の時に……。」
「すみません……。」
「まぁ……ミツチの件は、遅かれ早かれ露見されるのは想定済みでしたし、その時の対策も考えていましたから、問題ありません。
ただ、飛天が現れるという情報に関しては、荒唐無稽過ぎて、和尚様のご判断を仰ぐしか……。寺に戻り次第、直ぐに
『はい……、お願いします。』
そう言いながら僕は、まだ顔色が悪い
当然の反応ですよね。僕自身ですら邪神だの飛天だの、ガッカリ家族だの、不幸増し増しの悪夢のような話を聞かされ、消化不良を起こしそうなのですから。
「とりあえずミツチは、和尚様が戻るまで、
『え?何故ですか?』
「寺にいたら、ミツチの性格上、
『…………。』
「また
幸いな事に、ミツチが生贄にされ、邪神に憑依された等の詳細を知っているのは、和尚様と、私を含めた当時の特級、上級妖術士。そして
一般的に知られているのは、領主の孫が生贄にされたらしい……っという程度。
よって、黙ってさえいれば、誰かが気がつく事など決してないのです。」
あの事件によって廃都となるまで、皆さんが、頻繁に行き来をしていたのは容易に想像できます。だとしたら、家族や知り合いがいても、何もおかしくはありません。
11年の時を掛けて、どうにか辛い過去から立ち上がってきたのに、こちらの都合と罪悪感を軽減する為に謝罪するのは、悪戯に被害者を傷つけるだけ……と言う事なのでしょう。そして、僕には、その責任を取る術を……持ち合わせていない……。
「ミツチはまだ4歳だったから、当時の知り合いが今のミツチを見たとしても、気づかない。それに、名前も違うから、何も心配はないよ。」
『もしかして……、僕の今の名前って、偽名……ですか?僕の名前だけカタカナですし……。』
「”ミツチ”という名は、偽名ではありません。
かと言って、生まれた時の命名でもありません。
生贄として、水神に捧げられた時、命名、すなわち”命の名”も捧げてしまったからです。」
僕は、首を傾げました。
『それは……僕の名前を捧げてしまったから、元の名前が使えないと言う事ですか?』
「そういう訳ではありません。
命名とはどの様なものか、和尚様の授業で習いましたか?」
『はい。
命は、肉体が滅びるまでの間の存在。なので命名とは、その肉体につけた名……ですよね?』
「そうです。
では、生贄を捧げる時、命名も捧げる場合の意味は?」
『えっと……。
生贄として、肉体だけを捧げる場合は、単に供物を意味します。
ですが、命名も捧げる場合は、受肉してもらう事が目的です。
おそらく
命名も捧げたのは、受肉する時の術に必要だから?』
「その様な所ですね。
基本、受肉も憑依も、外来の魂と在来の魂の二つの魂が、肉体を共有してしまった状態の事を言いますが、憑依は、ずっと共有状態である事に対し、受肉は、強い方の魂が、もう一つの魂を徐々に吸収し、最後には完全に乗っ取ってしまう状態を言います。
我々が一番恐れたのは、邪神が、君の魂を吸収した完全受肉状態。
それは歩く厄災となり、人々は、永遠に怯えて暮らす羽目となる。なぜなら、神は、肉体を不老不死にできるからです。
駆けつけた1000人もの優秀な祈祷師達は、邪神の怒りを鎮める為に、盛大な祈祷を行いましたが、徒労に終わりました。
残る手段は、封印。
ですが、肉体を封印する事など出来ません。かといって、邪神を永遠に監禁できるような技術は現代にはない。となると、まずは邪神を肉体から追い出し、霊体、神霊に戻す必要があります。
その方法は、“命名“を元の持ち主に返す事。
祈祷師達は、一生懸命交渉をしたようですが、即却下。
なら、こっちで持ち主の名を勝手に変更してしまおう!って事で呼ばれたのが、君の正式な名付け親、
『え?和尚さんが?僕の?』
その質問に答えたのは、
「普通、命名は、祈祷師か僧侶がするんだ。
ほら名前って、ある意味、呪だろ?
今も当時もだけど、
だから、この辺りの人達の大半は、
……プライドの高い祈祷師が、地元の妖術士に協力依頼したなんて、おかしいと思ってました。そういう事でしたか……。
『ですが、邪神に知られないよう、勝手に名義変更をするだなんて、可能なのでしょうか?』
「無理です。
相手は、邪神とはいえ神は神。まして、体内にいるのですからコッソリなど不可能。
加えて、邪神は、ずっと大人しく我々の相手をしてくれる程、冷静ではなく、むしろ暴れまくっていたので、まずは、結界を張り、その場に留める事から始めなければなりませんでした。」
ふと僕は、
『
「そうです。当時5歳だったので、空気が読めないのは仕方がないとしても、無鉄砲もいい所でした。
当時から、第六感に優れていた
もちろん、祈祷師も、我々も、君に働き掛ける方面からも試してはいましたが、君は怯えるばかりで、ますます邪神の影に隠れてしまったのです。ですが、
歳が近い子供同士だったからなのでしょう、君は、
まぁ……結局、邪神を説得する事はできなかった様ですが、その僅かな間だけ、邪神の動きを止め、注意を逸らしてもらう事ができました。
で、その隙に我々は、君の周りに結界を張り、邪神をその場に留めさせる事に成功したのです。」
出会った時から、
「話を、名付けに戻しましょう。
どのような”文字”で書くかは、本人、すなわち肉体に伝える必要はありませんが、どのように“発音“をするのかは、“呪術“に必要な工程の一端なので、本人に伝えなければなりません。」
『では、名を変えた時点で、バレてしまうのですね。でも、文字さえバレなければいい。そう言う事ですか?』
また
「先程も言ったように、相手は神。
どんなに難しい漢字で書こうが、異国の言語で書こうが、その文字は直ぐに見破られてしまった。
そして、本来なら、本人が命名の放棄をしない限り、名付け親にしかできないはずの命名の変更を、神の能力で、自分の名に変更してしまったのです。
ですが、和尚様は諦めませんでした。いろんな名前の名義変更を何百回、何千回、何万回もひたすら繰り返し、三日三晩も続けられました。」
『ええっ⁈』
「一見、それは非常に馬鹿馬鹿しく、愚かな行為と思われましたが、それは、和尚様の作戦。
もう、邪神も祈祷師達も呆れ返り、四日目に突入しようとした頃、和尚様は君に、邪神と同じ”ミツチ”という名を、新たに名付けました。もちろん漢字も同じで。」
一番、簡単に見破られそうな名をつけるなんて、どうしてでしょう?
「名付ける、変更するの作業に飽き飽きし、苛立っていた邪神ミツチは、うっかり自分の名で、肉体の名義変更してしまった。基本的な事に気づかずに。
その結果、邪神ミツチは完全受肉状態となる前に、和尚様と我々によって、剣に封印されてしまった。
寺で祀られている祠にある剣です。君達の掃除担当の。」
あの祠……?ますます分かりません。あそこに封印されているのなら、僕の中に居るのは誰でしょう?
それに、基本的な事とは?
『あの、何故そうなるのですか?同じ名前でも、別個体なのですよ?』
「どうやら、君も基本を忘れてしまったようですね。」
そこには、“
「命名に使われる“読み方“と“文字“。“読み方“は、肉体の持ち主の名。この家では、“不動産登記の名“に該当します。
で、“文字“は家に入る為の“鍵“を指しますが、ここでは分かりやすく“合言葉“にしましょう。」
「分かりました!“命名“も捧げたのは、入る為の“合言葉“が分からなければ、肉体に入れないからですね?」
苦笑しながら
「正解です。
和尚様と、邪神は、登記の名義変更と、その合言葉の変更をひたすら繰り返していた訳なのです。」
「いや、待って下さい。それはおかしいです。もう邪神は家の中にいるんですよ。和尚様がいくら合言葉を変えようが、もう関係ないじゃないですか?相手にする必要がありません。」
「そうですね。
でも、その家の扉が“合言葉“によって勝手に開けられ、ハエや蚊が何十匹も入れられたらどうです?」
「それは……鬱陶しいですね。追い出して、扉を閉めたいです。」
「でしょ?合言葉を知られると言う事は、扉が開けられると言う事。つまり、呪われやすいと言う事です。」
「ですが、相手は神ですよ?失礼かもしれませんが、いくら和尚様や一流妖術士が大勢でやったとしても、所詮は人。人がかけた呪いになどかかるのでしょうか?」
「大したダメージは与えられないでしょうが、先程、例に挙げた様に、鬱陶しいと思わせる程度の呪いなら可能でした。だから、苛立たせる事ができたのです。」
「なるほど……。」
一緒になるほどと納得している僕に向かって、
「さて、ミツチ。君が忘れた基本を思い出しましたか?」
考えてから、僕は首を横に振りました。
『すみません。まだ分かりません。
……家が肉体だとするなら、その家の住人……親である“
生贄で命名も捧げた事で、僕は、肉体を放棄したから、邪神は、僕の体を所有し、依代にする事ができた。
つまり、この家は、“
で、
…ん〜…やはり、名前を息子と同じにしたって、家の名義は息子さんである事に変わりないですよ。』
「では、ゆっくり、最初から考えてみましょう。
この家は、
で、正式に役場で手続きをしたので登記は“
この家は、
「今度は、
『……
「そうです。では、また
『
「その通り。
それでは、今度は
『……息子さんの方の“
「では、息子の
『えぇっ⁉︎ それは…… 息子さんの
自分名義だったのを変更と仰ってるわけですから……、もう一人の“
同意を求めるように僕が
「そうなります。
ま、実際、役場ではもっと色々な手続きが必要でしょうが、あくまで例えで、術の話なので、突っ込まないで下さい。
和尚様が最後に行ったのは、命名の変更ではなく、君の魂の名。魂名の変更。
魂名を変えただけなのに、邪神は、うっかり自分の術で、肉体の名義も合言葉も君の名に変更してしまったのです。」
『ですが、邪神が、直ぐに気づいて変更って事にはならないのですか?読み方も、文字も知ってるんですよ?』
「無理だった様です。その証拠に、和尚様と我々で封印術をかけ、無力化する事ができたのですから。
邪神といえど神。神の術は、自身でも解くのには手こずったようです。」
『名付け親だったから、和尚さんは、神の術を使った名義でも変更をする事ができた。けれど、邪神は名付け親じゃないから、自分の術であっても、変更するのは困難だった……という事ですか?』
「そうです。先程も申しましたが、そもそも命名の変更ができるのは、名付け親ただ一人。邪神が変更できたのは、神の術という、強行をしたからです。」
それで、僕の名は、邪神と同じ“ミツチ“……。
『漢字を教えて頂けないのは、何故ですか?』
「通常、術者が子に名をつける時、魂名を術で調べます。
魂名は、現世だけの命名とは違い、前世からの名であり、死んだ後も、来世でも同じ。君の時の様に、よほどの事がない限り変わりません。
魂名に呪いがかかれば、現世だけで終わらず、来世でも続いてしまう。しかも、魂名が使われた呪詛は、命名にかけられた呪詛の倍の効果。つまり、魂名とは、魂を晒すようなもの。全裸と同じ状態。
だから、命名する時は、魂名を調べ、魂名とは全く違う名を授けなければならないのです。」
僕は、ごくりと唾を飲み込みました。
『今の僕は、……命名と魂名が同じ。だから、漢字を教えられない……という事ですか?」
「そうです。
君の本当の漢字名を知るのは、和尚様と邪神だけ。
危険を避けるには、誰にも教える訳にはいかないのです。例え、本人が望もうと。」
「いや……。それって不味くないですか?」
心配そうな顔で、
「だって、術を使えば、魂名が分かるのですよね?だったら、ミツチに限らず、誰もが危険に晒されるって事になりませんか?」
「それは大丈夫……とは言い切れませんが、その術を扱えるのは、この世でも数人程度。勿論、それは秘術ですが、誰もが習えばできるようになる術でもないようです。
なので、よほどの事がない限り、魂名を知られる事などありません。」
「なるほど、だから、高明な祈祷師や僧侶に命名を依頼するのですね。その術が使えるから。」
「それはどうでしょう?魂名の事は基本言いませんから。
「……あぁ……確かに。」
僕もひとまず安心しました。
が、
おそらく、あの言葉は、僕にではなく、僕の中で封印されてる邪神ミツチの方だったのでしょう。
あれ?それって、あの時、返答次第では、僕が、邪神と同じ名前だって事が知られてしまったんじゃ……。
邪神ミツチの名前って、どれだけ怪異達の間で知られているのでしょう?まして、その文字まで知ってる……としたら?
だとしたら、邪神ミツチの知り合いに会うなんて、危険極まりない行為って事ですよね?
邪神ミツチは元水神。そして水神は、水属性。
……お師匠さんが、僕を単独で、水辺に近寄らせたがらなかったのって、水神の配下、つまり、水神ミツチの名を知る水属性の怪異と接触をさせない為?いや、敵対関係の怪異も知ってる可能性がありますよね?邪神ミツチにかけたはずの術が僕にかかってしまわない様に?
それこそ、僕に偽名をつけとけばいいのにとも思いますが、命名は呪であり、御守り。
魂名の読み方を晒すのは危険ですが、うっかりとは言え、邪神が僕に命名した名前でもあります。それは最強の御守りなはず。和尚様は、”ミツチ”と言う御守りを使った方がいいと判断されたのかもしれません。
『………で、その邪神は、寺に封印されているのなら、体内にいる方は、何者ですか?』
名前の事は解決しましたが、こっちの方がある意味問題です。
「寺に封印されているのは、邪神ミツチの人間に対する“復讐心“です。
いくら和尚様が凄いと言っても、所詮は人であり、侍従契約をしているのは全て妖怪。我々が助力をしても、神を丸ごと封印するなど不可能。
なので、“復讐心“の部分だけを封印し、残りは、ミツチの中に。」
残りって……。夕飯の残りじゃないんですから。そんなモノ残さないで欲しいです。
『僕の中に残したって……、大丈夫なのですか?』
「今まで大丈夫だったでしょ?」
『はい……。多分。』
崖から落ちた時、助けられてしまいましたしね。
「又、大人しく君と共存していくという契約なので、危険な事はないと思います。」
そういえば、
『契約って……。』
「君が死病にかかっていた事は、聞きましたね?」
『はい。細胞が死んでいく病で、余命わずかだったと。』
「そうでしたね。邪神を君の肉体から追い出す事も可能でしたが、そうすると病の所為で君は死んでしまいます。
なので、邪神と交渉し、君が契約者となり、体内に留まってもらう事となったのです。肉体が滅びる寿命まで。」
そうなのですね。だから、僕はまだ生きてる。そしてその代償として、死後、僕は邪神に……。
「とにかく、ミツチは、和尚様が戻るまで、
『分かりました。』
「因みに、
『はい。』
僕はそう答えてから、
『あの、最後に、一つ聞きたいんですけど。』
「……なんだい?」
『僕の……お父さん……って。』
「ミツチの父上は、私の母方の従兄だ。」
『従兄?』
僕は、少しがっかりしました。もしかして
『では、今は……何処に?』
その質問に、
「それは……」
そう
そして、心配そうな顔をしている
完全に、父親の事を聞きそびれてしまいました。
ですが、
翌日、
嬉しいですが、
幸い
けれど……、その所為なのか、その翌日も、そのまた翌日も、毎日毎日、
その都度、激怒した
又、
僕……、村にいる意味ないですよね?
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