第5話 正体不明な怪異
文字数 13,135文字
思いの外、あっさり呪具(木偶)の契約者を発見したものの、それを明部 さんや大旦那様達に伝えるべきかどうか、僕らは、ご用意して頂いた客間で悩んでおりました。
「この木偶だけ偽物だ。」
八咫 が乱暴に、阿奈 様の名前が書かれた木偶を、机の上に放り投げました。
『阿奈 様の木偶だけ、普通の墨でお名前が書かれますね。
ですが、他の方々の木偶は、呪術に必要なご自身血液でお名前が書かれています。
そして、その血液の持ち主であり契約者全員が、阿奈 様以外の鹿野宮 家の方々。どう言う事でしょう?』
「それは、阿奈 って女が術者って事だろ?自分の偽物を作ったのは、バレた時、自分も被害者だと装う為だろうな。アホな素人が考えそうな事だ。」
『ですが、呪具に使う血液はどうやって入手したのでしょう?
いくら家族でも、「ちょっとちょうだい?」と頂ける様な代物ではないと思いますが。』
「そんなの、金を積んで、医師や看護師から買ったに決まってんだろ?」
『ですが、明部 さん曰く、この貴族社会では、お金はあまり価値がないと……。』
「じゃあさ、親父に頼んで、便宜を図ってやるとか言ったんじゃねーの?とにかく、あの女が一番怪しい。」
僕が、阿奈 様の木偶に追跡術をかけた時、驚いた事に、何も起こりませんでした。もうお亡くなりになられている方々の木偶ですら、彼らの匂いがまだ残るお部屋に辿り着いたのにもかかわらず。
そんな僕をからかった八咫 がやってみても何も起こらず、最後にお師匠が行った時も同様でした。
そこで、阿奈 様のご様子を見に行ったのですが、阿奈 様は、僕らを見た瞬間「何で穢らわしいゴミ糞なんかがここにいんだよ!」「ドアノブに触んな!腐んだろ!」「勝手に息すんな!」「ゴミ山に帰れ!」「死ね!」っとブラシやら、カップやら、ありとあらゆる物を投げながら、ヒステリックに僕らを罵っていたのです。
『素敵な性格とは思えませんが、性格の悪さは証拠になりません。それに、怪しい怪しいって、お隣のご主人の浮気を疑うお隣さん的なノリで、言うものではありませんよ。』
「その辺の噂好きな隣人と一緒にするな。俺の審美眼は、今日の天気ぐらい、よく当たるんだ!」
八咫 は、そう断言しながら、自分の大きなどんぐり眼を指でさしました。
『今日の天気ぐらい、誰だって空を見れば分かりますよ……。』
「あの女、自分の望みを叶える為なら、平気で家族の命さえも差し出しそうじゃね?」
『例えそうだったとしても、訳が分からない状態である事には変わりありません。
今現在、ご家族はご無事……とは言い難いですが、契約者なのに何故生きているのでしょう?呪いは終わっているのに。』
しばらくうーんと考え込んでおりますと、突然八咫 が、「分かった!」っと叫び、ニンマリとしました。
「呪いが終わってるんじゃない。強制終了させられたんだ。呪い返しで!」
『は?呪い返し?』
「だから、あの女以外の家族が、怪異に悩まされてるんだ。」
『意味が分かりませんが?』
「いいか、あの女がさ、誰かを呪ったんだよ。呪いの専門家、呪禁師を雇ってさ。
呪禁師は血を要求した。怪異と契約には血が必要だからって。
けど、契約者は術が完了したら、契約した怪異によって殺され、その魂は、契約した怪異の贄になっちまう事も説明された。
しかし、呪う対象は7人もいる。闇市から血を買う事もできるが、いくら金持ちでも、7人分も買えないはずだ。なんせ、一人分の血の値段は、屋敷一軒分だからな。あったとしても、そんな大金を動かしたら、家族にバレんだろ?」
『まぁ、そうですね。闇市は、現金でしか取引致しませんから、宝石で支払う事もできませんし。』
「そうなんだよ。まして、鹿野宮 家の紋章が入ったネックレスや指輪なんか、おっかなくて誰も買わねぇだろ?
で、あの女は、自分の血は使いたくないから、主治医か、看護師をそそのかして、家族の血液を入手した。
その後は、呪禁師に手伝ってもらって、この木偶を作り、庭の池にいた怪異を召喚し、契約を結び、その7人の誰かさんを呪ってもらう事にした。」
『ふむふむ。』
「しかーし!その誰かさん達は、自分が呪いにかかってるって事に気づいた。
そんで、そっちも呪禁師を雇うかなんかして、呪い返しをした。
だから、契約者にさせられた家族が呪い返しを受ける羽目になり、怪異に悩まされる様になった。
そして、あの池の怪異も、同じ様に呪い返しによってヤラれ、消滅した。よって、もうここにはいない!」
『なるほど!呪い返しは、倍になって返ってきますからね。
池の怪異が大物なら、そのダメージも命取りになる程。
池の怪異が、倍返しとなった自分の術にヤられて、消滅したと言う説の方が、長年暮らした縄張りを捨てる説よりあり得ます。怪異は、滅多に縄張りを捨てませんから。
辻褄は合ってますね。八咫 にしては。』
「八咫 にしては…は余計だ!
お師匠!さっさと、あの女を問い詰めて、白状させちまおうぜ。」
お師匠さんは、僕らの会話すらも耳に入っておられなかったご様子で、ぼんやりと天井を眺めていました。
「お師匠っ⁉︎」
「え?あっ、なんだ?便所か?」
「ちっげーよ。阿奈 って女を白状させようって話だよ。耳が遠くなってんのか?」
『八咫 。失礼ですよ。ボケが始まっているのだとしたら、かわいそうです。』
「2人共……。お気遣い感謝するっ!」
八咫 も僕も、お師匠さんからゲンコツを頂いてしまいました。気を遣ってあげたのに……。
「呪い返しかどうか判断するのは、今夜、起こるであろう怪異を見てからだ。」
「なんでさ?」
「ミツチが言う様に、証拠がない。それに、憶測だけで決めてかかれば、大事な事実を見落としてしまう。和尚が、いつも言ってんだろ?」
「だから〜!そんな事、あの女に直接聞きゃいいじゃんか?
それに、これから起こる怪異を見た所で分かんのかよ?怪我人が出るだけだろ?殺されたら、どう責任取んだよ?」
「阿奈 様に聞いてはみたいが、行ってもさっきみたいに追い出されるだけだ。」
「じゃあ、大旦那様に、あんたの孫娘が怪しいって言ってやればいいじゃん。」
「それでは祈祷師達と同じ二の舞を踏む事になると思う。」
「は?」
『どういう事ですか? 祈祷師達は、池の水の事で、大旦那様と口論になったのですよね?』
「池の水を抜くかどうかで揉めたかは、あくまで明部 さんの推測だ。本当の事は分かっていないだろ?」
「まぁ……確かに。」
八咫 と僕は、頷きました。
「祈祷師連中はムカつく野郎ばかりだが、腕だけは一流だ。俺らが見つけ出せた事を、奴らが見つけ出せなかったはずがない。」
「つまり……、木偶も見つけてたって事?」
「仮に、俺らが来た時、池は埋め立てられていなかったとする。そして、池の中から、呪源を感じたとする。どうしてた?」
八咫 と僕は、互いの顔を見合わせました。
「池の中へ…飛び込んだ?呪具を探しに?」
『そうですね。大きな池でしたが、深さは僕の腰程度でした。それに、高い鯉がいたと護衛士の方が仰っていたので、水は綺麗だったと思います。』
「うん、そうだな。池の中で木偶を見つけたとしたら、俺らが推測したように、家族の人数分だけあるだろうと踏んだと思う。」
お師匠さんの言葉に、僕らは頷きます。
『それで、できるだけ早く発見する為に、池の水を抜く事を大旦那様に頼んだかもしれませんね。』
「俺だったらそうする。……それと、俺達と同じ様に、本物の木偶と、偽物の木偶を見つけたとしたら?」
「……契約者の名前と、阿奈 様の木偶だけ偽物だったと言う。」
八咫 の答えに、お師匠さんが軽く頷きました。
「どう言う伝え方をしたのかは知らないが、霊感でしか分からない証拠だけで孫娘が怪しいと言ってみろ。霊感が無い人からしたら、胸糞悪い冗談だと思っただろう。」
「うぅっ……。」
お師匠さんが危惧されるのは当然です。
怪異絡みでよく依頼人と揉めるのは、依頼人の身内や恋人、親友を疑う事。当然本人もシラを切るので、霊感以外で、誰にでも分かる様な物的証拠を見せなければ、理解を得れない場合が多いのです。
『では……池を埋め立てたのは、これらの木偶を埋める為?』
「それは分からん。
だが、明部 さんが言う様に、池の水を抜くかどうかで揉めたとするなら、その後、池を埋め立てる為に、水を抜かせたのは矛盾してるだろ?
この木偶には、もう呪力はない、ただの板切れ。池の怪異ももういない。そこまで分かってたから、水を抜いて、埋め立てるなんて無謀な事ができたと思わないか?
池から邪気を感じるだけの情報だったなら、池は放置して、自分達は別邸かどっかに引っ越すはずだ。」
僕らは、首を縦に振りました。
『ですが、護衛士の皆さんは、木偶の事を知らなかった様子でしたよ。賭けをしたぐらいですから。』
「こんな小さな木偶だ。散歩の途中で、こっそり放り込む事ぐらい簡単だろ。
ま、今の話も、あくまで俺の仮説だ。とにかく、あれこれ憶測だけで決めつけるのはまだ早い。」
お師匠さんはそう言うと、阿奈 様の木偶だけを手に取り、じっと見つめていました。
その晩、お休みになられている様子を拝見する事となり、お師匠さんは、大旦那様の唐路 様。八咫 は、若旦那様の四男唐里 様を、僕は、若旦那様の唐久 様を見守る事となりました。
「明部 のオッサンから、今夜は怪異が起こるかもしれないから、警護を厳重にと言われた。なんで怪異が起こるかどうか分かるんだ?」
立派な甲冑を着た晝馬 さんが、広間で話しかけてきました。
どうやら、晝馬 さん達も、麻薬によって怪異が抑えられている事を知らない様です。
「それは、長年の経験からですよ。」
お師匠は、動揺を見せな様に答え、今夜は怪異を観察して見極める旨を伝えました。
「そうか。とにかく、一晩中旦那様方の部屋にいるつもりなら、部屋の中には、何も中に持ち込んで欲しくない。特に夜は。」
「当然でしょう。分かりました。」
「必要な道具があれば、廊下に置いとて、必要な時だけ、俺らの許可を得て持ち込んで欲しい。」
「はい。」
「最後に、あんた方を疑ってるわけじゃないが、部屋への出入りの都度、身体検査を受けて欲しい。」
随分と、警備が厳重ですね。ですが、国王よりも権力があると囁かれている要人ですから、暗殺を危惧されるのは当然かもしれません。
僕は、いざという時の為の呪術道具類が入ったカバンを廊下に置き、身体検査を受けてから、唐久 様のお部屋に入りました。
唐久 様は、47歳と伺っておりましたが、100歳近い老人の様に酷くやつれ、髪も抜け落ち、骸骨の様に目が落ち窪んでおりました。
そんな唐久 様は、喋るわけでも、眠るわけでもなく、ずーっとお布団の上で横になられたまま天井を見上げ、ブツブツと呟いておられました。
麻薬の後遺症でしょうか?それとも怪異によるせいでしょうか?近寄って、何を仰っているのか伺いたかったのですが、唐久 様の周囲には、僕を害虫のように睨んでいる看護師達が、5、6人ほど常にいらっしゃいますし、僕が身動きをしただけで、何かの薬品の瓶を握りしめて構えます。投げるつもり……でしょうか?
なので、僕は部屋の隅でおとなしく膝抱えをして座っている事にしました。
それにしても、この部屋……何もありません。家具すらないのです。
あるのは、唐久 様が寝ておられるお布団と、看護師達が扱っている医療器具。手持ち照明。それと水差しとコップ。それだけです。
おまけに、窓ガラスは全て外され、代わりに分厚い木の板が打ち付けられております。それに加え、扉は鉄の扉。僕らにあてがわれた客間は、普通の木の扉に、高価そうな家具が設置されておりましたのに。
この部屋は、まるで……独房です……。
「ちょっと、あなた。廊下で待機してて頂けない?目障りなのよ。」
30前後の看護師の一人が、見下しながら言ってきました。他の看護師達は、意地悪そうにクスクス笑っています。
『ですが、僕の仕事は、ここで唐久 様のご様子を拝見する事なので。』
「その唐久 様の、お目障りになると言ってるの!」
「邪魔だと言っているのが分からないのか?」
若い男性看護師が凄んできました。
ここの家人の皆さんは、明部 さんのご指導がきちんとされているせいか、僕らに対して、差別的な態度は微塵も見せず、客人として丁寧に扱ってくださいます。
護衛士の方々も、最初は見下す様な態度を取っておりましたが、晝馬 さんの僕らに対する対応が変わってからは、気安くしてくれました。
なので、うっかり忘れておりました。ここ貴族街では、平民は差別の対象でありあり、忌み嫌われている事を。
看護師達は、僕に酷い言葉を並べ立て、当然の権利とばかりに楽しんでいるご様子です。
泣きはしませんが、胸がグッと苦しくなり、脳のサイドがジーンとしてきます。逃げ出したいですが、仕事なので、逃げ出すわけにはいきません。
(あと少しだけだ。少しだけ。あと10分もすれば、看護師達は護衛士達と交代する。それまで耐えればいいだけ。)
「ちょっと!平民のくせに無視してんじゃないわよ!」
一番若い看護師が、僕の耳を強く引っ張りました。
さほど痛くはありませんでしたが、心が痛いです。
「ど平民はシラミとノミの巣窟なの!若旦那様にうつったらどうするつもり?害虫商店!」
『僕には、シラミもノミもいません。ちゃんとお風呂にも毎日入ってます。』
「知ってる?ゴキブリは、どんなに綺麗にしてもゴキブリ、蝶にはなれないの!わかった?死んでから出直してきなさい!平民!」
カッときました。こんな性格が醜い人達が、僕ら平民よりも上等な存在だと言うのでしょうか?
ですが、僕のやり場のない怒りは、次の騒動で、直ぐに沈静化されました。
バチんッ!!!
叩く音が部屋中に響きました。
一番若い看護師さんが、涙目で赤く腫らした頬を、手で覆ってます。そして、ご自身自身何が起きたのか分からないと言った顔で、平手打ちをした一番年配の女性看護師を見つめておりました。
「なっ⁈」
「桐絵 、出て行きなさい!クビです!」
「は?な、なぜですか?」
「クビです!早く出て行きなさい!」
「この平民に教育してあげただけじゃないですか?平民のくせに……」
バチんッ!!!!!!
年配の看護師は、桐絵 さんにもう一発平手打ちをしました。
「いい加減にしなさい!」
桐絵 という一番若い看護師は、同僚達を見渡しますが、彼らは彼女を庇う様子は全くなく、真っ青な顔で顔を背け、そそくさと持ち場へ戻ってしまいました。
一番年配の看護師は、鬼の形相で桐絵 さんの腕をグイッと強く握ると、廊下へと引っ張り、出て行ってしまいました。
なんだったのでしょう?僕を庇った……?いえ、そうではないと思います。僕が看護師達に罵詈雑言を浴びせられていた時、あの年配の看護師さんも一緒になって笑っておりました。
桐絵 さんが、僕の耳を引っ張ったから?
ですが、流れ的にクビにするほどの事でしょうか?
年配の看護師さんと桐絵 さんと入れ替わりに、3人の甲冑をまとった護衛士達がやって来ました。
「何があったんだ?」
30代半ばぐらいの護衛士の一人が、看護師の方々に聞きました。
ですが、看護師の方々は相変わらず顔を真っ青にしたままで、護衛士の方々をチラリと見ただけです。そして、震える手で荷物を全て片付けると、そそくさと出て行ってしまわれました。
戸惑いがちに、護衛士の方々が、相変わらず空な目で天井を見上げ、ボソボソ呟いておられる唐久 様にご挨拶をし、その後、部屋の隅で呆気に取られている僕に顔を向け、ニッコリしました。
「大丈夫か?あいつらに虐められたんじゃないか?」
30代半ばぐらいの護衛士の方が、出て行く看護師達を指差しました。
『……いえ……。』
「そうか?今にも泣きそうな顔だぞ?」
そう言われた僕は、急に恥ずかしくなり、両手で顔をゴシゴシ擦りました。
「嘘だ嘘!だが、図星だったみたいだな。気にするな。あいつら、俺たち相手でも同じ態度なんだ。」
皆さんが、ガハハハっと豪快に笑いました。
うっ嘘か〜……。騙されました。
「自己紹介が遅れたな、俺は班長の大和 だ。で、こらの美人さんが羅須 。で、この若造が紗雨 だ。」
紹介をされた2人が、優しく微笑んで、ペコッと軽く頭を下げました。
『よろしくお願いします。ミツチです。まだ、見習いですが、がんばります。』
僕は、お師匠から言われた事を、事細かに説明しました。
「つまり、俺達は、普段通りでいいんだな?」
護衛士の皆さんは、部屋中を隅々まで見回り、看護師の方々が忘れ物をしていないかを確認し、最後に、大和 班長が、重い鉄の扉を閉め、鍵をかけました。
「念のため、鍵はかけるが、仲間達はいつでも飛び込んで来れるよう廊下で待機してるから、安心してくれ。」
『はい。』
「それにしても何があったの?若い子……泣いてたけど。」
桐絵 さんと、そう歳が変わらなさそうな羅須 さんが、声を低めて聞いてきました。
『僕にもさっぱり……。』
僕は、先ほどの事を手短に話しました。羅須 さんと紗雨 さんは、驚き、僕同様に「クビにするほど?」と首を傾げておりました。
が、大和 班長だけは、ギクっとしたお顔をされ、慌てる様に話を中断させました。
「ほらほら、お前らくっちゃべってる場合じゃない!仕事をしろ!」
「え?大和 班長、なんか知ってるんすか?」
「紗雨 。もう一度、点検しろ!点検!」
「教えてくださいよ!」
「うるさい!今夜はアレが現れるんだ!緊張感を持て!そうだ。ミツチ、ミツチは何をする事になってる?アレが現れたら。」
僕も、クビの原因が気になりましたが、緊張感を持たなければならないのは事実です。
『僕は、観察をする事しか言われてません。あ、一応、お師匠さんから、お師匠さんが術をかけた縄を預かってます。もう一人の唐久 様を拘束できた時に、使って欲しいそうです。今は廊下の僕のカバンの中ですが。』
「そうか。ありがとう。」
『ところで、いつもはどうやってオリジナルの唐久 様を、もう一人の唐久 様から守られているのですか?お見受けした所、皆さんも手ぶらな様ですが……。』
「あぁ、怪異とはいえ、両方唐久 様だし……。それに……」
大和 班長がそこまで言いかけた所で、ガタガタ!っという音がし、振り返ると、唐久 様が眠ったまま痙攣されておりました。
「早速、始まったぞ!」
班長の大和 さんが、急いで唐久 様の頭を横向きにし、後ろへ逸らしました。
舌を噛まないように、布を口の中に入れたりしないの?っと思いましたが、後で聞いた話では、頭を横向きにしたのは、吐いた時、それを詰まらせない為だそうです。また、口の中に何かを入れるのは、かえって詰まらせる可能性があるから危険だと。
『唐久 様!唐久 様!』
僕は、暴れる唐久 様の腕を抑え、大声でお名前を呼びました。が……。
「ダメだ!名前を呼ぶな!それに、抑えるのも止めろ!」
『えっ⁈』
「刺激を与えるのは逆に、痙攣を長引かせる。」
『で、でも、大和 班長……。』
「大丈夫よ。ミツチ君。気持ちは分かるけど、私達にできる事は見守る事。それに、あと少しすればおさまるわ。」
その間、僕は、あわわと狼狽える事しかできませんでしたが、羅須 さんがおっしゃっていた通り、3分程度で痙攣はおさまりました。
……余計な事をしてしまいました。お師匠さんは、それが分かっていらしたから、「観察だけ」と指示をされたのかもしれません。指示を速攻破っただけでなく、お邪魔をしてしまうなんて……。
お一人様反省会を脳内でしていると、明部 さんが仰られていたように、若旦那様の唐久 様の体から、唐久 様2号がすーっと現れました。
「出たぞ!紗雨 。廊下で待機してる連中を呼べ!」
「はい。大和 班長。」
紗雨 さんが走って出ていくと、直ぐに30人ほどの護衛士達がドタドタと現れ、再び鉄の扉には鍵がかけられました。
準備万端って事ですね。ですが、多すぎないですか?確か、明部 さんの時は、たった3人で抑え込んだと伺いましたが。
唐久 様2号が、宙に浮き、僕等には目もくれず、寝てる唐久 様1号に向かってぶつぶつと呟き始めました。ですが、その声は次第に大きく、激しくなり、明らかに暴言を吐いております。
「この卑怯者!お前なんか、生きる資格などない!死ね!」
寝ておられる唐久 様1号は、涙を流し、唇を振るわせながら、寝言で「ごめんなさい」をずっと繰り返しておられます。
2号様の正体を探ろうと、第六感を研ぎ澄まし、宙に浮いている唐久 様2号を見つめました。
もし、呪い返しだった場合、呪いをかけた張本人(術者)又は怪異が見えるかもしれないからです。
『う〜……ん。何も視えません。…………えっ?まさか……。』
お二人の唐久 様の間には、白く光る生命線が見えました。そして……、双方のおへそに繋がっております。
『これって……呪い返しでも、呪いでもなく、自身の生き霊……離魂体 ⁈』
宙に浮いる唐久 様2号は、暴言を吐きながら次第に下へ降りてきました。
「降りてきたぞ!全員唐久 様をお守りしろ!」
大和 班長がそう号令をかけると、護衛士達全員が、寝ておられる方の唐久 様1号をぐるりと2列で囲み、中央の列は、ラグビーのスクラムの様に唐久 様1号を覆い囲みました。
生き霊の唐久 様2号は、護衛士や僕らには目もくれず、真っ直ぐ唐久 様1号だけを見つめ、護衛士達の人壁の中へ突っ込んできました。
生き霊なので、すり抜けるのかと思っていましたが、唐久 様2号は、外側にいる護衛士達に体当たりをし、3人も弾き飛ばしてしまいました。
『嘘!ガッツリ触ってる……。しかも凄い力。離魂体 は、幻影。他人には触れられないはずなのに……。』
その後も、唐久 様2号は、立ちはだかる護衛士達の壁を突き抜けようと、何度も何度も体当たりをしてきました。
その度、3、4人の護衛士達が吹っ飛ばされてしまいますが、護衛士達もただ吹っ飛ばされているだけではありません。
予めこうなった時の為に、訓練をされていたのか、吹っ飛ばされた護衛士を後列の仲間達が受け止め、床や壁に叩きつけられないよう工夫されておりました。
人壁も、何度崩されても、数の多さによって直ぐに修復され、隙間が出来にくくなっておりました。
なるほど…それで30人も呼んだのですね。ですが、朝まで持つでしょうか?
お師匠さんからは、何もするなと命じられたおりますが、念のため、廊下のある僕のカバンの中には、結界の道具も入っております。
結界を……張った方が良いでしょうか?
あっ、でも、唐久 様1号に結界を張ってしまったら、唐久 様2号が、身体に戻れなくなってしまいます。それに、下手な結界を張れば、生命線ごと遮断してしまう危険も。
やはり、僕には観察しかできないのでしょうか?皆さんが一生懸命唐久 様をお守りされているのに、ただ見ているのは、なんだかもどかしいです。。
自分の役立たずさに落ち込んでおりますと、誰かが鉄の扉の鍵をガチャガチャと開ける音がしました。お師匠さんでしょうか⁉︎
ですが、現れたのは看護師の桐絵 さんでした。クビを言われた方です。
「入ってくるなっ!!!」
大和 班長が怒鳴りましたが、桐絵 さんは怪訝そうな顔をされただけで、躊躇なく扉を開けました。
「若旦那様に、謝罪をしに来たのよ。」
桐絵 さんがそう言った瞬間、彼女の手に握られていた大きな鉄製の鍵がスポッと宙に飛び上がり、唐久 様1号へ目掛け、弾丸の様に真っ直ぐ向かってきました。
マズイ!っと思いましたが、その鍵は、間一髪の所で唐久 様1号ではなく、大和 班長が突き出した左腕に突き刺さりました。
大和 班長の腕からは、ダラダラと血が滴り落ちています。
なんて事でしょう!鍵が金属の防具を貫通してしまった様です。
桐絵 さんが小さく「ヒィィ!」と悲鳴を上げると、震えながら床に座り込んでしまいました。
「バカ女をつまみ出せ!!」
刺さった大きな鉄製の鍵を乱暴に引き抜くと、大和 班長は羅須 さんにその鍵を手渡しました。
「はい!」と羅須 さんは返事をすると、腰を抜かしている桐絵 の腕を乱暴にグイッと掴み、廊下の外へズルズルと引き摺り出し、バタンと鉄製の扉を閉め、鍵をかけました。
若旦那様への謝罪って……。騒ぎを起こしてしまったから……でしょうか?
血が滴り落ちている大和 班長の怪我が心配ですが、この部屋に何かを持ち込むのは危険だとハッキリ理解しました。なので、手当をする道具など持ち込めません。
この部屋に一切家具も窓も無いのも、身体検査も、暗殺を疑われたわけでは無く、こんな事態を避ける為だったのですね……。
まさか、ポルターガイスト現象まで起きるとは……。聞いてませんよ!!!
ふと唐久 様2号を見ると、目を見開いて棒の様に突っ立ち、痛そうにされている大和 班長を凝視しておりました。
え?大和 班長に怪我を負わせた事に、驚いている?生き霊に意識が……?
「今だ!取り押さえろ!ミツチ!縄だ!」
大和 班長が、唸る様に命令すると、一番体格が良い護衛士が唐久 様2号に近づき、力づくで捕らえました。
僕は、お師匠さんから渡されていた、術がかけられた拘束縄を取りに、扉へ向かいました。
「おい!待てミツチ!鍵がないと出れないだろ?」
紗雨 さんが、腰にぶら下げている鍵を見せながら、追いかけてきました。
そうでした!
廊下で、カバンから拘束縄を取り出していると、突然、甲高い女性の悲鳴が部屋の中から聞こえました。
『女性の声?護衛士の方でしょうか?』
「まさか……。あんな風に叫ぶ様な奴はいないよ。」
急いで拘束縄を持って紗雨 さんと部屋へ入ろうとしましたが、大和 班長に怒鳴られて、ビクッとしました。
「ダメだ!縄を持って入るな!置いてけ!何も持って来るな!」
『エッ⁈』
訳が分かりませんでしたが、とりあえず、縄は廊下に置いてから中に入り、紗雨 さんが、鉄の扉を閉め、鍵をかけました。
直ぐに女性護衛士の方々を見ますが、叫んでいる様子はありません。むしろ、蒼白な顔で、唐久 様2号を……見て……えっ⁉︎。
「助けてぇ!殺されるー!」
生き霊の唐久 様2号を拘束していた護衛士の方の腕の中には、華奢な中流階級街にいそうな商人風の服装をした女性がいました。
僕は幻でも見ているのかと、何度も目をパチクリし、目を擦りました。
一緒に戻ってきた紗雨 さんも、ずっと部屋の中にいらした護衛士の皆さんも、目を見開いて驚いていらっしゃいます。
『エッ?エエッ⁉︎生き霊の唐久 様は?』
質問の答えの代わりに、「化け物だ!」「妖怪だ!」「怪異が正体を現した!」と、護衛士達が口々に言い出しました。
皆さんが驚いているという事は、この現象は”初”っという事でしょうか?
商人風の女性は、彼女を羽交い締めにしている護衛士さんの腕から逃れようと暴れております。
女性に変身すれば、相手が隙を見せると思ったのかもしれません。ですが、相手は天下の鹿野宮 家の護衛士。女性だろうが、怪異だろうが、動揺はなさらない様ですね。さすがです。
これで、拘束はできるだろうと思い、大和班長に許可を取ろうとした時でした。
なんと、女性は「離して!離せ!」と叫びながらみるみる縮め始めました。
そして、今度は5、6歳ぐらいの農民の格好をした少年になってしまったのです。
僕の頭の中はたくさんの"?"で埋め尽くされ、思考が停止してしまいました。
あれは、間違いなく生き霊です。ですが、生き霊が別人になるなどあり得ません。あれが、生き霊でなく、怪異だとするなら、邪気が全くないなんてありえません。
農民風の少年は、護衛士の腕からスルリと逃れると、寝ている唐久 様1号の方へ駆け出しました。
「つ、捕まえろ!」
誰かの大声に、唖然としていた護衛士達が我に返り、少年を追いかけます。ですが、少年はすばしっこくて、中々捕まりません。
後一歩で唐久 様という所で、僕がその少年の細い腕を掴みました。
(掴んでる!ちゃんと人間の腕と同じ柔らかい感触がある。)
少年と目が合いました。
その目は……幽霊の様な死人の目ではありませんでした。生きている人間の生気がある目です。どう見ても幻とは思えません。ですが、人間でないのも確かです。体温がまるで感じられないのですから。
『君は、誰?』
少年は、僕の質問には答えず、申し訳なさそうに「ごめん」と呟く様に言いました。
『……え?』
次の瞬間、体がブランコで高く舞った時の様な感覚に襲われ、天井が目の前に迫り、ぶつかる!っと目を瞑った直後、誰かが僕の足をグンっと引っ張り、下へ降ろしました。
気がつくと僕は、紗雨 さんに抱き留められていました。
えっ?もしかして投げ飛ばされた?
「大丈夫かミツチ?」
『は、はい。すみません。紗雨 さん。』
僕は、少年がいた方を振り返ると、そこには、少年はおらず、真っ黒に日焼けをした、筋骨隆々の大男が立っていました。服装から炭鉱士でしょうか?
炭鉱士風の大男は、立ちはだかる護衛士達を薙ぎ払い、とうとう眠っておられる唐久 様の胸ぐらを掴み、拳で何度も何度も殴りました。
その間も、護衛士の皆さんが止めに入りますが、その大男は、そんな妨害ももろともせず、唐久 様をサンドバックの様に殴り続けました。
「貴様のせいで、貴様のせいで、村の全員が死んだ!何で、村を焼いた?」
この方は……怨霊……でしょうか?
ですが、何度見ても、2人の間には、生き霊を証明する生命線が繋がっております。怨霊ではありません。邪気もありません。ありえないことばかりで、もう、訳が分かりません。
八咫 が言ってた、離魂体 亜種なのでしょうか?
(ミツチ!そんな事、今はどうでもいいでしょ!早くなんとかしろ!唐久 様が殴り殺されでしまう!なんかないのか⁈なんかないのか⁈)
僕は自分を叱りつけ両頬をパンパンと強く叩きました。そして、目をギュッと瞑り、唐久 様が殴られ、ゴキリと骨が折れる音や、護衛士の皆さんが投げ飛ばされる嫌な音を聞きながら、念仏を必死に唱えました。
僕程度の念仏が効果あるとは思いませんが、もう僕にできる事はそれぐらいです。
何度か唱えてると、突然、大男がすっと消え、唐久 様がお目覚めになられました。
寝汗がひどく、はぁはぁと息切れをされてます。身体も殴られ続けていたので、あちこち痛そうです。
大和 班長が、唐久 様に駆け寄りました。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……。それより、大和 。そなた、怪我をしているではないか⁉︎
……もしや、私が……やったのか⁉︎」
大和 班長は、急いで怪我をしてる方の左腕を背中で隠しました。
「いえ、これは今日の訓練の際に負った怪我です。」
「嘘を言うな。まだ血が出ているではないか……。すまん。本当にすまん。
他に怪我をしてしまった者はいないか?」
護衛士の皆さんは、若旦那様が気にかけて下さった事が嬉しかったご様子で、「大丈夫です。」「いません。」「唐久 様こそ大丈夫ですか?」と、泣きそうな顔で口々に答えました。
意外です……。世間で恐れられている唐久 様が、部下思いだったなんて。
それにしてもなぜ、急に消えたのでしょう?僕の念仏が?
首を傾げてると、背中をバシッと叩かれました。
振り返ると、ニッコリしたお師匠さんが立っていました。
「助けに入るのが遅くなってすまんな。八咫 がいる唐里 様の所で、手間取ってしまってな。」
『いえ……。僕、何もできなくて……。八咫 達は大丈夫なのですか?』
「あぁ、なんとかな。
あいつ、大人しく観察だけしてろって言ったのに、2号様に結界を張って閉じ込めちゃってね。2号様を1号様と融合させるのが、ホントっ大変で、参ったよ。生命線が切れてたらどうすんだって話。
ミツチは、俺の言う事を聞いてくれてたみたいだな。偉いぞ。」
お師匠さんはそう言うと、僕の頭を撫でてくださいました。ですが、素直に喜べません。
僕も結界は思いつきました。けれど、頭でっかちになってしまって実行できませんでした。結果的に何も出来なかっただけです。
もし、ここにいたのが僕でなかったら、皆さんが怪我をするなんて事……なかったでしょう。
それに、自分にガッカリしているのはそれだけでは無いと思います。心のどこかで、自分ならお役に立つ事ができると奢っていたからだと思います。
はぁ〜……情けない。いつも、八咫 に偉そうな事を言ってるのに。
「この木偶だけ偽物だ。」
『
ですが、他の方々の木偶は、呪術に必要なご自身血液でお名前が書かれています。
そして、その血液の持ち主であり契約者全員が、
「それは、
『ですが、呪具に使う血液はどうやって入手したのでしょう?
いくら家族でも、「ちょっとちょうだい?」と頂ける様な代物ではないと思いますが。』
「そんなの、金を積んで、医師や看護師から買ったに決まってんだろ?」
『ですが、
「じゃあさ、親父に頼んで、便宜を図ってやるとか言ったんじゃねーの?とにかく、あの女が一番怪しい。」
僕が、
そんな僕をからかった
そこで、
『素敵な性格とは思えませんが、性格の悪さは証拠になりません。それに、怪しい怪しいって、お隣のご主人の浮気を疑うお隣さん的なノリで、言うものではありませんよ。』
「その辺の噂好きな隣人と一緒にするな。俺の審美眼は、今日の天気ぐらい、よく当たるんだ!」
『今日の天気ぐらい、誰だって空を見れば分かりますよ……。』
「あの女、自分の望みを叶える為なら、平気で家族の命さえも差し出しそうじゃね?」
『例えそうだったとしても、訳が分からない状態である事には変わりありません。
今現在、ご家族はご無事……とは言い難いですが、契約者なのに何故生きているのでしょう?呪いは終わっているのに。』
しばらくうーんと考え込んでおりますと、突然
「呪いが終わってるんじゃない。強制終了させられたんだ。呪い返しで!」
『は?呪い返し?』
「だから、あの女以外の家族が、怪異に悩まされてるんだ。」
『意味が分かりませんが?』
「いいか、あの女がさ、誰かを呪ったんだよ。呪いの専門家、呪禁師を雇ってさ。
呪禁師は血を要求した。怪異と契約には血が必要だからって。
けど、契約者は術が完了したら、契約した怪異によって殺され、その魂は、契約した怪異の贄になっちまう事も説明された。
しかし、呪う対象は7人もいる。闇市から血を買う事もできるが、いくら金持ちでも、7人分も買えないはずだ。なんせ、一人分の血の値段は、屋敷一軒分だからな。あったとしても、そんな大金を動かしたら、家族にバレんだろ?」
『まぁ、そうですね。闇市は、現金でしか取引致しませんから、宝石で支払う事もできませんし。』
「そうなんだよ。まして、
で、あの女は、自分の血は使いたくないから、主治医か、看護師をそそのかして、家族の血液を入手した。
その後は、呪禁師に手伝ってもらって、この木偶を作り、庭の池にいた怪異を召喚し、契約を結び、その7人の誰かさんを呪ってもらう事にした。」
『ふむふむ。』
「しかーし!その誰かさん達は、自分が呪いにかかってるって事に気づいた。
そんで、そっちも呪禁師を雇うかなんかして、呪い返しをした。
だから、契約者にさせられた家族が呪い返しを受ける羽目になり、怪異に悩まされる様になった。
そして、あの池の怪異も、同じ様に呪い返しによってヤラれ、消滅した。よって、もうここにはいない!」
『なるほど!呪い返しは、倍になって返ってきますからね。
池の怪異が大物なら、そのダメージも命取りになる程。
池の怪異が、倍返しとなった自分の術にヤられて、消滅したと言う説の方が、長年暮らした縄張りを捨てる説よりあり得ます。怪異は、滅多に縄張りを捨てませんから。
辻褄は合ってますね。
「
お師匠!さっさと、あの女を問い詰めて、白状させちまおうぜ。」
お師匠さんは、僕らの会話すらも耳に入っておられなかったご様子で、ぼんやりと天井を眺めていました。
「お師匠っ⁉︎」
「え?あっ、なんだ?便所か?」
「ちっげーよ。
『
「2人共……。お気遣い感謝するっ!」
「呪い返しかどうか判断するのは、今夜、起こるであろう怪異を見てからだ。」
「なんでさ?」
「ミツチが言う様に、証拠がない。それに、憶測だけで決めてかかれば、大事な事実を見落としてしまう。和尚が、いつも言ってんだろ?」
「だから〜!そんな事、あの女に直接聞きゃいいじゃんか?
それに、これから起こる怪異を見た所で分かんのかよ?怪我人が出るだけだろ?殺されたら、どう責任取んだよ?」
「
「じゃあ、大旦那様に、あんたの孫娘が怪しいって言ってやればいいじゃん。」
「それでは祈祷師達と同じ二の舞を踏む事になると思う。」
「は?」
『どういう事ですか? 祈祷師達は、池の水の事で、大旦那様と口論になったのですよね?』
「池の水を抜くかどうかで揉めたかは、あくまで
「まぁ……確かに。」
「祈祷師連中はムカつく野郎ばかりだが、腕だけは一流だ。俺らが見つけ出せた事を、奴らが見つけ出せなかったはずがない。」
「つまり……、木偶も見つけてたって事?」
「仮に、俺らが来た時、池は埋め立てられていなかったとする。そして、池の中から、呪源を感じたとする。どうしてた?」
「池の中へ…飛び込んだ?呪具を探しに?」
『そうですね。大きな池でしたが、深さは僕の腰程度でした。それに、高い鯉がいたと護衛士の方が仰っていたので、水は綺麗だったと思います。』
「うん、そうだな。池の中で木偶を見つけたとしたら、俺らが推測したように、家族の人数分だけあるだろうと踏んだと思う。」
お師匠さんの言葉に、僕らは頷きます。
『それで、できるだけ早く発見する為に、池の水を抜く事を大旦那様に頼んだかもしれませんね。』
「俺だったらそうする。……それと、俺達と同じ様に、本物の木偶と、偽物の木偶を見つけたとしたら?」
「……契約者の名前と、
「どう言う伝え方をしたのかは知らないが、霊感でしか分からない証拠だけで孫娘が怪しいと言ってみろ。霊感が無い人からしたら、胸糞悪い冗談だと思っただろう。」
「うぅっ……。」
お師匠さんが危惧されるのは当然です。
怪異絡みでよく依頼人と揉めるのは、依頼人の身内や恋人、親友を疑う事。当然本人もシラを切るので、霊感以外で、誰にでも分かる様な物的証拠を見せなければ、理解を得れない場合が多いのです。
『では……池を埋め立てたのは、これらの木偶を埋める為?』
「それは分からん。
だが、
この木偶には、もう呪力はない、ただの板切れ。池の怪異ももういない。そこまで分かってたから、水を抜いて、埋め立てるなんて無謀な事ができたと思わないか?
池から邪気を感じるだけの情報だったなら、池は放置して、自分達は別邸かどっかに引っ越すはずだ。」
僕らは、首を縦に振りました。
『ですが、護衛士の皆さんは、木偶の事を知らなかった様子でしたよ。賭けをしたぐらいですから。』
「こんな小さな木偶だ。散歩の途中で、こっそり放り込む事ぐらい簡単だろ。
ま、今の話も、あくまで俺の仮説だ。とにかく、あれこれ憶測だけで決めつけるのはまだ早い。」
お師匠さんはそう言うと、
その晩、お休みになられている様子を拝見する事となり、お師匠さんは、大旦那様の
「
立派な甲冑を着た
どうやら、
「それは、長年の経験からですよ。」
お師匠は、動揺を見せな様に答え、今夜は怪異を観察して見極める旨を伝えました。
「そうか。とにかく、一晩中旦那様方の部屋にいるつもりなら、部屋の中には、何も中に持ち込んで欲しくない。特に夜は。」
「当然でしょう。分かりました。」
「必要な道具があれば、廊下に置いとて、必要な時だけ、俺らの許可を得て持ち込んで欲しい。」
「はい。」
「最後に、あんた方を疑ってるわけじゃないが、部屋への出入りの都度、身体検査を受けて欲しい。」
随分と、警備が厳重ですね。ですが、国王よりも権力があると囁かれている要人ですから、暗殺を危惧されるのは当然かもしれません。
僕は、いざという時の為の呪術道具類が入ったカバンを廊下に置き、身体検査を受けてから、
そんな
麻薬の後遺症でしょうか?それとも怪異によるせいでしょうか?近寄って、何を仰っているのか伺いたかったのですが、
なので、僕は部屋の隅でおとなしく膝抱えをして座っている事にしました。
それにしても、この部屋……何もありません。家具すらないのです。
あるのは、
おまけに、窓ガラスは全て外され、代わりに分厚い木の板が打ち付けられております。それに加え、扉は鉄の扉。僕らにあてがわれた客間は、普通の木の扉に、高価そうな家具が設置されておりましたのに。
この部屋は、まるで……独房です……。
「ちょっと、あなた。廊下で待機してて頂けない?目障りなのよ。」
30前後の看護師の一人が、見下しながら言ってきました。他の看護師達は、意地悪そうにクスクス笑っています。
『ですが、僕の仕事は、ここで
「その
「邪魔だと言っているのが分からないのか?」
若い男性看護師が凄んできました。
ここの家人の皆さんは、
護衛士の方々も、最初は見下す様な態度を取っておりましたが、
なので、うっかり忘れておりました。ここ貴族街では、平民は差別の対象でありあり、忌み嫌われている事を。
看護師達は、僕に酷い言葉を並べ立て、当然の権利とばかりに楽しんでいるご様子です。
泣きはしませんが、胸がグッと苦しくなり、脳のサイドがジーンとしてきます。逃げ出したいですが、仕事なので、逃げ出すわけにはいきません。
(あと少しだけだ。少しだけ。あと10分もすれば、看護師達は護衛士達と交代する。それまで耐えればいいだけ。)
「ちょっと!平民のくせに無視してんじゃないわよ!」
一番若い看護師が、僕の耳を強く引っ張りました。
さほど痛くはありませんでしたが、心が痛いです。
「ど平民はシラミとノミの巣窟なの!若旦那様にうつったらどうするつもり?害虫商店!」
『僕には、シラミもノミもいません。ちゃんとお風呂にも毎日入ってます。』
「知ってる?ゴキブリは、どんなに綺麗にしてもゴキブリ、蝶にはなれないの!わかった?死んでから出直してきなさい!平民!」
カッときました。こんな性格が醜い人達が、僕ら平民よりも上等な存在だと言うのでしょうか?
ですが、僕のやり場のない怒りは、次の騒動で、直ぐに沈静化されました。
バチんッ!!!
叩く音が部屋中に響きました。
一番若い看護師さんが、涙目で赤く腫らした頬を、手で覆ってます。そして、ご自身自身何が起きたのか分からないと言った顔で、平手打ちをした一番年配の女性看護師を見つめておりました。
「なっ⁈」
「
「は?な、なぜですか?」
「クビです!早く出て行きなさい!」
「この平民に教育してあげただけじゃないですか?平民のくせに……」
バチんッ!!!!!!
年配の看護師は、
「いい加減にしなさい!」
一番年配の看護師は、鬼の形相で
なんだったのでしょう?僕を庇った……?いえ、そうではないと思います。僕が看護師達に罵詈雑言を浴びせられていた時、あの年配の看護師さんも一緒になって笑っておりました。
ですが、流れ的にクビにするほどの事でしょうか?
年配の看護師さんと
「何があったんだ?」
30代半ばぐらいの護衛士の一人が、看護師の方々に聞きました。
ですが、看護師の方々は相変わらず顔を真っ青にしたままで、護衛士の方々をチラリと見ただけです。そして、震える手で荷物を全て片付けると、そそくさと出て行ってしまわれました。
戸惑いがちに、護衛士の方々が、相変わらず空な目で天井を見上げ、ボソボソ呟いておられる
「大丈夫か?あいつらに虐められたんじゃないか?」
30代半ばぐらいの護衛士の方が、出て行く看護師達を指差しました。
『……いえ……。』
「そうか?今にも泣きそうな顔だぞ?」
そう言われた僕は、急に恥ずかしくなり、両手で顔をゴシゴシ擦りました。
「嘘だ嘘!だが、図星だったみたいだな。気にするな。あいつら、俺たち相手でも同じ態度なんだ。」
皆さんが、ガハハハっと豪快に笑いました。
うっ嘘か〜……。騙されました。
「自己紹介が遅れたな、俺は班長の
紹介をされた2人が、優しく微笑んで、ペコッと軽く頭を下げました。
『よろしくお願いします。ミツチです。まだ、見習いですが、がんばります。』
僕は、お師匠から言われた事を、事細かに説明しました。
「つまり、俺達は、普段通りでいいんだな?」
護衛士の皆さんは、部屋中を隅々まで見回り、看護師の方々が忘れ物をしていないかを確認し、
「念のため、鍵はかけるが、仲間達はいつでも飛び込んで来れるよう廊下で待機してるから、安心してくれ。」
『はい。』
「それにしても何があったの?若い子……泣いてたけど。」
『僕にもさっぱり……。』
僕は、先ほどの事を手短に話しました。
が、
「ほらほら、お前らくっちゃべってる場合じゃない!仕事をしろ!」
「え?
「
「教えてくださいよ!」
「うるさい!今夜はアレが現れるんだ!緊張感を持て!そうだ。ミツチ、ミツチは何をする事になってる?アレが現れたら。」
僕も、クビの原因が気になりましたが、緊張感を持たなければならないのは事実です。
『僕は、観察をする事しか言われてません。あ、一応、お師匠さんから、お師匠さんが術をかけた縄を預かってます。もう一人の
「そうか。ありがとう。」
『ところで、いつもはどうやってオリジナルの
「あぁ、怪異とはいえ、両方
「早速、始まったぞ!」
班長の
舌を噛まないように、布を口の中に入れたりしないの?っと思いましたが、後で聞いた話では、頭を横向きにしたのは、吐いた時、それを詰まらせない為だそうです。また、口の中に何かを入れるのは、かえって詰まらせる可能性があるから危険だと。
『
僕は、暴れる
「ダメだ!名前を呼ぶな!それに、抑えるのも止めろ!」
『えっ⁈』
「刺激を与えるのは逆に、痙攣を長引かせる。」
『で、でも、
「大丈夫よ。ミツチ君。気持ちは分かるけど、私達にできる事は見守る事。それに、あと少しすればおさまるわ。」
その間、僕は、あわわと狼狽える事しかできませんでしたが、
……余計な事をしてしまいました。お師匠さんは、それが分かっていらしたから、「観察だけ」と指示をされたのかもしれません。指示を速攻破っただけでなく、お邪魔をしてしまうなんて……。
お一人様反省会を脳内でしていると、
「出たぞ!
「はい。
準備万端って事ですね。ですが、多すぎないですか?確か、
「この卑怯者!お前なんか、生きる資格などない!死ね!」
寝ておられる
2号様の正体を探ろうと、第六感を研ぎ澄まし、宙に浮いている
もし、呪い返しだった場合、呪いをかけた張本人(術者)又は怪異が見えるかもしれないからです。
『う〜……ん。何も視えません。…………えっ?まさか……。』
お二人の
『これって……呪い返しでも、呪いでもなく、自身の生き霊……
宙に浮いる
「降りてきたぞ!全員
生き霊の
生き霊なので、すり抜けるのかと思っていましたが、
『嘘!ガッツリ触ってる……。しかも凄い力。
その後も、
その度、3、4人の護衛士達が吹っ飛ばされてしまいますが、護衛士達もただ吹っ飛ばされているだけではありません。
予めこうなった時の為に、訓練をされていたのか、吹っ飛ばされた護衛士を後列の仲間達が受け止め、床や壁に叩きつけられないよう工夫されておりました。
人壁も、何度崩されても、数の多さによって直ぐに修復され、隙間が出来にくくなっておりました。
なるほど…それで30人も呼んだのですね。ですが、朝まで持つでしょうか?
お師匠さんからは、何もするなと命じられたおりますが、念のため、廊下のある僕のカバンの中には、結界の道具も入っております。
結界を……張った方が良いでしょうか?
あっ、でも、
やはり、僕には観察しかできないのでしょうか?皆さんが一生懸命
自分の役立たずさに落ち込んでおりますと、誰かが鉄の扉の鍵をガチャガチャと開ける音がしました。お師匠さんでしょうか⁉︎
ですが、現れたのは看護師の
「入ってくるなっ!!!」
「若旦那様に、謝罪をしに来たのよ。」
マズイ!っと思いましたが、その鍵は、間一髪の所で
なんて事でしょう!鍵が金属の防具を貫通してしまった様です。
「バカ女をつまみ出せ!!」
刺さった大きな鉄製の鍵を乱暴に引き抜くと、
「はい!」と
若旦那様への謝罪って……。騒ぎを起こしてしまったから……でしょうか?
血が滴り落ちている
この部屋に一切家具も窓も無いのも、身体検査も、暗殺を疑われたわけでは無く、こんな事態を避ける為だったのですね……。
まさか、ポルターガイスト現象まで起きるとは……。聞いてませんよ!!!
ふと
え?
「今だ!取り押さえろ!ミツチ!縄だ!」
僕は、お師匠さんから渡されていた、術がかけられた拘束縄を取りに、扉へ向かいました。
「おい!待てミツチ!鍵がないと出れないだろ?」
そうでした!
廊下で、カバンから拘束縄を取り出していると、突然、甲高い女性の悲鳴が部屋の中から聞こえました。
『女性の声?護衛士の方でしょうか?』
「まさか……。あんな風に叫ぶ様な奴はいないよ。」
急いで拘束縄を持って
「ダメだ!縄を持って入るな!置いてけ!何も持って来るな!」
『エッ⁈』
訳が分かりませんでしたが、とりあえず、縄は廊下に置いてから中に入り、
直ぐに女性護衛士の方々を見ますが、叫んでいる様子はありません。むしろ、蒼白な顔で、
「助けてぇ!殺されるー!」
生き霊の
僕は幻でも見ているのかと、何度も目をパチクリし、目を擦りました。
一緒に戻ってきた
『エッ?エエッ⁉︎生き霊の
質問の答えの代わりに、「化け物だ!」「妖怪だ!」「怪異が正体を現した!」と、護衛士達が口々に言い出しました。
皆さんが驚いているという事は、この現象は”初”っという事でしょうか?
商人風の女性は、彼女を羽交い締めにしている護衛士さんの腕から逃れようと暴れております。
女性に変身すれば、相手が隙を見せると思ったのかもしれません。ですが、相手は天下の
これで、拘束はできるだろうと思い、大和班長に許可を取ろうとした時でした。
なんと、女性は「離して!離せ!」と叫びながらみるみる縮め始めました。
そして、今度は5、6歳ぐらいの農民の格好をした少年になってしまったのです。
僕の頭の中はたくさんの"?"で埋め尽くされ、思考が停止してしまいました。
あれは、間違いなく生き霊です。ですが、生き霊が別人になるなどあり得ません。あれが、生き霊でなく、怪異だとするなら、邪気が全くないなんてありえません。
農民風の少年は、護衛士の腕からスルリと逃れると、寝ている
「つ、捕まえろ!」
誰かの大声に、唖然としていた護衛士達が我に返り、少年を追いかけます。ですが、少年はすばしっこくて、中々捕まりません。
後一歩で
(掴んでる!ちゃんと人間の腕と同じ柔らかい感触がある。)
少年と目が合いました。
その目は……幽霊の様な死人の目ではありませんでした。生きている人間の生気がある目です。どう見ても幻とは思えません。ですが、人間でないのも確かです。体温がまるで感じられないのですから。
『君は、誰?』
少年は、僕の質問には答えず、申し訳なさそうに「ごめん」と呟く様に言いました。
『……え?』
次の瞬間、体がブランコで高く舞った時の様な感覚に襲われ、天井が目の前に迫り、ぶつかる!っと目を瞑った直後、誰かが僕の足をグンっと引っ張り、下へ降ろしました。
気がつくと僕は、
えっ?もしかして投げ飛ばされた?
「大丈夫かミツチ?」
『は、はい。すみません。
僕は、少年がいた方を振り返ると、そこには、少年はおらず、真っ黒に日焼けをした、筋骨隆々の大男が立っていました。服装から炭鉱士でしょうか?
炭鉱士風の大男は、立ちはだかる護衛士達を薙ぎ払い、とうとう眠っておられる
その間も、護衛士の皆さんが止めに入りますが、その大男は、そんな妨害ももろともせず、
「貴様のせいで、貴様のせいで、村の全員が死んだ!何で、村を焼いた?」
この方は……怨霊……でしょうか?
ですが、何度見ても、2人の間には、生き霊を証明する生命線が繋がっております。怨霊ではありません。邪気もありません。ありえないことばかりで、もう、訳が分かりません。
(ミツチ!そんな事、今はどうでもいいでしょ!早くなんとかしろ!
僕は自分を叱りつけ両頬をパンパンと強く叩きました。そして、目をギュッと瞑り、
僕程度の念仏が効果あるとは思いませんが、もう僕にできる事はそれぐらいです。
何度か唱えてると、突然、大男がすっと消え、
寝汗がひどく、はぁはぁと息切れをされてます。身体も殴られ続けていたので、あちこち痛そうです。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……。それより、
……もしや、私が……やったのか⁉︎」
「いえ、これは今日の訓練の際に負った怪我です。」
「嘘を言うな。まだ血が出ているではないか……。すまん。本当にすまん。
他に怪我をしてしまった者はいないか?」
護衛士の皆さんは、若旦那様が気にかけて下さった事が嬉しかったご様子で、「大丈夫です。」「いません。」「
意外です……。世間で恐れられている
それにしてもなぜ、急に消えたのでしょう?僕の念仏が?
首を傾げてると、背中をバシッと叩かれました。
振り返ると、ニッコリしたお師匠さんが立っていました。
「助けに入るのが遅くなってすまんな。
『いえ……。僕、何もできなくて……。
「あぁ、なんとかな。
あいつ、大人しく観察だけしてろって言ったのに、2号様に結界を張って閉じ込めちゃってね。2号様を1号様と融合させるのが、ホントっ大変で、参ったよ。生命線が切れてたらどうすんだって話。
ミツチは、俺の言う事を聞いてくれてたみたいだな。偉いぞ。」
お師匠さんはそう言うと、僕の頭を撫でてくださいました。ですが、素直に喜べません。
僕も結界は思いつきました。けれど、頭でっかちになってしまって実行できませんでした。結果的に何も出来なかっただけです。
もし、ここにいたのが僕でなかったら、皆さんが怪我をするなんて事……なかったでしょう。
それに、自分にガッカリしているのはそれだけでは無いと思います。心のどこかで、自分ならお役に立つ事ができると奢っていたからだと思います。
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