第26話 ゲーテ『ファウスト』が言いたかったことは?

文字数 2,317文字

あれ。ゲーテの『ファウスト』については語らないという話だったのに、作者は気が変わったんだ?
うん。最初はドイツ文学に詳しい人に怒られるとか何とか、グズグズ言ってたんだけどね(笑)。

やっぱり少しはゲーテにも触れておかないと、オペラの方も語り切れないと判断したらしいよ

ここの作者、変なところで臆病なんだよな~。

どっちみち批判を覚悟で書いてるんだろ? だったら行っちゃえ、行っちゃえ!

サバ君に言われなくても、分かってるって(怒)! (作者より)
ま、ともかくゲーテの言いたかったであろうことを、グノーや台本作者たちもオペラに活かそうとしたはずだよね

一番重要なテーマだもんね

ということで、ちょっとだけ見てみましょう!
ゲーテ『ファウスト』は、第一部、第二部から構成されます。

これまで見てきたオペラの物語は、ほとんど第一部の内容です。

ここで、ちょっとおさらい。

ファウスト博士は知的探求が自分を満足させてくれなかったことに絶望し、悪魔と契約を交わしたよね?


原作ではこの時に「私を満足させてくれたら、お前に魂をくれてやる」的な約束をしてるんだ

オペラより原作の方が、ファウストの欲望を強く感じるね。彼はどうしても満足したかったんだ〜

そう、彼は人生に満足したい(笑)!

で、その約束のシーンなんだけど、ファウストがあるセリフを叫んだらメフィストに魂を奪われてもいいことになってたの。

満足を示す、そのセリフ。どんなセリフだと思う?

「今が人生最高だぜ~」みたいな?
おお~、何とサバ君が大当たり!!


「時よ止まれ。お前は美しい」というセリフです。

これは最も美しいドイツ語として多くの人が挙げる言葉なんだって。ウサギもこのセリフが大好きなので、このオペラにも取り入れて欲しかったな~

「時よ止まれ。お前は美しい」かあ〜(ため息)。

一生に一度はそう叫んでみたいね

ドイツの暴走族は、車にこのステッカーを貼っているとか、いないとか……
まじか。暴走族までがゲーテ様かよ……
ともかくゲーテ『ファウスト』の話に戻ります。


悪魔はファウストにまず現世で満足を与えようとしたわけですが、これは失敗に終わります。

オペラでもマルグリートはさんざんな目に遭ってしまうでしょ? つまり第一部では、ファウストは自分の弱さを思い知っただけ。

仕方がないので、第二部では悪魔は古代ローマやら、わけのわからん世界にファウストを連れていきます

難解だと評判の第二部だね
何を隠そう、ウサギも初読ではさっぱり意味不明だったよー(笑)。
第二部では、ファウストは満足できたのか?
うん。でもかなり試行錯誤した後にようやく、だね。


最後の方、百歳になった盲目のファウストは、人々を率いて荒れ地の干拓事業を指導するんだけど……

どど、どういう展開(汗)?!

いきなり干拓事業って

いや、ほんとに展開が激しいよね。文章の美しさがなかったら、荒唐無稽とされていたかも……?


とにかく第二部のファウストは、もう生きる意味なんて考えず、困難な仕事をひたすら実践するのみ。そんな謙虚な人になっていくのです

年を取って、しかも目が見えねえ。

えらい苦労だな

そう。誰が見ても辛そうだし、満足にはほど遠く感じるよね。

だけど人々が干拓する槌音(実際には違うのだけど)を聞いたとき、彼は例えようのないほどの幸福感を覚え、とうとうあのセリフを叫ぶのです

時よ止まれ。お前は美しい!!
あっ、いきなり出てきた。ファウスト本人
いや~ちょっと待って。

そんなひどい状況のどこが、人生最高の時なわけ?

自分の欲望のために動いていた時は、ちっとも満足できなかったファウスト。

だけど他人のために小さな力をコツコツと積み上げていった時……

彼はとうとうある高みに達したと考えられるのではないでしょうか

第一部の冒頭で、神様は「人間は努力する限りは迷うに決まったものなのだ」と語っています。ファウストが試行錯誤する部分がこれに当たると考えられますね。


第二部では、例のセリフを叫んだファウストは、メフィストに魂を持って行かれそうになります。

そのとき奇跡が起こります。

神様が「倦まずたゆまず努力する者を私達は救うことができる」と述べ、天使たちの大合唱とともにファウストを救い出すのです。

これこれ!

これよ、感動的なラストは!

絶望の果てにある、光あふれる世界ってやつよ

悪魔に魂を売った人間でも、神様は助けてあげるんだな。神様、太っ腹!
ちゃんと代償を払い、悔い改めた上で救われるんだって(笑)
ファウストはそれでいいけどさ、マルグリートは可哀想じゃない? 兄は殺され、自分も子供を殺した罪で死刑だもん。

神様は、彼女のことは救わないの?

もちろん敬虔な彼女を、神様が見捨てるはずはありません。

原作のラストでは、天使の一員となったマルグリートがファウストを救うんだよ

おお〜そうだったのか
物語が多くの人を感動させてきた背景には、やっぱり理由があるわけよ

ついでに言うと、このラストシーンでは大人になれなかった子供たちも天使となって舞っています。殺された赤ちゃんも含め、全人類の救済を願うのがゲーテの結論なのではないでしょうか

オペラ版では、ファウストはそこまで悔い改めたようには見えんがな?
ファウストが我に返り、マルグリートを助けようとしたシーン。あそこで彼の誠意を表しているんじゃないかな。


それと、マルグリートの清らかさにファウストの罪を贖うほどの力があったと言えるかも

マルグリート、すごいね。

ドイツ版のオペラで、彼女の方がタイトルロールになっている理由はそれかも

そうだね。マルグリートの信仰の力はすごいです。何せ悪魔に勝ってしまうんだもん
ではでは、オペラのラストシーンがどうなっているか、見てみるとしましょう!
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