第18話 マルグリートの嘆き

文字数 1,493文字

第4幕 第1場
ファウストと結ばれてから、早1年。


マルグリートは自宅の部屋で一人寂しく、糸をつむいでいます。

外では娘たちの笑い声。マルグリートの孤独を引き立てます。

みんな去ってしまったわ……

かつては私も一緒に笑っていたのに

外にいる娘たちが、マルグリートを馬鹿にし笑っています。
行きずりの紳士は逃げちゃった!

あっはっは(笑)

ひどい……

私は他人の罪に対して、そんなことを言わなかったのに。

私ときたら恥辱にまみれてる

でも神様は御存じのはずよ。私に罪はないと。

だって私は、優しさと愛だけで突き進んだんだもの

ファウストを思い出し、ますます悲嘆に暮れてしまうマルグリート。
あの人は戻ってこない……

私は怖いわ、震えてしまう

待ち焦がれているの、ああ!

むなしく時は過ぎていく

あの人は戻ってこない

ええ⁉ ファウストはもうマルグリートを捨てちゃったの?

あんなに愛してるって叫んでたのに?

まったく男の身勝手さは、許せたもんじゃないね
ファウストをかばうわけじゃねえが……

これが男の本性ってやつかもな

ダメダメ! サバ君はちゃんと誠実な人になってよね
嘆いても仕方がないわ

私は声を殺して泣くの

この悲しみをあの人が知ってくれたら!

愛しい人よ、私の旦那様

もしも姿を現してくれるのなら、何と嬉しいことでしょう

ああ! 一体どこにおられるの?

あの人は戻ってこない

顔を覆って泣くマルグリート。
第2場
シーベルがやってきます。
まだ泣いてるの?
涙を拭いて迎え入れるマルグリート。
あなただけね、私を呪わないのは
僕はまだ子供だけど、人の心を持ってるんだ。

君のために、復讐するよ。あいつを殺してやる!

殺すって、誰を?
その名を言う必要がある?

君を裏切った薄情者の名を

言わないで!
ごめん。君はまだあいつを愛しているの?
そうよ、ずっとなの。

でもシーベル、あなたにこの悩みを訴えるのは間違っていたわ

いたわるように、マルグリートの手を取るシーベル。
もしも幸福が君を笑顔にするのなら

僕は穏やかなときめきを感じる

もしも苦悩が君を押しつぶすのなら

マルグリート、僕も一緒に泣こう


同じ茎に咲く一本の花のように

僕たちは同じ運命を生きようよ

あなたに祝福を、シーベル。その友情はとても嬉しいわ
残酷に私を押しのけた人々も、

私に教会へ行くことは許してくれたの

だからお腹のこの子のために、

教会へ行って祈ってくるわ

シーベル君、やっぱりいい人じゃん。こっちに乗り換えちゃえば?

……って言おうとしたら、ビックリ!

え~、マルグリートは妊娠中⁉

そりゃひでえな。戻って来い、ファウスト
ほんと、どんな事情があったか知らないけど、ひどいよね

(事情は説明されません)

窮地に立たされたマルグリートだけど、彼女のきりっとした表情にもご注目を。

このあとは教会の祭壇を前に、彼女の敬虔な祈りと悪魔の呪いとが戦う、激しいシーンです。そこも聞きどころなんですよ

優しさいっぱい、シーベルのアリア。マルグリートの苦境に救いの手を差し伸べるシーンということもあり、いっそう心に沁みます。


何があっても愛を失わないシーベル。19世紀の人々に少なからぬ道徳心、向上心を植え付ける役割を果たしたのではないでしょうか。


こちらの動画のように、すでに赤ちゃんが生まれている設定も多いようです(この後の展開を考えると、その方が合理的かも)。

シーベルいいヤツだよな。

誠実な人間が報われない、愛されないって、何か納得がいかねえよ〜

そうだよね。

ウサギはシーベル君を障害者として描く演出も見たことがあるよ。


いかにも物議を醸しそうだけど、彼の抱く苦悩や悲しみがダイレクトに伝わってきて、やっぱり優れた演出だと感じました

シーベル君に幸あれ!
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