第2話 伝説、ゲーテ、そしてグノー

文字数 1,956文字

さてさて話の続きです。

伝説の『ファウスト』と、ゲーテの『ファウスト』と、それからもう一つの『ファウスト』がオペラというわけで……

(退屈だなあ、もう)

解説はいいから、早く本編始めようぜ

サバ君てば相変わらずせっかちだねえ(笑)
ちょっとだけだから、付き合ってよ。


何しろ『ファウスト』と一口に言ってもいろいろあるんだ。

ものすごく整理すると、以下の通りとなります。ここで取り上げるのは、3番目のオペラ版『ファウスト』だよ~!

①ドイツを中心に、伝説や民話として語り継がれてきた『ファウスト』


②ドイツの文豪ゲーテによる戯曲(韻文で書かれ、不朽の名作とされる)


③②に触発された各種の音楽。一番良く知られるのはフランスの作曲家グノーによる、ド派手なグランドオペラ

ははあ……なるほど。

ドイツの人がゲーテの作品を誇りに思っているなら、オペラ版についてはちょっと複雑な心境になりそうだね

クッキーちゃん鋭い!

そう、オペラ『ファウスト』はフランスで大ヒットするんだけど、ドイツではアレルギー反応バチバチ!

だから「ゲーテじゃなくて、グノーのファウストですよ」と断っておく必要があったわけです

じゃあドイツの人は怒ってんの?

「わが国の名作を大衆劇に仕立てやがって」って感じ?

ぶっちゃけそんなところかな(笑)。

まあ、そう言いたくなる気持ちもわかります。何しろ戯曲『ファウスト』はゲーテが一生をかけた大作。テーマも複雑で「哲学的、宇宙的広がり」などと評されますが……

オペラは違うんだ?
オペラの方は、はっきり言って恋愛モノ。物語はずっと単純化されてるよ。

そのため、昔からゲーテの作品の真価に迫っていないと批判されてきたんだ

※ドイツでこのオペラが上演される場合、『ファウスト』ではなく、別の登場人物の名を取って『マルガレーテ』と呼ばれるなどしてきました。
あれれ。文句を言う割には、ドイツでも上演されているんだね
しかしゲーテって、そんなに偉い人なの?
ものすごく尊敬されていることは確かだね。

ドイツのゲーテといえば、日本で言うところの夏目漱石と紫式部を足してもまだ足りないぐらいだって聞いたことあるよ

うーん、妙な例えだな
このオペラがヒットしたことに、文豪ゲーテの知名度は決して無関係ではありません。日本語タイトルがドイツ語風に『ファウスト』となっているのもそれが理由だよ(フランスオペラなので、本来は『フォースト』とすべき)

だけど、ゲーテの作品をそのままオペラ化したっていうわけじゃないんだね
そうそう! とはいえグノーも強い信念をもって生み出した作品だし、傑作オペラには違いないんだ。こちらは別作品として純粋に楽しめば良いのでは?


いろいろ言われてきた経緯はあるけれど、聖と悪の戦いがクローズアップされている点など、オペラが洗練させてきた面もあります

ではでは、このチャットノベル恒例?の登場人物による自己紹介、行ってみましょう〜!

……いきなり暗い表情をした老人がやってきました。
私はファウスト。

見たまえ、これらの論文の束を。私が書いたものだ。この人生、すべてを研究に捧げてきた。


学者として一応の成功は収めてきた。なのに今、私の胸中は空っぽだ……


もはやすべてが無駄だったとしか思えぬ。目の前にあるのはただの絶望。もう死ぬしかない……

(テノール)

フッフッフ。

いいぜ、いいぜ~。ファウスト博士よ、自分の中に渦巻く欲望に気づきたまえ。


このメフィスト様は、お前の本音を知っている。

さあ若返らせてやろうじゃないか。今こそ世の掟を忘れ、美女とやりたい放題やるがいい!

(バス)

※というわけで、ファウスト博士の容姿は後ほどガラッと変わります(重要)。
私はマルグリート。せっせと働いて、糸をつむいで、教会に通ってお祈りしてるわ。だけど、本当はちょっぴり華やかな世界にも憧れていて……。

いいえ、いけないわね。質素な暮らしに満足できるようでなくちゃ、お兄様に怒られちゃう。うちのお兄様は怖い人なんだから

(ソプラノ)

私はヴァランタン。親を早くに亡くしてからは、マルグリートの親代わりだ。美しい妹に悪い虫がつかないか心配でならん。

戦争の足音が近づいている。兵士として出征しなければならぬ自分の身がつらい……

(バリトン)

僕はシーベル。ヴァランタンの友人だよ。

こんなこと人には言えないけど、マルグリートと結婚するのは僕しかいないと思うんだよね……彼女はどう思っているんだろう?

(メゾソプラノ・女性が男性を演じる、いわゆるズボン役です)

おいおい、やっぱり2番目のキャラクターが明らかにおかしいぜ
だって悪魔だもんね~
そう、悪魔がどんな風に人々の運命を変えていくかが見どころなのです。

メフィストは、バスやバリトンのオペラ歌手が一度は演じてみたい役なんだそうですよ。

次回、いよいよ本編に入りましょう!

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