ぼっち姫、めりにゃんの秘密に困惑。

文字数 2,571文字


 …は?

 …え?

「めり、にゃん?」

「魔王様っ! このような場所でお会いできるとは!!」

 ライゴスはめりにゃんの元へかけより、まるで大人が子供をあやす時にやる高い高いってやつみたいに両脇を持って高く持ち上げた。

「こ、こりゃライオン丸! 儂はもう子供ではないのじゃっ! やめるのじゃーっ!」

 俺はそんな微笑ましいやりとりを、いったいどんな気持ちで眺めていればいいのか分からずひたすら困惑していた。

 頭を整理する為に一旦そちらを見るのをやめ、倒れているデュクシとナーリアの元へ向かう。

 二人の体の損傷具合を確かめ、意識は無いものの命に別状が無い事を確認すると、遅ればせながら回復魔法をかけてやる。

「バタバタしてて遅れてすまなかったな……エリクシールライト」

 体の傷はみるみるうちに癒えていく。
 特にデュクシの四肢はかなりぐしゃぐしゃになっていて、切断されていないのが本当に救いだった。

 繋がってさえいれば俺の魔法で治す事が出来るが、もし完全に失ってしまっていたらどうにもならない所だった。

 無い物を生やすなんて芸当は俺には出来ないから。

 自分の体なら放っておけばすぐに元に戻るが、それが他者となるとそうもいかない。

 この呪いの便利で、恨めしい所だ。

 とりあえず二人の体が完全に癒えたのを確認し、もう大丈夫だと判断すると、俺は現実に向き合うために未だ「やめろー! はなすのじゃーっ!」「魔王様っ! ヒルダ様!!」とわいわいやっている二人の近くまでゆっくり歩いていく。

「おいめりにゃん。どういう事か、説明してくれるんだろうな?」

「せ、セスティ殿。そんなに怖い顔をしてどうされたのであるか?」

 ライゴスは少しばかり緊張の面持ちだが、未だにめりにゃんとの再会の喜びからか表情が崩れている。

 めりにゃんはそんなライゴスとは正反対に、俺と顔を合わすのが辛いらしく、うまく言葉が出てこないような今にも泣きだしそうな顔になっていた。

 ……いや、分かってる。
 分かってはいるんだ。大体の状況は頭で整理した。
 俺が思っている通りならめりにゃんは悪くない。
 だけど、めりにゃんの口から説明してもらわない事にはこの気持ち悪さが消える事はない。


「めりにゃん。大丈夫だから、とにかく事情を説明してくれよ」

 俺は出来る限り優しい口調を保ちつつ、怖がらせないようにめりにゃんに問いかけた。

「ライオン丸。とにかく一度降ろせ。儂はセスティに説明しなければならぬのじゃ」

「はっ、申し訳ありません」

 めりにゃんの言葉に素直に従ったライオン丸……じゃなくて、ライゴスはゆっくりとめりにゃんを地面に降ろす。

 地に足がつくかつかないかのあたりでめりにゃんが足をパタパタさせて地面との距離を確認する仕草がとても可愛い。

「よいしょっと。それで、セスティ。まずは謝らせてほしいのじゃ。……黙っていた事、すまなかったのじゃ」

 それは別にいい。
 俺が思っているような状況だったのなら言い出しにくいのも分る。
 それより俺はちゃんとその口で、俺の想像が正しい事を証明してほしいだけだ。
 そうでなければ、俺はどうしていいか分からなくなってしまう。

「実は……」

 ゆっくりとめりにゃんが今までの事を語り始めた。

 めりにゃんは一年ほど前に親から魔王の座を受け継ぎ、新たな魔王として君臨する事になったそうだ。
 あの魔力は魔王の家系故の物だったのだろう。

 それに、今だから分かるが、しばらく魔王軍が大人しかったのは先代魔王の寿命が尽きそうだった事と、新たな魔王、つまりめりにゃんへの代替わりによる統治的な切り替えがあったからだったのだ。

 もしかしたらめりにゃんは先代の魔王のように積極的に人間を滅ぼそうとはしなかったのかもしれない。
 現に、めりにゃんの話を聞いていると魔王になった事に対する不安や疑問を窺い知る事ができた。

 しかし、めりにゃんも魔王としての力を他の魔物達に見せつけ、主従関係をきちんと築き上げた頃、その事件は起こる。

 魔王の居城に突如一人の男が現れた。
 その男は禍々しい魔力を持っていたが、

 ただの人間だった。

 その人間は魔王の配下、低級な魔物から上級の魔物である幹部たちまでをその強靭な魔力で拘束した。

 勿論、魔王であるめりにゃんがそれを黙って見過ごす筈もなく、全力で戦ったらしい。

 その戦いは三日三晩続き、そして……。

「結果的に、儂はその人間に敗れてしもうたのじゃ。あいつは、アーティファクトを所有しておって、その力で儂の力を完全に封じてしもうた。ただの小娘になってしまった儂は牢獄に放り込まれ、しばらくしてこのライオン丸がこっそり鍵を開けておいてくれて……必死に逃げてきたのじゃ」

 ……殺されなかったのはよかった。めりにゃんが無事でいてくれたからこそこうやって俺達は出会う事ができた。

 ライゴスもおそらくそれが限界だったのだろう。めりにゃんを逃がす事が明確な反逆と認識されていたら首と胴が切り離されてるわけだから結構危ない橋を渡っている。

 だが……そもそもその人間の男って何者だ?
 いくらアーティファクトを所有していたからって単騎で魔王軍をどうにかできる物だろうか?

 俺が姫の体になる前ならどうだ?
 一人で魔王軍全部を相手にして勝てるか?
 相手がアーティファクトのような理不尽な力を持っていないのならば……。

 可能かもしれない。

 要するにその男が持っていたというアーティファクトがすべての元凶であり、おそらくかなり危険な物である可能性が高い。

 ただの人間をそこまでの存在にしてしまう程の。

「儂はその後の事は分からん。……分らんが、多分その男が……」

 めりにゃんは魔王軍から逃げ出し、今ではただの
無力な少女になってしまった。
 なんとか自分の力を取り戻す方法を探しているうちにあの遺跡にたどり着いたのだろう。

 それで、その後の魔王軍はどうなったのか。
 大体想像はつくのだが、そこでライゴスがめりにゃんの頭を撫でながら一歩前へ出る。

「そこからは我が話すのである」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み