ぼっち姫、必勝宣言。

文字数 1,889文字


 一人、騎士が崩れ落ちる。

 腹にはナーリアの矢が深々と突き刺さっており、倒れたその身からじわりと床に血が広がった。

 周りの騎士団員はその光景に怯え、俺達から逃げるように距離を取る。

「な、ナーリアさん!? 貴女は何をしたか分かっているのですか!?」

 テロアが喚き散らすがナーリアは聞く耳を持たない。

「次の矢を射られたくなければ早く立ちなさい」

 騎士は立ち上がる事なく、さらに床に血が広がっていく。

「ナーリア、マジで騎士の人殺しちゃったんすか……?」

 無視だ。
 この状況でデュクシのアホ発言に構ってる暇はない。

 他の皆はちゃんと状況を把握しているし、俺とナーリアはデュクシの力をきちんと理解し信頼している。

 あの時はこの馬鹿が寝落ちしやがったせいで俺は負けちまったけどな! 思い出したら腹立ってきた。

「その気が無いのなら構いません。そのまま寝ていなさい」

 ナーリアは、今度はクリスタルツリーからの魔力供給により弓矢に風魔法を纏わせ、倒れている騎士に向かって第二矢を放つ。

 ドゴォォッ!!

 凡そ弓の威力とは思えないような破壊が襲い掛かり、騎士が倒れていた周辺の床を抉り飛ばすが、土ぼこりが収まった時、そこに騎士の姿は跡形もなかった。

「なっ、まさか粉々に……? いや、違いますね。アレがキャメリーンだったのですか?」

 テロアが俺の方を見つめて、問いかけなのか呟きなのか分からない言葉を漏らす。

 俺はそれにも答えなかった。
 これで終わったとは思えないからだ。

 確かにナーリアとデュクシが協力すればその攻撃は必中になるだろう。
 しかし、必ず当たるという事は必ずかわせないのと同じじゃない。

 以前二人に稽古をつけた時、俺はギリギリでかわす事が出来た。
 つまり、そこに何かしらのロジックがあって、二人の攻撃に対処しようとしたら受け止めるか、ギリギリで避けて別の対象にぶつけるか。

 今回は床に倒れている相手を狙ったのでギリギリかわされていたら矢は地面に当たっただけ、という可能性もある。

 何より、キャメリーンがあのまま黙って殺されるのを待っているとは思えない。

「姿を隠しても無駄です。貴方の能力は私達ととことん相性が悪い」

 ナーリアが、今度は天井の一角、小さなシャンデリアのようになっている照明の脇へ向けて矢を放つ。

 ……が、何かに当たりはせず通過して天井に矢が刺さった。

「くくくくっ。いったいどこへ矢を放っているのです? どうやって騎士の姿になっていた私を特定したのかは分かりませんが、それもまぐれだったのでしょうかね? ただ少し運がいい程度の力で何ができると……」

「キャメリーン、でしたっけ? 貴方……喋りすぎですよ」

 どこからともなく聞こえてくる声に向かってナーリアが冷たく囁く。

「負け惜しみにしか聞こえませんねぇ? いいでしょう。そんなに死にたければ一人ずつその首と胴体を切り離して……ぐおぁっ!!」


「だから言ったでしょう? 私達とは相性が悪い、って」

 天井に刺さっていた矢がいつの間にか自重で抜け落ち、落下途中でシャンデリアに当たって……騎士団員の一人、その首筋に突き刺さった。

「ばっ、馬鹿な……女ぁっ!! 貴様何をした!?」

 その質問には俺が答えてやろう。

「キャメリーンさんよ、あんた俺とここにいいるデュクシがカジノで何やってたかちゃんと報告受けてたか? オークションの時こいつの説明でも言ってたよな?」

「……ギャンブル、で……確実に勝てる能力……? まさか、そんなのは屁理屈だ。その男の能力で、適当に放った矢が私を目掛けて飛んでくるというのですか!? 馬鹿げている!!」

 まぁ、そう言いたくなる気持ちはわかるよ。

 だけど、残念ながらそれが現実なんだなぁ。

 どうにかしたかったら全ての矢をとにかくギリギリでかわし続けるしかない。

 ただし、そんな事をやっていたら誰がキャメリーンなのかバレバレなのですぐにでも俺がぶち殺してやるが。

「勿論、相手が戦闘のプロなら弓が確実に当たったとしても対処する方法はいろいろあるんだろうぜ。でもお前は……人間よりは身体能力に自信あるだろうけれど所詮消えるか化けるかだけだろう?」

 二人はキャメリーンを確実に殺せるという訳ではないが、この場に居る限り、居場所の特定ならできる。

 それはつまり、あいつの透明化は意味をなさないという事だ。


「それじゃあこの二人には勝てねぇよ」

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登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

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