ぼっち姫、その力の秘密。

文字数 3,646文字

「セスティがもう既にアーティファクトを持っている、じゃと?」

『そのように反応が出ています』

 こいつにはともかく、めりにゃんには説明した方がいいかもしれない。

「経緯は端折るけどよ、俺は一回同じようなガーディアンと戦って、体のほとんどを失った事があるんだ。だけど、運良くガーディアンを倒した。そしたら気が付いたら体が元通りになってたって訳さ」

 あれは倒したなんて言えるもんじゃなかったけどな。
 ほぼ相打ちだった。その当時の俺には自分の命を犠牲にでもしない限り倒せる相手じゃなかったのだ。

 当時の俺はまだ普通の身体だった。勿論魔法は使えないし力もジービルには及ばない。冒険者としてはかなり強い部類だったとは自負していたが、能力別に見れば俺より上の奴なんて腐るほどいただろう。

 そんな俺が化け物じみた力を手に入れた理由がそれである。

 魔物の巣を掃討する為に行動していた俺達は、ダンジョンで罠に嵌って散り散りになった。
 どうやらそのダンジョンには魔法を阻害する仕組みがあったらしい。今考えればそれも神様ってやつの仕業だろう。

 みんながバラけた時には一度洞窟の外まで転移して戻るという決め事があった為、俺は転移アイテムで外に出た。つもりだった。

 しかし、たどり着いた場所はここと同じようなただっぴろい空間。
 ほかの連中も、予定とは違う場所へ転移してしまっていたらしい。

 その場所へ飛ばされたのは俺と、そして……

 アシュリー。

 俺達二人だけが選ばれたらしい。
 あの時はそれがなんだか分からなかったが、今となっては分かる。
 アーティファクトだ。

 今と同じようにガーディアンが立ちふさがり、俺は奮闘したが全く歯が立たなかった。
 アシュリーが居てくれたおかげでなんとか戦いの体裁を保っていたような物だ。

 なにせ物理攻撃が一切きかないのであれば俺はただの役立たずだった。

 その時アシュリーが俺の剣に魔法を纏わせて、そういう戦い方もあるのだと知った。

 まずアシュリーが純粋な破壊力のある魔法で体を砕き、液状になった所を俺が切り裂く。
 その都度必要な魔法をアシュリーが俺にかけてくれたおかげでなんとか倒す事が出来た。

 いや、動きを止める事が出来た、というのが正しい。

 結果的にはガーディアンが次々にこちらの攻撃を防ぎはじめる。
 俺はあの時アシュリーに、何やってんだ!と怒った物だが、実際戦えば彼女のやっていた事の難しさが分かる。
 即座に攻撃に対応し進化されていたらこっちは臨機応変、かつ様々な種類の魔法を求められる。

 最後には俺達に打つ手がなくなり、死を覚悟するところまで追い詰められた。

 そこで、アシュリーが一つだけ方法があると言う。

 アシュリーの習得している魔法の中に、生命エネルギーを破壊力に変換する物があった。
 要するに最後の手段、自爆である。

 ただ、リュミアが勇者としてこの先活躍して行く為には俺よりアシュリーが必要な筈だ。

 アシュリーをここで失うわけにはいかない。

 そう判断した俺は、アシュリーを説得し、俺の体にその魔法をかけてもらった。

 そこから先はどうという事はない。
 俺は命と引き換えにガーディアンをぶっ壊して、俺の体はほとんど吹き飛んだ筈だった。

 そして、次に気が付いた時には皆に囲まれたベッドの上だったのだ。

 おそらくあの時、アーティファクトを使ってアシュリーが何かしたんだろう。当時はアシュリーが回復魔法でなんとかしてくれたのだと思いこんでいたが……。
 これは本人に会ったら確認しなければいけない。

 アシュリーに聞かなきゃならない事が増えちまったな……。

 そして、俺は訳も分からずに自分の内側から湧いてくる謎の力を少しずつ使いこなせるようになった。

 神の使いを殴り殺せるほどに。

 そのせいで今度は体までこんな事になっちまった。
 意外と俺って波乱万丈な人生送ってるよな。


「……じゃ、じゃあセスティの体はアーティファクトで出来てるという事なのかのう……? 驚いたのじゃ」

『理解。あまりに稀なケースではありますが可能性が無い訳ではありません。それに、体が、ではなくどちらかと言えば精神体がアーティファクトにて補われていると言う方が正しいかと』

「それで、お前は俺を主って言うけどどうするつもりなんだ? 一緒についてくるのか?」

『肯定。しかしながら我はこの形態を保っていられる時間がそう長くありません。普段は貴方の中にて力を貸す事にしましょう』

 どういう意味だ、と聞く前にメディファスと名乗ったアーティファクトが俺の胸元に手を伸ばし、すぅっと細かい粒子のようになって俺の中に吸い込まれていった。

「うわ、気持ちわるっ」

 自分の中に何かが入り込んでくるっていう感覚は不思議だったが、気持ちのいい物ではない。……そして、

 ぱんっ
 という軽い音がして、俺の体からメディファスが弾き出される。

「うわっ、なんだ? どうした?」

『困惑。我が主の魂は既にアーティファクトと同化しており我が入り込む隙間がありませんでした。これでは同化する事ができません』

「じゃあどうする? そのままの球体を持っていけばいいのか?」

『否定。あの球状体はここから持ち出してしまうと数時間もたたず崩壊してしまいます。同じ理由で我のこの体も主と同化できず外に出てしまえば……』

 崩壊するって事か。こりゃどうしようもないだろうよ。

「お前には悪いがここに置いていくしか無いって事だろう?」


『それは困ります。主と共に行くのが我が使命なれば……しかし……どうすれば
……思案……うぐっ』

 ばりばり。
 ぼりぼり。
 ごくん。

 俺もめりにゃんも一切言葉を発する事が出来なかった。俺は一度見ている筈なのだが、このタイミングでやるとは思ってなかったからかなり驚いた。
 大丈夫なのかなぁ。

 今までずっと大人しくしていたマリスが、再び巨大化してメディファスを丸々頬張り、ばりぼり音を立てて飲み込んでしまった。
 ライゴスの時と違って、メディファスは居ない。飲み込まれた。

 おいおいこれどうしたらいいんだよ……。俺は今度こそマリスを怒るべきなのか?

「せ、セスティ……こ、この生き物はなんなのじゃ……?」

 うわ、めっちゃ引いてるよ。
 俺はマリスがどういう生き物なのかを説明する。すると、理解はしてくれたのだが、先ほど目の前でメディファスが食われてしまったのでかなり怯えているようだった。

 ぺっ。

 マリスが唐突に何かを吐き出し、からんからんと音を立ててそれは転がった。

『恐怖。我は恐怖という感情を初めて知りました。貴重』

「その声、メディファスか?」

『肯定。そのマリスと呼ばれる個体の体内で生成し直された模様』

 メディファスの声が、先ほど地面を転がっていった物から聞こえてくるので拾い上げると、どうやら腕輪状の形をしている。

『我が主。驚くべき事に我はこの空間と完全に切り離されております。腕輪を身に着けて頂く事で共に行く事が可能であると判断します』

 結局のところこいつと一緒に行く事になるのか。
 でもそれなら都合よく利用してやろう。

「おいメディファス。めりにゃんにかけられた呪いを解きたいんだ。お前にできるか?」

俺はその腕輪を拾い、左腕に嵌めながらメディファスに問う。

『肯定。部分的に否定』

「どうじゃ? どうなのじゃっ?」

 そんなに目をキラキラさせて見つめられてもなぁ。

「出来るけど出来ないってさ」

「なんじゃそれはっ!!」

『個体名ヒルデガルダ・メリニャンを解析した所、アーティファクトによる呪いにより封印されている模様。我の力で一時的に開放する事は可能ですが、恐らく短時間で効果が切れるかと思われます』

「うーん。こいつが言うには、開放してやる事はできるけど一時的なもんだってさ」

 めりにゃんの瞳からキラキラが消える。
 がっかりさせてしまった……。
 しかし、すぐにまた目をキラキラさせて俺の手を取った。

「つまり、儂はセスティと一緒に居れば元の力を取り戻す事もできるって事じゃな!?」

 あぁ、そういう事になるのか。

 しかし、封印されたって言ってたのはアーティファクト絡みだったのか……。
 恐らくそんなに幾つものアーティファクトを魔王が所持しているとは思えないのでライゴス達幹部に使用した物と同一だろう。
 力まで奪うという事はそれだけめりにゃんが魔王に警戒されていたという事だろうか?

「じゃあ儂とセスティは一蓮托生♪ お互いの呪いが解けるまでずっと一緒じゃなっ☆」

 うわぁ。

 ヤバいって。

 私、精神状態が保てる自身が無い。
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登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

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