ぼっち姫、人生最大の買い物をす。
文字数 3,268文字
とりあえず、だ。
こいつらでも使いようによっては役に立つだろうし、毛玉は可愛い。
装備を整えて早速明日にでも王都を出よう。
俺の剣も魔法に耐えられなかったのかあちこち細かいヒビが入ってしまっているので新調しないと。
「武器屋に行くぞ」
「え、俺もナーリアも一通り装備は揃ってるっすよ?」
デュクシが不思議そうに言うが、俺から言わせりゃこいつらの装備なんて最低限もいいところだ。
「お前らの装備も見直せ。金は俺が出してやるからそれなりにいいのを揃えておけよ。今使ってるものに余程思い入れがある訳じゃないならだが」
「ほ、本当に私達に装備を買って下さるんですか!? でも結構な負担になってしまうのでは……?」
「気にするな。金ならある!」
これ一回言ってみたかったんだよ。
二人は俺の言葉が余程嬉しかったのか武器屋に向かう間あからさまにそわそわした様子だった。
「値段が高けりゃいいってもんじゃねぇからちゃんと自分に合った物を選べよ」
その武器屋は、武器だけを置いている訳じゃない。勿論防具も売っている。
なぜか『武器屋』という名前なのだ。
ここは俺が若い頃に世話になった店なのだが、店主のじじいはもう引退して二代目になり、それからというものあまり利用していなかった。
なにしろ二代目の愛想が悪い。
物が良いだけに勿体ない店だ。
店構えはかなり古いのだが、一歩店に踏み込むと内装はリフォームされていてかなり綺麗な印象を受ける。
それになんだか不思議な柑橘系の香りが広がっていた。
香か何かを焚いているのかもしれない。随分おしゃれな店になっちまったものだ。
「いらっしゃいませ可愛らしいお嬢さんに麗しいお姉さん。いい物が揃ってるから是非見て行って下さいね! なんなら値引きもしますからね」
…あ?
あまりに愛想がいいのでいつの間にか店主が変わったのかと思ったが、俺の知ってる顔のままだった。
この野郎、デュクシを無視するあたり男が嫌いなだけだな?
客を金持ってるかどうかで判断しないのはいい事かもしれんがそれ以前に見た目で判断している時点でクソである。
「店主、この店で出来る限り丈夫な、そうだな……魔法剣なんかがあれば見せてくれ」
俺がそう言うと、少し驚きながらも「いいですよ」といい店の奥へと消え、二分程で戻ってくる。
「これが今うちにある魔法剣です。こっち炎の魔法がかかっているもので、使用の際刀身が炎に包まれます。単純に火力があがるのでおススメですよ♪」
店主は二本の魔法剣を持ってきて、そのうちの一本を俺に勧めてきたのだが、これはダメだ。
「できれば属性攻撃系の魔法じゃないものの方がいいな。単純な強化系の方がありがたい」
魔法を剣に纏わせる闘い方をする際、剣その物に特定の属性が付与されていると邪魔なんだよな。
ファイラスの森で使った氷の魔剣技などは特にそうだ。反発しあってマイナス効果を生むだけである。
「でしたらこっちのはどうです? 刀身は炎の魔法剣に比べると短いですが強化の魔法がかかっていますので丈夫ですよ」
うーん。かけられている魔法はいいのだが、これではショートソードどころかダガーだな。
「おいデュクシ。お前これ持っておけ」
「え、俺にこの魔剣を買ってくれるんすか!? 嬉しいっす!」
ナーリアから短剣を受け取って戦ったのを思い出し、メイン武器とは別に一つ短剣を装備しておいた方がいいだろうと思ったからだ。
「そうだ店主、そっちの炎の魔剣もこいつにちょっと持たせてやってくれ」
実際の使いやすさや自分との相性の良さというのは持ってみないと分からない部分もあるので、もしいい具合ならこの魔剣を両方ともデュクシに買ってやろう。
「お嬢さんが使うんじゃないんですか?」
店主は露骨に嫌な顔をしながらデュクシに剣を渡す。
デュクシは急に魔剣を二つも持たされると思っていなかったらしく「こ、これもっすか!?」と慌てていたが、初めて握る魔剣に興奮したようでぶんぶんと素振りを始めた。
「重さと長さはどうだ?使いやすそうなら買ってやる。逆に、合わないと思ったら無理に使おうとするなよ」
「大丈夫そうっす!今使ってる剣がやたら軽いんすけどこっちはそれなりの重さもあっていい具合っす!」
「よし、じゃあ店主。まずはこの炎の魔剣と強化ダガーをもらおうか」
「姫ちゃん、私にもアドバイス頂けませんか?」
ナーリアが棚に並ぶ弓を眺め唸っていた。
「弓ならまずは重さで選ぶのがいいんじゃないか? 出来る限り強度が高く、軽量な物がいいな。店主、ここにある弓で一番強度があって軽いのはどれだ?」
「そうですねぇ…強度を取ると重くなりますし軽量な物を選ぶと強度がねぇ。両方とも高水準な奴があるにはあるんですがかなりお高いですぜ。今持ってきまさぁ」
店主が再び奥に消え、帰ってきた時に手に持っていたのは、なんだか青く透き通った素材でできた綺麗な弓だった。
「……これめちゃくちゃ軽いな。でもこんな透き通った素材、強度は大丈夫なのか?」
まるで綺麗なガラス細工のようだった。
「その点は心配いらねぇですよ。なにせあのクリスタルツリーを時間かけて削り出した代物ですからね」
「クリ……って、えぇ!? ダメですダメです! クリスタルツリーって言ったら私が持つには勿体ない代物です!!」
うーん。でもこれ結構いいんだよなぁ。
クリスタルツリーと言えば確か西方のなんとかいう森に何百年かに一度生まれる木だ。
世界に溢れている魔素を長い時間をかけて吸収して、高濃度の魔力結晶に姿を変えた物……だったはず。
とても堅いというのは知っていたがこんなにも軽い物だったのか。
弓なんか使わねぇけど俺が欲しくなってしまった。
「店主、これいくら?」
「ざっと二千万Gってとこです」
「にせっ、辞めて下さい私には勿体ないです!」
二千万か。いけるな。一応少し値切ってみるか?
「千五百万」
「いやいや千九百万!」
「千六百万!」
「千八百五十万! これが限界でさぁ」
既に百五十万程安くなっているのだが、もうひと押しする事にした。
「おじさま……私、どうしても、これがほしいの。ダメぇ?」
本当はあらゆる理由で自ら女性らしい行動なんてしたくないのだが、こういうタイプの人間に効果的なのは否めない。
「むむむ……っ、お嬢ちゃんなかなか悪い女だねぇ。千七百五十! さすがにこれ以上は無理だぜ?そんな若いのにおっそろしい。いったいどこの貴族か知らないが…って、ん? どこかで見た事があるような……」
なんだ? よその国だとしても姫様ともなればある程度顔が知れてるのだろうか。面倒な事になる前にさっさと終わらせてしまおう。
「ナーリア、この弓は俺が個人的に購入する事にしたから」
「えっ?あぁ、そうですね。その方がいいです。私より姫ちゃんが持ってた方がいいですよ」
「勘違いするなよ。俺が俺の所有物として購入するんだ。だけど弓は使ってなんぼだし手入れも必要だからな。それをナーリアに任せるからしっかり使って管理しておいてくれ」
「姫ちゃん……ほっ、ほれてまう……」
「よし、さっきの魔剣二本とこの弓だ。それとこいつらが使いやすいライトプレートの防具も見繕ってやってくれ」
「「姫ちゃん愛してる!」」
「お嬢ちゃん愛されてるねぇ。しめて千七百五十九万Gでさぁ」
俺、なんで臨時パーティの弓師用に人生で一番大きな額の買い物してるんだろう。
きゃっきゃきゃっきゃ喜んでる二人を見てたら別にいっかと思えてしまった。
私もまだまだ甘いなぁ。
「へへっ、今後とも御贔屓に。まいどありでさぁ!」
そして、見事に自分の剣を買い忘れるのであった。
こいつらでも使いようによっては役に立つだろうし、毛玉は可愛い。
装備を整えて早速明日にでも王都を出よう。
俺の剣も魔法に耐えられなかったのかあちこち細かいヒビが入ってしまっているので新調しないと。
「武器屋に行くぞ」
「え、俺もナーリアも一通り装備は揃ってるっすよ?」
デュクシが不思議そうに言うが、俺から言わせりゃこいつらの装備なんて最低限もいいところだ。
「お前らの装備も見直せ。金は俺が出してやるからそれなりにいいのを揃えておけよ。今使ってるものに余程思い入れがある訳じゃないならだが」
「ほ、本当に私達に装備を買って下さるんですか!? でも結構な負担になってしまうのでは……?」
「気にするな。金ならある!」
これ一回言ってみたかったんだよ。
二人は俺の言葉が余程嬉しかったのか武器屋に向かう間あからさまにそわそわした様子だった。
「値段が高けりゃいいってもんじゃねぇからちゃんと自分に合った物を選べよ」
その武器屋は、武器だけを置いている訳じゃない。勿論防具も売っている。
なぜか『武器屋』という名前なのだ。
ここは俺が若い頃に世話になった店なのだが、店主のじじいはもう引退して二代目になり、それからというものあまり利用していなかった。
なにしろ二代目の愛想が悪い。
物が良いだけに勿体ない店だ。
店構えはかなり古いのだが、一歩店に踏み込むと内装はリフォームされていてかなり綺麗な印象を受ける。
それになんだか不思議な柑橘系の香りが広がっていた。
香か何かを焚いているのかもしれない。随分おしゃれな店になっちまったものだ。
「いらっしゃいませ可愛らしいお嬢さんに麗しいお姉さん。いい物が揃ってるから是非見て行って下さいね! なんなら値引きもしますからね」
…あ?
あまりに愛想がいいのでいつの間にか店主が変わったのかと思ったが、俺の知ってる顔のままだった。
この野郎、デュクシを無視するあたり男が嫌いなだけだな?
客を金持ってるかどうかで判断しないのはいい事かもしれんがそれ以前に見た目で判断している時点でクソである。
「店主、この店で出来る限り丈夫な、そうだな……魔法剣なんかがあれば見せてくれ」
俺がそう言うと、少し驚きながらも「いいですよ」といい店の奥へと消え、二分程で戻ってくる。
「これが今うちにある魔法剣です。こっち炎の魔法がかかっているもので、使用の際刀身が炎に包まれます。単純に火力があがるのでおススメですよ♪」
店主は二本の魔法剣を持ってきて、そのうちの一本を俺に勧めてきたのだが、これはダメだ。
「できれば属性攻撃系の魔法じゃないものの方がいいな。単純な強化系の方がありがたい」
魔法を剣に纏わせる闘い方をする際、剣その物に特定の属性が付与されていると邪魔なんだよな。
ファイラスの森で使った氷の魔剣技などは特にそうだ。反発しあってマイナス効果を生むだけである。
「でしたらこっちのはどうです? 刀身は炎の魔法剣に比べると短いですが強化の魔法がかかっていますので丈夫ですよ」
うーん。かけられている魔法はいいのだが、これではショートソードどころかダガーだな。
「おいデュクシ。お前これ持っておけ」
「え、俺にこの魔剣を買ってくれるんすか!? 嬉しいっす!」
ナーリアから短剣を受け取って戦ったのを思い出し、メイン武器とは別に一つ短剣を装備しておいた方がいいだろうと思ったからだ。
「そうだ店主、そっちの炎の魔剣もこいつにちょっと持たせてやってくれ」
実際の使いやすさや自分との相性の良さというのは持ってみないと分からない部分もあるので、もしいい具合ならこの魔剣を両方ともデュクシに買ってやろう。
「お嬢さんが使うんじゃないんですか?」
店主は露骨に嫌な顔をしながらデュクシに剣を渡す。
デュクシは急に魔剣を二つも持たされると思っていなかったらしく「こ、これもっすか!?」と慌てていたが、初めて握る魔剣に興奮したようでぶんぶんと素振りを始めた。
「重さと長さはどうだ?使いやすそうなら買ってやる。逆に、合わないと思ったら無理に使おうとするなよ」
「大丈夫そうっす!今使ってる剣がやたら軽いんすけどこっちはそれなりの重さもあっていい具合っす!」
「よし、じゃあ店主。まずはこの炎の魔剣と強化ダガーをもらおうか」
「姫ちゃん、私にもアドバイス頂けませんか?」
ナーリアが棚に並ぶ弓を眺め唸っていた。
「弓ならまずは重さで選ぶのがいいんじゃないか? 出来る限り強度が高く、軽量な物がいいな。店主、ここにある弓で一番強度があって軽いのはどれだ?」
「そうですねぇ…強度を取ると重くなりますし軽量な物を選ぶと強度がねぇ。両方とも高水準な奴があるにはあるんですがかなりお高いですぜ。今持ってきまさぁ」
店主が再び奥に消え、帰ってきた時に手に持っていたのは、なんだか青く透き通った素材でできた綺麗な弓だった。
「……これめちゃくちゃ軽いな。でもこんな透き通った素材、強度は大丈夫なのか?」
まるで綺麗なガラス細工のようだった。
「その点は心配いらねぇですよ。なにせあのクリスタルツリーを時間かけて削り出した代物ですからね」
「クリ……って、えぇ!? ダメですダメです! クリスタルツリーって言ったら私が持つには勿体ない代物です!!」
うーん。でもこれ結構いいんだよなぁ。
クリスタルツリーと言えば確か西方のなんとかいう森に何百年かに一度生まれる木だ。
世界に溢れている魔素を長い時間をかけて吸収して、高濃度の魔力結晶に姿を変えた物……だったはず。
とても堅いというのは知っていたがこんなにも軽い物だったのか。
弓なんか使わねぇけど俺が欲しくなってしまった。
「店主、これいくら?」
「ざっと二千万Gってとこです」
「にせっ、辞めて下さい私には勿体ないです!」
二千万か。いけるな。一応少し値切ってみるか?
「千五百万」
「いやいや千九百万!」
「千六百万!」
「千八百五十万! これが限界でさぁ」
既に百五十万程安くなっているのだが、もうひと押しする事にした。
「おじさま……私、どうしても、これがほしいの。ダメぇ?」
本当はあらゆる理由で自ら女性らしい行動なんてしたくないのだが、こういうタイプの人間に効果的なのは否めない。
「むむむ……っ、お嬢ちゃんなかなか悪い女だねぇ。千七百五十! さすがにこれ以上は無理だぜ?そんな若いのにおっそろしい。いったいどこの貴族か知らないが…って、ん? どこかで見た事があるような……」
なんだ? よその国だとしても姫様ともなればある程度顔が知れてるのだろうか。面倒な事になる前にさっさと終わらせてしまおう。
「ナーリア、この弓は俺が個人的に購入する事にしたから」
「えっ?あぁ、そうですね。その方がいいです。私より姫ちゃんが持ってた方がいいですよ」
「勘違いするなよ。俺が俺の所有物として購入するんだ。だけど弓は使ってなんぼだし手入れも必要だからな。それをナーリアに任せるからしっかり使って管理しておいてくれ」
「姫ちゃん……ほっ、ほれてまう……」
「よし、さっきの魔剣二本とこの弓だ。それとこいつらが使いやすいライトプレートの防具も見繕ってやってくれ」
「「姫ちゃん愛してる!」」
「お嬢ちゃん愛されてるねぇ。しめて千七百五十九万Gでさぁ」
俺、なんで臨時パーティの弓師用に人生で一番大きな額の買い物してるんだろう。
きゃっきゃきゃっきゃ喜んでる二人を見てたら別にいっかと思えてしまった。
私もまだまだ甘いなぁ。
「へへっ、今後とも御贔屓に。まいどありでさぁ!」
そして、見事に自分の剣を買い忘れるのであった。