ぼっち姫、ピンキーキャット現る。
文字数 2,342文字
「うっそなんでー!?」
「なんでと、言われましても……その、私の勝ちという事で……」
なんだかトウネリバーも困惑している。
自分の負けを確信してしまってたから、何故か勝っちゃった事に困惑してる。
でもね、言わせてもらうけど
困惑してんのはこっちよ?
ばたんっ!!
私の後ろで何かが倒れるような音が響く。
「きゃっ! な、何??」
ちょっとびっくりして後ろを振り返ると、デュクシが地面に倒れていた。
こいつ、まさかデュクシのスキル使ってるのに気付いてデュクシから……??
「えっ、勝ち……で、いいんですよね?」
まだ困惑してる。
違う。こいつがやったんじゃない。
「デュクシ!? ちょっとどうしちゃったの??」
「……すぴー。ぐごがぁぁぁ」
こ、こいつ……酒が入ってひとしきり酔っぱらって、我慢できずに寝ちゃったみたい。
私はイライラしてとりあえず眠ってるデュクシの体を一度蹴り上げた。
デュクシはごろごろ転がると、壁に当たって、こんな時でもお行儀のいい寝相になって止まる。
「ごぼっ……ひ、姫ちゃ……ん。ご、ごほう、び……」
キモい。寝ててもキモい。
「……ふぅ、かなり驚かされましたが、私の勝ちという事でいいようですね。では、お支払いいただきましょうか。貴女達の人生でね」
困った。
そんな額のお金は無いし、本来なら私はこのまま奴隷として売り捌かれる事になっちゃう。
でもなぁ。
さすがにそんなの受け入れる訳に行かないんだよね。
本当は騒ぎを大きくしたくなかったんだけど、どうやら力づくで暴れるしかないみたい。
「トウネリバーさん。ほんとにごめんね? 勝負で勝ったのは貴方なんだけど、いろいろあって貴方をぶち殺す事にしたから」
「貴女が? 私を? そんなか弱い女性に殺されるほど落ちぶれては居ませんよ。それに……自分の今の状況を理解しておいでですかな?」
パンパン。とトウネリバーが手を叩くと、ドアを開けて五人、黒服が部屋に入ってきた。
「さぁ、こっちに来るんだ!」
黒服の一人が私の腕を掴む。
「きったない手で触んないでよ……ねっ!」
掴まれた腕をそのまま振り回すと、黒服が宙に舞い上がり、そのままトウネリバー目掛けて飛んでいく。
「う、うおぉぉっ!」
奴は黒服をかわす事が出来ず衝突して、地面を転げ回った。
「き、貴様っ!!」
残りの四人が一斉に私を取り押さえようとしてくるから面倒だけど殺さない程度に全員の両手両足の骨をへし折ってあげた。
みんな泡噴いて気絶しちゃったけど、その方が静かでいいよね。
「お、お前はいったい……どこの組織の物だ!? 私を、殺しにきたのか!?」
「え? 違うって。そう言うんじゃないよ。私は仲間が一人クレバーにさらわれたっぽいから取り戻しに来ただけ。手っ取り早くアンタに近付いて情報を絞り出そうって魂胆ね☆」
「魂胆ねってお前……」
トウネリバーは上に覆いかぶさる黒服を跳ね除け、ずざざざっと背後の壁まで這って逃げた。
なんかそういう虫みたい。
「で、知ってる? 身長高い黒髪ロングのめっちゃスタイルいい女なんだけど。今日さらわれたっぽいんだよね」
「しっ、知らないと言ったら……?」
「え、殺すよ?」
トウネリバーは顔を真っ青にしながらどうしたものかとひとしきり悩んでいるみたいだった。
「もし、その女の情報を話したら……」
「うーん。じゃあ命までは取らない。それでどうかなっ☆」
私は出来るだけにこやかに言ったつもりだったんだけど、それが逆に怖かったみたいで、「分かった! 分かった話すからっ!!」と妙に正直になってくれた。
「今日、キャメリーン様とは会っていないので詳しい話は知らない……でも、もし本当に誰かさらってきたとしたら、おそらく居る場所は、分かります」
キャメリーン?
そいつがクレバーのボスかな?
それと、さらわれた人が集められる場所があるって事かな。
「そのキャメリーンって奴の詳しい情報と、私の仲間が居る場所を教えて。そしたら殺さない。約束してあげるわ」
「あっ、ありがとうございます……! まず、キャメリーン様の事ですが……」
そこでトウネリバーの目が泳ぐ。
なに? まだ何か企んでるのかな……?
一応周りに警戒はしておこう。
そしたら何かあっても対処くらいはできるでしょ。
「キャメリーン様の事ですが……いう訳ないでしょう!? そんな情報漏らしたら私が殺されてしまいます!」
「なら今死んじゃう?」
「来るのが遅いぞピンキーキャット!」
ピンキーキャット? 何その可愛い名前。
その瞬間、私達がいる部屋に何かが入ってきた。
ぞわりと背筋に悪寒が走る。
……何?
辺りを確認しても、誰かが新しく部屋に入ってきたようには見えない。
……だけど。
しゅっ。
「うわあっ!! あっぶないじゃん何すんの!?」
突然私の頭上に何者かの気配が現れ、その黒い影が私の首筋に向かって回し蹴りを放った。
別にくらっても大したダメージじゃないだろうけど、とにかくビックリした。
突然目の前に現れたけど、転移とかそういうんじゃないと思う。
ギリギリで腕で防いだけど……。
「これを防ぐ……? 強い。でも、私の勝ち」
しゅたっと私の目の前に、ズタボロの黒い布で全身を包んだ小柄な人物が降り立つ。
そして、私はピンキーキャットとかいう奴が放った次の一言を最後に意識を失った。
「おやすみ……なさい」