ぼっち姫、怒りと絶望。
文字数 2,349文字
ボアルドという魔物はライゴスと同じくらいの背丈だが、ボアルドの方が横にも大きい。
外見はパッと見凶悪な猪のようだ。目が四つある事を除けば、だが。
口元に、下から上へと突き上げるような二本の牙が生えている。
そしてそいつの首にも太い首輪のような物が見えた。しかし、こいつの場合あまり知性はなさそうに見える。
名前を与えられている以上最低限の実力と知性はあるのだろうが……。
目が血走り、口元からボタボタとよだれを垂らしている風貌はお世辞にも賢そうには見えない。
「めりにゃん。あいつほんとに強いのか? めちゃくちゃ頭悪そうだけど……」
「ボアルドは確かにあまり頭がいい方ではないのじゃが……それにしても様子が変なのじゃ。あれは精神をいじくられておるのう……哀れな」
無理矢理いう事をきかせるだけじゃ飽き足らず今度は洗脳か?
魔王様って奴はとことんやる事がみみっちぃな。
「めりにゃん。俺魔王大っ嫌いだわ」
「う……うむ。そうか……」
めりにゃんがなんだか複雑そうな顔をしたが、それもそうだろう。めりにゃんも魔物なのだから魔王に対して多少なりとも思うところがあるのかもしれない。
精神汚染された狂戦士にはそれなりの戦い方がある。
とにかく焦らず冷静に対処する事だ。そして致命傷を与えたと感じても油断してはいけない。
大抵ああいう輩は痛覚が麻痺しているから、たとえ腕が千切れていてもお構いなしに暴れてきたりする。
その分全体的に大振りになるから慌てなければ対処しやすい筈なのだが……。
問題は、そんな状態だからと言ってあの二人が勝てる相手かどうかだ。
ボアルドが雄たけびを上げ、周りの魔物を蹴散らしながら二人に突進する。
二人は焦り顔をしながらもそれを左右に分かれて避ける。
そうだ、それでいい。
後はできるだけ近寄らずにデュクシは炎で中距離から攻撃し、ナーリアは後方から援護をすれば時間はかかるかもしれないが倒せるだろう。
他の魔物が一切いなければ、だが。
その心配は的中してしまい、ボアルドの突進を二人が何度かかわした頃、その退避先に魔物が待ち構えるようになった。
デュクシはそれも魔剣で焼き払いながらさらに距離を取るが、ナーリアはそういう訳にもいかない。
回避先に敵が居たら……至近距離に詰められてしまっていては弓使いとしては非常に行動が狭められてしまう。
それでもナーリアはなんとか持ち前の運動神経でそれらを回避し、デュクシと合流する。
次からは同じ方向に避けるようになり、遠距離からボアルドにはナーリアが、回避先に先回りしている敵はデュクシが。
うまくお互いをフォローしながら戦っている。
俺は少しばかり感動していた。
ファイラスの森でトロールと戦った時、ニーラクへ向かう最中のフォレストバット戦。
それらの戦いと比べたら桁違いに高レベルな戦いをしている。
戦いへの意識の差というのもあるだろう。覚悟が決まれば人の動きは変わる。
村を守るという意識があの二人を変えたのだろうか?
まさか俺の留守を守るっていう覚悟じゃないだろうな?
……あの二人ならあり得るのが怖い。
しかし、やがてその時は訪れる。
だんだんとボアルドの突進をかわしきれなくなってきた。
二人の体に疲労が蓄積しているのだ。
このままではもう長く持たない。
ナーリアの攻撃は確かにボアルドに突き刺さってダメージを与えている。
だが、ボアルドは止まらない。やはり痛覚が麻痺しているようだ。
このまま絶命するまで繰り返さないと奴が止まる事は無い。
問題はそれまで二人が動き続けられるのか……。
ぎゅっと握る拳をめりにゃんが震えた手で包み込んでくれる。
めりにゃんにとってはこの戦い、俺より複雑な心境なのかもしれない。
「メディファス! 早くしてくれ。このままじゃ……」
『解析中。残り三十パーセント』
まだそんなにあるのかよ。
頼むから死ぬんじゃねぇぞ。
そして、ボアルドの突進、その牙がナーリアの脇腹を貫いた。
いや、かすめただけだ。出血はあるがすぐに対処すれば……。
畜生。どうやって?
あの二人は回復魔法なんか使えねぇよ。
致命傷を避けたとは言え、ナーリアの動きが目に見えて悪くなる。
デュクシがその体を支えながら戦うも、次の突進でナーリアが完全に捉えられ、それを庇ったデュクシが牙を剣で受け止めるも力で押し切られ、激しく吹き飛ばされてしまう。
「くそっ! まずい、早くどうにかしないと……っ!」
ナーリアがよろよろとデュクシの元まで辿り着き、弓を構えるが、脇腹からの出血が激しく意識も朦朧としているようだ。
手に力も入っておらず、そのまま放ったところで、スキルで命中させる事はできても効果のある攻撃はできないだろう。
そして、ボアルドは倒れた二人に向かって突進ではなく、高く飛び上がって踏み潰そうとした。
デュクシがかろうじてナーリアを突き飛ばし、自分も避けようとするが間に合わずに両足を踏みつぶされる。
恐らくあれはもう使い物にならない。
ボアルドはそんな状態のデュクシの腕を掴み、思い切り振り回した挙句地面に何度も叩きつけた。
もういい。
もういいだろう?
離してやってくれ……。
その時だった。
何度も地面に打ち付けられた末に、まるでゴミを捨てるように放られたデュクシが。
生きているのが奇跡のような状態で、意識が朦朧としていたデュクシが、何故か笑ったように見えた。
そして、その口は確かに、何かを呟いていた。
外見はパッと見凶悪な猪のようだ。目が四つある事を除けば、だが。
口元に、下から上へと突き上げるような二本の牙が生えている。
そしてそいつの首にも太い首輪のような物が見えた。しかし、こいつの場合あまり知性はなさそうに見える。
名前を与えられている以上最低限の実力と知性はあるのだろうが……。
目が血走り、口元からボタボタとよだれを垂らしている風貌はお世辞にも賢そうには見えない。
「めりにゃん。あいつほんとに強いのか? めちゃくちゃ頭悪そうだけど……」
「ボアルドは確かにあまり頭がいい方ではないのじゃが……それにしても様子が変なのじゃ。あれは精神をいじくられておるのう……哀れな」
無理矢理いう事をきかせるだけじゃ飽き足らず今度は洗脳か?
魔王様って奴はとことんやる事がみみっちぃな。
「めりにゃん。俺魔王大っ嫌いだわ」
「う……うむ。そうか……」
めりにゃんがなんだか複雑そうな顔をしたが、それもそうだろう。めりにゃんも魔物なのだから魔王に対して多少なりとも思うところがあるのかもしれない。
精神汚染された狂戦士にはそれなりの戦い方がある。
とにかく焦らず冷静に対処する事だ。そして致命傷を与えたと感じても油断してはいけない。
大抵ああいう輩は痛覚が麻痺しているから、たとえ腕が千切れていてもお構いなしに暴れてきたりする。
その分全体的に大振りになるから慌てなければ対処しやすい筈なのだが……。
問題は、そんな状態だからと言ってあの二人が勝てる相手かどうかだ。
ボアルドが雄たけびを上げ、周りの魔物を蹴散らしながら二人に突進する。
二人は焦り顔をしながらもそれを左右に分かれて避ける。
そうだ、それでいい。
後はできるだけ近寄らずにデュクシは炎で中距離から攻撃し、ナーリアは後方から援護をすれば時間はかかるかもしれないが倒せるだろう。
他の魔物が一切いなければ、だが。
その心配は的中してしまい、ボアルドの突進を二人が何度かかわした頃、その退避先に魔物が待ち構えるようになった。
デュクシはそれも魔剣で焼き払いながらさらに距離を取るが、ナーリアはそういう訳にもいかない。
回避先に敵が居たら……至近距離に詰められてしまっていては弓使いとしては非常に行動が狭められてしまう。
それでもナーリアはなんとか持ち前の運動神経でそれらを回避し、デュクシと合流する。
次からは同じ方向に避けるようになり、遠距離からボアルドにはナーリアが、回避先に先回りしている敵はデュクシが。
うまくお互いをフォローしながら戦っている。
俺は少しばかり感動していた。
ファイラスの森でトロールと戦った時、ニーラクへ向かう最中のフォレストバット戦。
それらの戦いと比べたら桁違いに高レベルな戦いをしている。
戦いへの意識の差というのもあるだろう。覚悟が決まれば人の動きは変わる。
村を守るという意識があの二人を変えたのだろうか?
まさか俺の留守を守るっていう覚悟じゃないだろうな?
……あの二人ならあり得るのが怖い。
しかし、やがてその時は訪れる。
だんだんとボアルドの突進をかわしきれなくなってきた。
二人の体に疲労が蓄積しているのだ。
このままではもう長く持たない。
ナーリアの攻撃は確かにボアルドに突き刺さってダメージを与えている。
だが、ボアルドは止まらない。やはり痛覚が麻痺しているようだ。
このまま絶命するまで繰り返さないと奴が止まる事は無い。
問題はそれまで二人が動き続けられるのか……。
ぎゅっと握る拳をめりにゃんが震えた手で包み込んでくれる。
めりにゃんにとってはこの戦い、俺より複雑な心境なのかもしれない。
「メディファス! 早くしてくれ。このままじゃ……」
『解析中。残り三十パーセント』
まだそんなにあるのかよ。
頼むから死ぬんじゃねぇぞ。
そして、ボアルドの突進、その牙がナーリアの脇腹を貫いた。
いや、かすめただけだ。出血はあるがすぐに対処すれば……。
畜生。どうやって?
あの二人は回復魔法なんか使えねぇよ。
致命傷を避けたとは言え、ナーリアの動きが目に見えて悪くなる。
デュクシがその体を支えながら戦うも、次の突進でナーリアが完全に捉えられ、それを庇ったデュクシが牙を剣で受け止めるも力で押し切られ、激しく吹き飛ばされてしまう。
「くそっ! まずい、早くどうにかしないと……っ!」
ナーリアがよろよろとデュクシの元まで辿り着き、弓を構えるが、脇腹からの出血が激しく意識も朦朧としているようだ。
手に力も入っておらず、そのまま放ったところで、スキルで命中させる事はできても効果のある攻撃はできないだろう。
そして、ボアルドは倒れた二人に向かって突進ではなく、高く飛び上がって踏み潰そうとした。
デュクシがかろうじてナーリアを突き飛ばし、自分も避けようとするが間に合わずに両足を踏みつぶされる。
恐らくあれはもう使い物にならない。
ボアルドはそんな状態のデュクシの腕を掴み、思い切り振り回した挙句地面に何度も叩きつけた。
もういい。
もういいだろう?
離してやってくれ……。
その時だった。
何度も地面に打ち付けられた末に、まるでゴミを捨てるように放られたデュクシが。
生きているのが奇跡のような状態で、意識が朦朧としていたデュクシが、何故か笑ったように見えた。
そして、その口は確かに、何かを呟いていた。