ぼっち姫、最悪の事態。

文字数 2,816文字

 俺が世にも恐ろしい地獄から脱出してしばらくが経つ。
 結局ライゴスの中途半端ぬいぐるみ怪人化は十分程度が限度のようだった。

 窓から外を見るともう大分暗くなってきている。
 ナーリアが出発してからかなり時間が経っているような気がするが……。

 早く帰ると言ったのに何をやっているんだ?

 でもナーリアだって大人だ。
 こんな事でぐちぐち言わなくたって分かっているだろうし、これじゃ俺が保護者みたいじゃないか。

 まったくナーリアったら……。余計な心配増やさないでほしいわ。


 がちゃっ。

 帰ってきたかな?

「ナーリア遅いわよ? いくら話が弾んだからってもう真っ暗じゃない! ……って、あれ?」

 ドアを開けて入ってきたのはナーリアじゃなかった。

「おや、セスティ様。どうされましたか? ……それに、ほう、これがプルット氏が言っていた……なるほど……」

「なっ、何よ?」

「いえ、そのお姿ですとその喋り方の方がしっくりくるなと思いまして」

「うっさいのよ! ……それで、ナーリア知らない? リーシャと一緒に出掛けちゃったんだけど」

 ジャックスが、こちらを見つめている。

 な、なによ?
 そんなに見つめられると恥ずかしいじゃない。

「リーシャ、ですか? その方はセスティ様のお知り合いでしょうか?」

「……ふぇ?」

 どういう事なのかな。
 リーシャは今日初めてジャックスを訪ねてきたって事なのかな?

 ……いや、待てよ。

 なんかこれまずくないか?
 俺は嫌な事に気付いてしまった。

 なんであの時すぐに気付けなかったんだ。

 あの時、ナーリアは俺の事を姫と呼んでいた。
 なら、何故リーシャは俺の事を……。

「セスティ様もああ言って下さってますし……ね、行こう?」

 そうだ。俺の事を初見でセスティと呼ぶ奴がいる訳が無い。

 あの時感じた違和感はそれだったのか。
 失敗した。リーシャという少女は何者だったんだ?

 可能性を考えよう。
 まずあのリーシャが偽物だった場合。
 何らかの手段でナーリアについての情報を収集し、幼い頃の知り合いを装って近付き、さらった。あるいは、考えたくないが始末された可能性だって捨てきれない。

 理由はわからないし少なくともそれは今考えても答えが出る物じゃない。情報が少なすぎる。

 次に、リーシャが本物だった場合。
 これは二つに可能性が分岐する。

 片方はリーシャとナーリアが外出中に何者かに襲われて、二人とも……という場合。

 もう片方は、リーシャがナーリアを罠に嵌めた場合。

 俺の考えとしては、リーシャが本物だけど何も知らないというケースは無しだと思う。

 何故なら、本物か偽物かは置いといて、俺の名前をセスティと呼ぶ時点で俺の情報を仕入れているという事だし、かなりの高確率でクレバーと繋がっている事になる。

 ナーリアには悲しい現実になってしまうが、あの女は黒だ。

 問題は、ナーリアが今どういう状況にあるかという事だ。
 さらわれてどこかに閉じ込められているだけならまだいい。
 そんなものは助ければいいのだ。

 生きてさえいてくれればそれでいい。

 命さえあるのなら、仮に四肢が切断されていようと俺が繋げられる。
 切れた先が無くなっていたらメディファスに時間をかけてでも再生させる。
 今思い出したのだがメディファスは俺の腕が吹き飛んだ時に再生するかと聞いてきた。
 それは失われた四肢を再生する方法があるという事だ。
 もしそれで再生された手足が最早人間と言えない物になっていたとしても構わない。

 ナーリアが嫌がって殺してくれと懇願したところで俺はそれを受け入れるつもりは無い。

 それに、だ。

 そんなもしもの可能性で最悪の自体を想定してどうする。

 俺の悪い癖で、こういう時考えうる最悪のパターンを事前に想定しておいて、実際そうだった時に出来る限りショックを避けようとしてしまう。弱い心が招く逃避だ。

 でも今はそんな事を考えてる場合じゃない。
 まだ出来る事がある筈だ。

「おいジャックス」

「な、なんでしょう?」

「俺の仲間がさらわれた。奪い返してくる」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 今からですか? こちらにも計画という物が!」

「うるせぇよ」

「……ッ! で、ですが……」

「うるせぇって言ってるだろ? なんならお前から俺の相手になるか?」

 ジャックスがここで俺を止めるようなら本気で殺してしまったかもしれない。
 それくらい今の俺は余裕がないし、怒っていた。

「わ、わかり……ました」

「わかりゃいいんだよ。それで、奴らの闇カジノはどこにある?」

 オークションまで待っている事なんて出来ない。
 とにかくナーリアを助け出す。奴等をぶっ潰すのはそれからだ。
 それならまず闇カジノへ行って、誰か上層部の奴と接触を図るしかない。

「カジノ……ですか。それなら場所を教えます。それと……こうなってしまっては仕方ありません。闇カジノのメンバーカードです。これ一枚で、連れを一人一緒に入場させる事ができます」

 ……やるじゃん。
 こいつなんだかんだ言ってこういう場合の事も考えていたんんじゃないの?
 それくらい準備がいい。

「デュクシ。私に付いて来て」

「えっ、俺っすか? 結局今何がどうなってるのかよく分からないんっすけど……」

「いいから。ついてくるの? こないの?」

 デュクシは慌てて「い、行くっす! 行くっすよ!!」と、既に外へ向かおうとしている私の後を追いかけてきた。

「セスティ! 儂も……」

「お子様はお留守番しててちょうだい!」

 少しきつく言い過ぎちゃったかな。
 だけど、これから行く場所はめりにゃんの力に頼ったら被害がでかくなりすぎるし、むしろあの外見じゃ闇カジノに入れないと思う。

「めりにゃんは何かあった時の為の秘密兵器だから……今回はいい子にしてて。ね?」

「うぅ……分かったのじゃ……」

 めりにゃんが今にも泣きそうな顔で、それでもちゃんと私の言う事を理解してくれていた。
 今回は一緒に行けないと、がんばって納得してくれようとしてる。
 ほんとにいい子。

「なら我だけでも!」

 急にライゴスが喋り出すからジャックスが思い切り驚いてる。

「我だけならぬいぐるみとして一緒に行けるのである!」

「ライオン丸!? 儂を置いていく気か!?」

「らいおん丸……貴方はね、めりにゃんを守らなきゃでしょ?」

 めりにゃんだけじゃほとんど力出せないんだから。

「であるが……!」

 私は外に出て、ジャックスの家へ振り返ると、らいおん丸を指指して命令した。

 たった一言。



「ハウス!」
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登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

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