ぼっち姫、優しさと理想。

文字数 1,906文字


「あの、やはり気になります。あの時……どうして姫はあの魔物に矢を放つのを止めようとしたんですか?」

 あの直後にも聞かれた事だったが、俺の考えや思想を押し付ける気はないので「いや、気にしなくていい」と、答えずにいたのだが……。

「もしかして姫ちゃんはあの魔物がかわいそうだったんじゃないっすか?」

 たき火を中心にして寝ようとしているのだが、二人がまたその話を蒸し返そうとしてくる。
 勿論見張りは必要なので今は俺が見張り担当、二時間おきに交代する予定だったのだがこいつらがなかなか寝ない。

「デュクシに聞いてません。姫、もしかしてそういう事だったんですか?」

「逃げる奴は殺さなくてもいいとか、相方が死んじゃったんだから可哀想とかそういう事っすか?」

 うーん。適当な事言ってやり過ごしてもいいんだが、別に隠している事でもないので教えてやる事にした。

「俺の勝手な拘りだよ。命を狙われる以上こっちも真剣に戦って相手を殺すのは仕方ない事だが、今回の場合あいつは飛ぶタイプだっただろう?それでナーリアの矢で落ちてくれれば止めを刺しに行けるがもしそのままかろうじて飛行して逃げて行ったらどうなる?」

 ナーリアは、俺の話を真剣に聞き、そして悩む。
 こういうタイプの人間にはなかなか分からない事かもしれない。
 意外とデュクシみたいなのが気付いたりするものだ。

「殺すならしっかり殺せって事っすかね?」
「それは……私が中途半端な仕事をしそうになった事を注意したんでしょうか?」

「デュクシの言ってる事は当たってる。ナーリアの言ってる事はちょっと違うな」

「え? マジっすか?」
「……」

 能天気に喜ぶデュクシに若干妬ましさを感じる視線を投げかけるナーリア。

「俺はさ、殺すならしっかり殺してやりたいのよ。中途半端に傷付けて逃げられると、そいつはきっとその後ひたすら苦しんで死ぬ事になるだろ?そういうのが嫌なんだ」

 デュクシも、殺すなら確実に仕留める。仕事はきっちりこなす。そういう意味で言っていたらしく俺の言葉に絶句している。

 ナーリアは、なんだか熱を帯びた目でこちらを見つめてくる。
 怖いからやめて。

「姫、姫が魔物にまで……そこまで思慮深く魔物の事を考えていらっしゃるとは気付かずに申し訳ありませんでした。私が浅はかでした」

「いや、ほんとにただの拘りなんだよ。だから人にまで押し付ける気はないんだって。お前らは気にしなくていい」

「姫ちゃん、俺は姫ちゃんの考え方凄くいいと思うっす。感動しました! ただ、もしあの魔物がこの先誰か違う人間を襲って殺したかもしれないって考えるとナーリアのやった事も間違いとは思えないんす」

 俺はちょっとだけ驚いた。
 意外としっかり物事を考えているじゃないか。

「そう。だからお前らは間違ってないんだ。俺がただそうしたいってだけだし、きっと俺が見逃した魔物に知り合いが殺されるような事があれば後悔するだろうな。あの時殺しておけばって」

「姫、私も……完全に姫の考えを理解する事はできません。でも、それでも私は自分がお仕えする姫の思想を尊重したい。そう思うのです」

 はは、たいした忠臣ぶりだ。

「俺もそうっすよ。姫は相手をできる限り苦しめたく無いって事っすよね。めちゃくちゃ優しいじゃないっすか。なかなか世の中そうはいかない事多いっすけど、できる限り俺も姫の意思を尊重するっす!」

「……そっか。ありがとう。……ほら、もう寝ろ。あと一時間半したら交代させるぞ」

 しばらくは寝たふりしてこちらの様子をうかがっていた二人だが、さすがに疲れたのかいつの間にか寝息を立て始めた。

 今日は特別だ。朝まで俺が見張っててやるよ。



「うーん。おはようっす」
「ハッ!? もう日が昇り始めてるじゃないですか!! あれから何時間たってるんです? 見張りの交代は……?」

「今回は特別に俺がずっと見張ってたよ。お前らよりも飯多く食ってるしな。その分しっかりと体力回復させただろうな?」

「勿論っす!」
「はい!お心使い本当に感謝します!」


「そう思ったら今後も私のためにしっかり働くのよ」

「「うおぉぉぉ!!」」

 なんだそのテンション。
 突然二人が腕を突き上げて叫んだ
 ちょっと驚いたじゃんか。

「さてと♪じゃあそろそろ行くわよ? ここまで来ればあと三時間くらいでニーラクの村につくから、とりあえず到着したらゆっくり休みましょ☆もう一息だから頑張れっ☆」

「「うおぉぉぉ!!」」

 だからなんなのそれ」
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登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

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