ぼっち姫、茶番劇の監督をする。

文字数 2,528文字

「ま、待ってくれ!!」

 恐れおののく人々がプルットの命を諦めかけたその時、突然割って入った闖入者の声。
 皆その声がした方を一斉に見つめた。

 ふぅ。
 とりあえず予期せぬ謎のパーティが乱入してしまったがなんとか予定通り進んでいる。

 というより、むしろあの無駄に『俺ら強いよ』アピールしているパーティを一瞬でのしたおかげでライゴスの説得力が増している。

 ある意味あいつらにも感謝しなければいけないかもしれない。

 そうでなければこの茶番劇が途中で破綻していた可能性もある。

「ひっ、また違う魔物よ!!」
「なんでこの町にこんなに魔物が!!」

 ライゴスの時ほどではないにせよ、人々がその闖入者に驚く。

 なにせそいつ等は……。

「俺達は魔物じゃない!……奴隷商人に連れてこられたホビットドワーフだ!!」

 そう。ゴギスタ達がここで登場する。
 ライゴスの考えたシナリオはこうだ。

 まずライゴスが魔王軍の幹部としてこの町で暴れる。それを止める為にプルットが、自分の命と引き換えにこの町を守ろうとする。
 そして、それをさらにゴギスタたちが庇い、民衆に安全性を認めさせるというやつである。

 しかしそんなに簡単に事が運ぶのか、甚だ疑問だったのだがデュクシとナーリア、そしてめりにゃんも賛同してしまった為に押し切られる形でこの茶番が始まってしまったのだ。

 そして何故かプルットがライゴスに次ぐノリノリ具合だった。


「お、お前たちはぁ~! 夜な夜な町を徘徊していた奴等じゃ~ないですかぁ~! 奴隷商人に連れてこられたとはぁ~どういう事ですぅ~??」

 プルットの言葉に答えるようにゴギスタはその場にいる人々へ自分らがどうやってここへ連れてこられたのか、そして優しい人間。つまり勇者に助けられた事、そしてここで生きていく事になった事やこの町の事が好きな事を口々に語った。

「だから……だから、この町は俺達にとっても守りたい場所なんだ! ……それに、このおじさんんはこの町に必要な人なんだろう? ……だから殺すなら俺を殺せ! それで許してほしい。この町と仲間達に手を出さないでくれ!!」

 ……正直俺は驚いた。
 本心が入っているからだろうが、こいつの言葉が一番説得力があり、そして演技が自然だった。
 勿論言葉はあまりうまいとは言えない。妙なイントネーションだったりもする。
 それでも、きっと彼らにとってはただの演技ではなく、心からの叫びなのだ。


「……ほう。人間の町でよもや我と同じ魔物が暮らしているとは驚いたのである。……いや、魔物ではないのであったな。しかし、貴様らは我と一緒にこの町を掌握した方が今後生きやすいのではないか? どうしてそこまでこの町や人々を庇うのである? どうせ人間は貴様らの事など邪魔者、危険な魔物としか思わないであろう?」

 ライゴスの言葉にゴギスタが一瞬言葉に詰まる。そして……。

「確かに、確かに俺達は人間からしたら邪魔ものなのかもしれない。怖がられて嫌われて、追い出したいって思われてると思う。……だけど、それでも俺はこの町が好きなんだ。俺達を助けてくれた勇者様だって人間だろう? だから俺は人間を嫌いにはならない。この町が好きだから、この町に住む人だって守りたい」

「……それでお前が死んでどうするのであるか? 自らが死んでは意味がないであろう?」

「そんな事ない。俺が死ぬ事で町と人々が守れるなら、そして俺の仲間を守れるなら……俺の死は意味があるじゃないか!」

 このやり取りを聞いて感情を揺さぶられない人間は俺がぶん殴ってやる。

 そう、心から思えるほどにゴギスタの言葉には重みがあった。
 それだけの想いが詰まった言葉だった。

「だから人々よ聞いてくれ。俺達はこの町が好きだ。ここに住む人々も好きだ。だから……もし俺が死ぬ事で守る事ができるなら、喜んで死ぬから。だから……俺の仲間達を嫌いにならないでほしい。こいつらに居場所を与えてほしい。お願いだよ……」

 皆その言葉を聞いて言葉を失う。

 そしてここで、予定にはなかったのだがデュクシとナーリアがファインプレーをかました。

「人間じゃなくてもこんないい奴がいるんすね!」
「こんなにこの町の事を思ってくれる子が魔物のはずないわ!」

 少々演技くささはあったが、その言葉を皮切りに人々の意識が変わっていく。

 自分らが今まで怖がっていた夜の徘徊者がこんなにしてまで自分らを守ろうとしてくれている事、そして仲間思いな事を知って、考えを改めた人々が、ゆっくりと、少しずつだが現れ始めた。

 そして、中にはゴギスタ達を見つめて涙を流す人まで現れ始める。

「わ、分かったので~す。貴方の勇気、そしてその思いやりに応える為にも……残されたホビットドワーフ達は私が面倒をみるのでありまぁす!! 誰にも文句は言わせないで~す!!」

 プルットがここぞとばかりに大仰な身振り手振りでそう叫んだ。

 この流れで、この町の責任者であるプルットがこいつらの面倒を見ると発言する事がこの作戦の一番キモな部分だ。

 そして、それは概ね成功したと言えるだろう。

 さらなる余計な闖入者が現れなかったら、だが。

「ライゴスぅぅぅぅ!! 今度こそ貴様を打ち滅ぼしてくれるわぁっ!!」

 どごぉぉぉぉん!!

 と派手な音を立てて町の中心へ見た事のない魔物が降り立った。

 どこから降ってきやがったんだ!?

 上空を見ると、巨大なグリフォンのような物が飛んでいて、もう一度大きく旋回するとどこかへ飛び去った。
 あれにのってここへやってきたという事なのだろうが、いったいこいつは何者だ?

「あやつはライノラスじゃ! まずいぞセスティ。ライオン丸とこんな場所で戦ったら本当にこの町は壊滅してしまうかもしれんのじゃ!」


 うおぉぉ……めんどくせぇ事になってきやがった……。

 俺は大体この後の展開が読めてしまった。

 心底面倒だが、仕方ないと諦めよう。

 俺もこの演劇の登場人物になるしかないようだ。
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登場人物紹介

名前:プリン・セスティ


神様に呪いをかけられてとある国の姫様と体を入れ替えられてしまう。


元々ある事情でとんでもない力を手に入れていたが、入れ替わり後はその力も半減し、姫の肉体に宿る膨大な魔力を利用して戦う戦法に切り替えた。


自分が女だと認識されればされるほど意識が体に引っ張られて心まで女になっていく為、出来れば目立ちたくない。


そんな理由から、自分の代わりに目立って貰うためにパーティーから逃亡してしまった勇者を探している。

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