君は呟くのだろうか?僕は?
文字数 2,336文字
4の1(day17-18)
タカハシが教室を飛び出した後の教室は大山や高田さんの時とは違って、ひそひそ呟くものはもう誰もいなかった。真中のスピーディーな授業は淡々と繰り広げられ時間通りに終わった。
翌日、タカハシは来なかった。代わりに佐伯さん、中津さん、犬飼、細野が教室に戻ってきた。佐伯さんと中津さんは僕の目の前で以前と同じように楽しく会話している、るんるんしながら。犬飼も細野も同じくるんるんしている。
この教室の中でるんるんしていないのは佐々木さんと僕の2人だけになった。
昨日のタカハシの件が衝撃的すぎて、僕は北村さんのことも佐々木さんに「一緒に探すの手伝うよ」と言ったこともすっかり忘れていた、沈んだ彼女の顔を見るまでは。
佐々木さん、北村さんから連絡あった?
うん…昨日帰って来たって…一応、今日病院行って週明けから学校来るって…
そっか、無事でよかったね。北村さん大丈夫みたい?
うん、メールでは…様子も普通だった…「今日、カオちゃん家 に寄っていい?」って聞いたら「まだ、親が心配してるから学校でね」って…でも、本当に大丈夫か気になって…
北村さんに会いたいんだね
うん、帰りにちょっとだけ様子を見に行こうかなって思ってるんだ…
一人で大丈夫?僕も心配だから一緒に行ってもいい?
そう、僕の心配は北村さんよりも佐々木さんの方だった。今や、教室の中で気軽に話せるのは彼女だけになってしまった。もし、彼女まで「るんるん」になってしまったら僕はこの教室の中でどう振舞えばいいのか想像もつかない。山田と絵について無理やり会話するか、いや、奴は迷惑に思うだろう、暇さえあれば絵を描いていたいはずだから。じゃあずっと独りぼっちで過ごすのか…
僕は彼女の心配をする振りをして、自分の心配をしているのだ。勝手に彼女を拠り所として、勝手に彼女の心配をしている、孤独を恐れて。
えっ、でも、悪いし…
いやいや、全然悪くないよ。佐々木さんすごく元気無いから、ショックとか受けたら心配だから、全然、遠慮しなくていいよ
うん…
いつもお世話になっているんだから(ノートのことで)普通だよ
うん、じゃあ、帰りに…
うん、帰りに
佐々木さんの不安に付け込んで、なんとか一緒に行くことに同意してもらった。彼女が普段と違って強引な僕のことをどう思っているのかはハッキリはしないが、とにかく僕はホッとしていた。
放課後、二人で教室から出て北村さんの家に向かう。うちのクラスだけでなく、るんるんしている生徒は増えているみたいだ。歩きながら体が揺れている奴がチラホラ見られる。
佐々木さんと北村さんっていつから仲良しなの?
うん、中学に入ってからかな。中1の時同じクラスで、家も帰る方向が同じだったから、カオちゃんが「一緒に帰ろう」って言ってくれて
じゃあ、3年間ずっと友達なんだ
うん、帰りに時々カオちゃん家に寄ってマンガ読んだり、お喋りしたりしてた
じゃあ、北村さんの家族とも会ったことあるんだ
うん、お母さんとタケ君、あっ弟ね、カオちゃんの、とはよく会うよ。お父さんは休みの日とか、たまにかな
北村さん弟がいるんだ、何年生?
小5、結構可愛いんだよ。私もあんな弟がいたらな、なんてよく思うんだ
佐々木さんは兄弟いないの?
ううん、いるよ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが
そっか、末っ子なんだ、の割はしっかりしてるよね
うん、前はそうでもなかったけど、中学入ってからは頑張ってるかも
うん、頑張ってると思う。いつもお世話になってるし
少しだけ佐々木さんの顔がほころんだ。彼女とは個人的な話などした事が無かったので歩きながら何を話していいのか全然思い浮かばず、とりあえずその場しのぎで北村さんのことを聞いたのだが、それだと彼女の心配をより大きくしそうで、どう話を切り替えようか困っていたところだった。
僕は一人っ子だから、自分ではしっかりしてるつもりなんだけど、いつも佐々木さんに甘えてばかりで、感謝です
ふふ、そうね当麻君はしっかりというよりちゃっかりじゃない
確かに、ははは
佐々木さんが笑顔になった。僕もつられて微笑んだ。
あっ、そこの角を曲がったらもうすぐカオちゃん家
佐々木さんが曲がり角を指 した。その角を曲がると2階建ての家が4軒ほど並んでいる。
あそこよ
彼女は立ち止まって左手の3軒目を指差した。そして軽く深呼吸して歩き出す。僕も後からついて行く。「北村」と書かれた表札のすぐ下にインターホンが付いているが彼女は押さない。右手に周って2階の窓を見上げる。多分北村さんの部屋なんだろう。カーテンは開けられている。カバンからスマホを取り出してメッセージを打ち込んでいる。打ち終わると「ふぅ」と小さく息を吐いた。僕は彼女と2階の窓を交互に見続けた。
ポン、着信音が鳴った。同時に佐々木さんは顔を上げて窓を見た。北村さんが窓越しに手を振っている。そして、左手で「ゴメンネ」のポーズをとって、また手を振った。佐々木さんは首を横に振った後で、右手を振った。
どうなの、北村さん、大丈夫そう?
うん、元気みたい、見る?
と言って、画面を見せてくれた。
「せっかく来てくれたのにゴメンね!病院の検査はOKだったんだけどママが今日は家から出るなってきつくて、マユが来てるって言ってもNO、心配かけたのはこっちだからしょうがないけどね、ほんとゴメンね」
ほんと、元気そうだね北村さん、それに大丈夫そうだね
うん、よかったー、ありがとね当麻君
うん、じゃあ帰ろうか
うん、帰ろう
僕と佐々木さんの家は方向が大体同じだったので途中まで一緒に歩いて帰った。
じゃあ、また来週バイバイ
うん、ありがとねバイバイ
タカハシが教室を飛び出した後の教室は大山や高田さんの時とは違って、ひそひそ呟くものはもう誰もいなかった。真中のスピーディーな授業は淡々と繰り広げられ時間通りに終わった。
翌日、タカハシは来なかった。代わりに佐伯さん、中津さん、犬飼、細野が教室に戻ってきた。佐伯さんと中津さんは僕の目の前で以前と同じように楽しく会話している、るんるんしながら。犬飼も細野も同じくるんるんしている。
この教室の中でるんるんしていないのは佐々木さんと僕の2人だけになった。
昨日のタカハシの件が衝撃的すぎて、僕は北村さんのことも佐々木さんに「一緒に探すの手伝うよ」と言ったこともすっかり忘れていた、沈んだ彼女の顔を見るまでは。
佐々木さん、北村さんから連絡あった?
うん…昨日帰って来たって…一応、今日病院行って週明けから学校来るって…
そっか、無事でよかったね。北村さん大丈夫みたい?
うん、メールでは…様子も普通だった…「今日、カオちゃん
北村さんに会いたいんだね
うん、帰りにちょっとだけ様子を見に行こうかなって思ってるんだ…
一人で大丈夫?僕も心配だから一緒に行ってもいい?
そう、僕の心配は北村さんよりも佐々木さんの方だった。今や、教室の中で気軽に話せるのは彼女だけになってしまった。もし、彼女まで「るんるん」になってしまったら僕はこの教室の中でどう振舞えばいいのか想像もつかない。山田と絵について無理やり会話するか、いや、奴は迷惑に思うだろう、暇さえあれば絵を描いていたいはずだから。じゃあずっと独りぼっちで過ごすのか…
僕は彼女の心配をする振りをして、自分の心配をしているのだ。勝手に彼女を拠り所として、勝手に彼女の心配をしている、孤独を恐れて。
えっ、でも、悪いし…
いやいや、全然悪くないよ。佐々木さんすごく元気無いから、ショックとか受けたら心配だから、全然、遠慮しなくていいよ
うん…
いつもお世話になっているんだから(ノートのことで)普通だよ
うん、じゃあ、帰りに…
うん、帰りに
佐々木さんの不安に付け込んで、なんとか一緒に行くことに同意してもらった。彼女が普段と違って強引な僕のことをどう思っているのかはハッキリはしないが、とにかく僕はホッとしていた。
放課後、二人で教室から出て北村さんの家に向かう。うちのクラスだけでなく、るんるんしている生徒は増えているみたいだ。歩きながら体が揺れている奴がチラホラ見られる。
佐々木さんと北村さんっていつから仲良しなの?
うん、中学に入ってからかな。中1の時同じクラスで、家も帰る方向が同じだったから、カオちゃんが「一緒に帰ろう」って言ってくれて
じゃあ、3年間ずっと友達なんだ
うん、帰りに時々カオちゃん家に寄ってマンガ読んだり、お喋りしたりしてた
じゃあ、北村さんの家族とも会ったことあるんだ
うん、お母さんとタケ君、あっ弟ね、カオちゃんの、とはよく会うよ。お父さんは休みの日とか、たまにかな
北村さん弟がいるんだ、何年生?
小5、結構可愛いんだよ。私もあんな弟がいたらな、なんてよく思うんだ
佐々木さんは兄弟いないの?
ううん、いるよ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが
そっか、末っ子なんだ、の割はしっかりしてるよね
うん、前はそうでもなかったけど、中学入ってからは頑張ってるかも
うん、頑張ってると思う。いつもお世話になってるし
少しだけ佐々木さんの顔がほころんだ。彼女とは個人的な話などした事が無かったので歩きながら何を話していいのか全然思い浮かばず、とりあえずその場しのぎで北村さんのことを聞いたのだが、それだと彼女の心配をより大きくしそうで、どう話を切り替えようか困っていたところだった。
僕は一人っ子だから、自分ではしっかりしてるつもりなんだけど、いつも佐々木さんに甘えてばかりで、感謝です
ふふ、そうね当麻君はしっかりというよりちゃっかりじゃない
確かに、ははは
佐々木さんが笑顔になった。僕もつられて微笑んだ。
あっ、そこの角を曲がったらもうすぐカオちゃん家
佐々木さんが曲がり角を
あそこよ
彼女は立ち止まって左手の3軒目を指差した。そして軽く深呼吸して歩き出す。僕も後からついて行く。「北村」と書かれた表札のすぐ下にインターホンが付いているが彼女は押さない。右手に周って2階の窓を見上げる。多分北村さんの部屋なんだろう。カーテンは開けられている。カバンからスマホを取り出してメッセージを打ち込んでいる。打ち終わると「ふぅ」と小さく息を吐いた。僕は彼女と2階の窓を交互に見続けた。
ポン、着信音が鳴った。同時に佐々木さんは顔を上げて窓を見た。北村さんが窓越しに手を振っている。そして、左手で「ゴメンネ」のポーズをとって、また手を振った。佐々木さんは首を横に振った後で、右手を振った。
どうなの、北村さん、大丈夫そう?
うん、元気みたい、見る?
と言って、画面を見せてくれた。
「せっかく来てくれたのにゴメンね!病院の検査はOKだったんだけどママが今日は家から出るなってきつくて、マユが来てるって言ってもNO、心配かけたのはこっちだからしょうがないけどね、ほんとゴメンね」
ほんと、元気そうだね北村さん、それに大丈夫そうだね
うん、よかったー、ありがとね当麻君
うん、じゃあ帰ろうか
うん、帰ろう
僕と佐々木さんの家は方向が大体同じだったので途中まで一緒に歩いて帰った。
じゃあ、また来週バイバイ
うん、ありがとねバイバイ