行動開始

文字数 995文字

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 翌日、1時間目の授業からそれは始まった。

 真中(数学担当)のきっちりした文字で書かれた板書の重要ポイントを教科書に書き込んでいる最中だった、

 大山君、何キョロキョロしているのですか?

 真中の丁寧だが厳しめの声が響いた。
 ちらりと右を見てみると、いつも通りに大山はうつ向いていた。しかし、いつもとは違って目を固く閉じていた・・・スイマセン・・・小さな声がひねり出された。

 真中は何か言いかけたが、すぐに半身になって黒板に向かいポイントの解説に戻った。うつ向いてばかりで決して顔を上げない大山がよそ見をするなんて、何があったんだろうと気にはなったが、真中の数学は忙しいのですぐに大山のことは意識の隅に追いやって僕も授業に復帰した。

 チャイムが鳴って真中は、いつものように次回の予告と黒板のクリーニングを日直に指示して教室を去ろうとしたがドアを開ける直前、チラリと左隅の大山とタカハシに視線を飛ばした。

 2時間目も同じことが起きた。

 気になっていたので、時々頬杖をついて視線だけ大山に向けた。
 机の上で左手の親指と人差し指をこすり合わせていたタカハシが、視界に入ってきた。その左手がゆっくりと机の下に下ろされると、すぐに大山がビクっと震えた。そして、左の方をちらりと見る。タカハシの左腕を確認すると慌てて大山は顔を正面に戻しうつ向いた。

 2時間目はそれが何回か繰り返された。僕が確認しただけで3回。

 大山はその度にビクっとするが、もう顔は動かさなかった。ただ、鉛筆を持つ右手が不自然に震えていた。タカハシは昨日、何も書かれていない黒板を見つめていた時と同じ表情で前を向いていた。
 その日は国語の授業が無かったので、事の全貌はハッキリしなかったが、移動教室の時間を除いてすべての時間にそれは続いた。おそろしく幼稚ないやがらせだった。タカハシという人間から無神経さを削り取ると幼稚で執拗で機械的で虚無的で・・・
 とにかく僕は恐ろしくなった。見てはいけないモノを見てしまった感覚、に襲われて深く目を閉じた。

 次の日も、その次の日もそれは続いた。

 国語の時間はつい、山田の大作を確認するために右を見てしまい視界の端に大山が入ってくるからいやでも分かる。
 そして、あの日以来タカハシの独り言は大きな地声から呟きにかわっていた。

 やってらんねぇよなぁ カンニングがとなりにいると あぁ さいあくだよ 
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