父の不在 ユリカの不安
文字数 1,806文字
変だ……メールも返信がないし、電話も電源が入ってない……何だろう、心配でドキドキしていたら
ルルルルルゥ その心配をズタズタにする、家の電話の着信音が鳴った。
いつもは留守電のアナウンスとメッセージの声を聞いて、大丈夫な相手の時しか受話器を取らないけど、すぐに足が動いてしまった。
“はい…もしもし…” “田中さんのお宅ですか?” “はい…” “私、〇〇学校の砂川と申しますが、田中先生は、いや、田中コウジさんは御在宅でしょうか。娘さんですよね” “はい、いいえ…”
質問が矢継ぎ早に2つされたので、困ってしまった。電話の相手はかなり慌てているようだ。
“すいません。田中コウジさんは今、家にいらっしゃいますか?” “いえ、まだ学校から帰ってません…” “そうですか……” “あの、何か、何か父にあったんですか?” “あっ、いえ、あの、お父さん、今日授業中に、急に早退してしまって…しかもカバンを忘れたまま。それで、どうしたものかと…”
相手(砂川さん)の言葉は歯切れが悪い。
“あの、父は?” “いや、こちらからも連絡が取れなくて、ひょっとしたら家に…と思いまして” “大丈夫なんでしょうか。父は…” “いや、あの…” “警察とかに連絡、捜索願いとか、出したほうが…” “いや、あの、すぐには、あのとりあえず、今晩と明日一日は待ってみてですね、それからですね、考えて、というか…” “父に何かあったら…” “いやあの、事件というか、あの、学校としては事件なんですけど、いや、世間一般的には、事件などではなく、多分大丈夫だと…いや、確信があるわけではないのですが……あの、とりあえず、明日、一日、戻ってくるか、連絡を待っていただいて…それで、ということで、あっ財布は持っているようなので”
受話器の声が膨らんだりしぼんだりする。何を言っているんだろう?
膨らんだ声が覆いかぶさってきたり、しぼんだ声が突き刺さってくる(一日待ってって、お父さんに何かあったら、いや、急に早退って、カバンも持たずにって、何かあったに決まってる)
“あの、明日学校の方でも会議を開いて、で、連絡しますので、それまでご自宅で待っていてもらって、それで、あの、もしお父さんが帰ってきましたら、すぐに連絡を頂きたいと…”
膨らんだ声が私の全身をギュッと包んで息をさせまいとする。クラクラする。声が出しづらい(会議って、何の? 何が? 何を?)
砂川さんは何かを隠している感じがするのだけど、上手く声が出せない。
“あの、では、すいませんが、明日また連絡しますので、宜しくお願いします”
カチャッ……電話は切れたが、私を包んでいるモノはまだ私の体から離れず、ゆっくり受話器は戻したものの心臓がトクトク早打ちしていて、全身が空気を欲しているのだけど、でも上手く息が出来なくて、ハッアウゥーと老婆のうめき声のようなものが口から漏れるまでの10数秒間、私は動けなかった。
心臓はまだ、トクトクしている。体全身から、
<倒れたい、バタンとでもグニャリとでも、何でもいいいいから今すぐ力を抜いて、倒れたい。出来れば意識すらも失ってしまいたい>
そんな危険な信号が、トクトクと一緒に頭の中に流れ込んで来ている。
ススッスーと無理やり息を吸い込んでから、誰かにしがみつかれているように重たくなった左足を引きずるように動かして、さっきまで座っていたイスに腰かけた(崩れ落ちるように)
足だけでなく体全部が物凄く重く感じて、両腕で体を支えるのが精一杯で食卓に突っ伏してしまいそうだった。
動けない…動きたくない…(私を覆っている何かが体から離れてくれない)
今は倒れこんでいる場合じゃない。考えろ!しっかり、しっかり……必死に踏ん張ろうとするけど、頭の中はイヤな音が鳴っているだけで、まださっきの声に包まれてボンヤリしている。(あ~~)と大きな声を出して何とか体に力を入れたいのだけれど、私を包んでいる何かはそれを許さない。
体が重い…足だけじゃなく腕もお腹も胸も……頭の中だけは辛うじて少し動くけど、やっぱり重い。どうしよう…
危険な信号はまだ続いている。視界も世界も歪んでしまいそうだった。クラクラがグラグラに変わりそうな気配がして、すごく気分が悪い。怖い。どうしよう……
“ピー” ザーザーした頭の中に炊飯器が終了の合図を送ってきた。
“ピー、ピー、ピー”
ルルルルルゥ その心配をズタズタにする、家の電話の着信音が鳴った。
いつもは留守電のアナウンスとメッセージの声を聞いて、大丈夫な相手の時しか受話器を取らないけど、すぐに足が動いてしまった。
“はい…もしもし…” “田中さんのお宅ですか?” “はい…” “私、〇〇学校の砂川と申しますが、田中先生は、いや、田中コウジさんは御在宅でしょうか。娘さんですよね” “はい、いいえ…”
質問が矢継ぎ早に2つされたので、困ってしまった。電話の相手はかなり慌てているようだ。
“すいません。田中コウジさんは今、家にいらっしゃいますか?” “いえ、まだ学校から帰ってません…” “そうですか……” “あの、何か、何か父にあったんですか?” “あっ、いえ、あの、お父さん、今日授業中に、急に早退してしまって…しかもカバンを忘れたまま。それで、どうしたものかと…”
相手(砂川さん)の言葉は歯切れが悪い。
“あの、父は?” “いや、こちらからも連絡が取れなくて、ひょっとしたら家に…と思いまして” “大丈夫なんでしょうか。父は…” “いや、あの…” “警察とかに連絡、捜索願いとか、出したほうが…” “いや、あの、すぐには、あのとりあえず、今晩と明日一日は待ってみてですね、それからですね、考えて、というか…” “父に何かあったら…” “いやあの、事件というか、あの、学校としては事件なんですけど、いや、世間一般的には、事件などではなく、多分大丈夫だと…いや、確信があるわけではないのですが……あの、とりあえず、明日、一日、戻ってくるか、連絡を待っていただいて…それで、ということで、あっ財布は持っているようなので”
受話器の声が膨らんだりしぼんだりする。何を言っているんだろう?
膨らんだ声が覆いかぶさってきたり、しぼんだ声が突き刺さってくる(一日待ってって、お父さんに何かあったら、いや、急に早退って、カバンも持たずにって、何かあったに決まってる)
“あの、明日学校の方でも会議を開いて、で、連絡しますので、それまでご自宅で待っていてもらって、それで、あの、もしお父さんが帰ってきましたら、すぐに連絡を頂きたいと…”
膨らんだ声が私の全身をギュッと包んで息をさせまいとする。クラクラする。声が出しづらい(会議って、何の? 何が? 何を?)
砂川さんは何かを隠している感じがするのだけど、上手く声が出せない。
“あの、では、すいませんが、明日また連絡しますので、宜しくお願いします”
カチャッ……電話は切れたが、私を包んでいるモノはまだ私の体から離れず、ゆっくり受話器は戻したものの心臓がトクトク早打ちしていて、全身が空気を欲しているのだけど、でも上手く息が出来なくて、ハッアウゥーと老婆のうめき声のようなものが口から漏れるまでの10数秒間、私は動けなかった。
心臓はまだ、トクトクしている。体全身から、
<倒れたい、バタンとでもグニャリとでも、何でもいいいいから今すぐ力を抜いて、倒れたい。出来れば意識すらも失ってしまいたい>
そんな危険な信号が、トクトクと一緒に頭の中に流れ込んで来ている。
ススッスーと無理やり息を吸い込んでから、誰かにしがみつかれているように重たくなった左足を引きずるように動かして、さっきまで座っていたイスに腰かけた(崩れ落ちるように)
足だけでなく体全部が物凄く重く感じて、両腕で体を支えるのが精一杯で食卓に突っ伏してしまいそうだった。
動けない…動きたくない…(私を覆っている何かが体から離れてくれない)
今は倒れこんでいる場合じゃない。考えろ!しっかり、しっかり……必死に踏ん張ろうとするけど、頭の中はイヤな音が鳴っているだけで、まださっきの声に包まれてボンヤリしている。(あ~~)と大きな声を出して何とか体に力を入れたいのだけれど、私を包んでいる何かはそれを許さない。
体が重い…足だけじゃなく腕もお腹も胸も……頭の中だけは辛うじて少し動くけど、やっぱり重い。どうしよう…
危険な信号はまだ続いている。視界も世界も歪んでしまいそうだった。クラクラがグラグラに変わりそうな気配がして、すごく気分が悪い。怖い。どうしよう……
“ピー” ザーザーした頭の中に炊飯器が終了の合図を送ってきた。
“ピー、ピー、ピー”