第17話:リーマンショックの後始末1

文字数 1,544文字

 そのため、相当以前からリーマンの資産査定を中立の第三者に委託するなど準備をしていた。そこで、12日に買収話が持ち込まれたとき、関係者は週末のうちには買収が決定され発表にいたるものと予期し、全世界のバークレイズの支店の幹部は週末の間、公式発表に備えて世界各地で待機していた。ところが予想に反し、いつまでたってもロンドンの本店から連絡がなかった。

 9月14日の夜、本件を監督する英国の金融庁からバークレイズに、「買収にあたり特別手続きを認めるわけにはいかないので法律に定める通り24時間以内に臨時株主総会を開いて株主の了解をとることが買収を承認する条件である」旨の最終連絡があった。数時間以内に臨時株主総会を開催して、週明け月曜日の市場の動揺を押さえ込むことは物理的に不可能で、実質的に英国政府の拒否回答をした。

 その後、英国政府がバークレイズによるリーマンの買収に反対であると聞いた米国政府側ポールソン財務長官、ガイトナーニューヨーク連銀総裁は真っ青になった。すぐさま英国の金融庁総裁に電話連絡して買収成立には株主投票を必要だとするロンドン市場の上場基準の適用除外をお願いした。しかし、「本件は金融庁で決定できる事項ではなく英国大蔵省の判断事項である」との冷たい回答があるだけだった。

 ポールソンは回顧録の中でポールソンが本件についてダーリング英国蔵相と電話で交渉した際にダーリング蔵相は「悪びれた気配など微塵も示さず、バークレイズによるリーマン買収はありえないと言い切った。」と書いた。冷静に見れば米国市場において間違いを犯したリーマンを英国の会社でもずっと小さいバークレイズが買収する訳にはいかないと考えた。

もし買収すれば、その結果、万一、共連れでバークレイズが破綻する場合は結局英国の納税者の税金で対応せざるを得ないことを考えると、合併問題に関する英国政府の最終的な判断には理解できる部分があることは否めない。しかし、ここには大きな問題点があった。2008年9月15日にリーマンは膨大な規模の国際取引を解消することなく破綻した。

 このため、その影響はAIGのロンドン支店を始め、全世界におよぶ様な大規模な世界恐慌を発生させた。米国と英国の政府の金融担当者「米国側ではポールソン財務長官、ガイトナーニューヨーク連銀総裁、英国側ではダーリング大蔵大臣そしてゴードン・ブラウン総理大臣」が協力してバークレイズによるリーマンの買収の交渉がまだ続いているかのような雰囲気を市場に醸し出そうとした。

 それにより、リーマンを1週間でも生き延びさせ、次の週末までにリーマンの国際取引を解消した上で破綻させれば、今回のようなことにはならなかったと、その後、思われた。もちろんリーマンブラザーズが全ての海外取引を解消したうえで清算した場合には、金融システムを守るために米国政府が米国の納税者の税金を使ってリーマンブラザーズを救済する、

 もしくは、リーマンを破綻させても米国の他の金融機関に対する影響を食い止めるために、多額の公的資金の注入が必要だったものと考えられる。そして、その際には、このような多額の公的資金、即ち税金を使うことについて、納税者が納得できる説明をする必要がある。さらに、金融機関の経営者の経営責任や政府監督当局の監督責任が厳しく追及されたはずだ。しかし、現実には、行われなかった。

 しかし、アメリカでは、リーマンショックの約2ケ月前にアメリカでは、2008年7月以降、それまでくすぶっていたGSE2社、ファニーメイ「連邦抵当金庫」とフレディマック「連邦住宅抵当貸付公社」の経営不安が再燃し、アメリカ政府は、最終的に2008年9月7日、2社を一時的に政府の管理下に置くことを発表した。
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