第44話 ビックボーイブルースにて

文字数 935文字

 <ビックボーイブルース>の店内ではジャズではなくロックが流れていた。
 エイトビートのリズムに乗ったハスキーボイスの男性が社会を風刺した歌だ。すんなりと心の中に響いてくる。
 
「ここはにぎやかだね」
 創一郎がシャロンを見つめてワインを飲み干した。
「ほんと。いつもは客が少ないのに今日に限って。でも、ふたりで会うのも久しぶりだね」
 電話ではいつも話してはいるが会うと新鮮な気分になるものだ。顔を近づけ他愛もない世間話は二人の距離を縮める効果がある。

「そうだわ。創一郎はどう思う?例の微生物の件」
 創一郎の意見を聞きたかった。以前、あかりちゃんの考えにも納得はしていた。
「そうだな。難しい問題だ。しかし、医師の立場から言うと微生物は使うべきだ。人を救えるならなんだって使う。しかも副作用が全くない。倫理的に問題もない」
 予想通りの回答だ。いつも創一郎の聡明な考えには一貫性がある。
「でも、環境が変わってしまったらどうするの?」
「劇的に変わるとも思えないし、変わりそうならその時に対応する。向こうの世界でも普通に使用しているくらいだから大丈夫なはずだしね」
「そうよね。もう太郎くんも微生物を知ってしまっているし」
「もう戻れない。太郎は自分が発見したと思っている。もう頭の中で化学式が並んでいるはずだ」
 太郎に顔を思い浮かべ創一郎が苦笑いをした。
「ケインはどうするのかな」
 シャロンがワインを飲み干した。
「前に進むしかないな」

「おかわりはどう?」
 ジョイがワインボトルを持ってきた。
「ジョイ。ありがとう。嬉しいわ。こちらは創一郎」
 創一郎は立ち上がり握手をして笑顔で自己紹介した。
 その姿を見た瞬間にシャロンが愛するはずだとジョイは一瞬で理解した。
「ジョイに色々と助けられたのよ」
「そうなんだ。シャロンの事、ありがとう」
「いいえ。シャロンならいつでも歓迎だ」
「一緒に飲むかい?」
 創一郎は誘ったがジョイは仕事があるからと丁重に断って、カウンター内に戻りスティーブンの話し相手をした。
「彼は君に気があるらしいな」
「そう?」
「ここはいい店だ」
「ケインの店よ」
 奥のテーブルではステュアートとマリアがこちらを見てにやにやしている。
「いい店だ」
 創一郎はグラスを掲げて二人にウィンクした。






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登場人物紹介

シャロン。特別捜査部処理課SIDの特別捜査官。シーズン1ではSHIHOとして潜入捜査をしていた。過去に治験された薬の影響に悩まされる。<向こうの世界>へ行った経緯がある。

ケイン。特別捜査部処理課SIDの責任者。シャロンのボス。シャロンの父親代わり。

創一郎。ファミリー製薬会社の社長。シャロンの恋人。幼き頃シャロンと同様に治験された過去を持つ。

スティーブン。特別捜査部処理課SIDの特別捜査官。ケインの右腕。シーズン1ではシャロンと共に潜入捜査していた。

レイチェル。シャロンの血のつながらない妹。小学校の先生。

マリア。特別捜査部処理課SIDの特別捜査官。シャロンの同僚。

ステュアート。特別捜査部処理課SIDの特別捜査官。シャロンの同僚。

徹。創一郎の弟。ファミリー製薬会社の天才研究者。

そうじ屋。通称ブラック。スティーブンの仲間で殺し屋。

通称リペア。殺し屋。

ミラー。自称カウンセラー。

ジェームズ長官。

ハリス州知事。

マシュー。高校を中退。<地球守護会>に入会し自然保護活動に没頭する。

グレース。

キム。向こうから来た研究者。

大統領。ケインの昔からの友人。

国家中央情報局 局長 ロバート。

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