第19話 ミラーの元へ
文字数 1,946文字
シャロンはミラーのところへ行くしかなかった。そこは誰も知らない安全な場所だ。
黄色く塗られたレンガ造りの家に描かれた大きな顔は涙を流していて、子猫の横にはネズミが書き足されていた。
<ガチャ>
扉が開く。鍵はかかっておらず誰でも入れる状態だ。
「そうかい。やっぱり来たわね。シャロン。大変なことになっているわね。大々的にニュースになっているわよ」
ミラーは笑いながら背中越しにシャロンに話しかけた。いつものように派手なワンピースを着ている。
「ええ。そうみたいね」
ゆっくりと立ち上がりコーヒーを淹れたカップをシャロンに渡した。
「ありがとう。もう行くところがないの。少しかくまってくれない?」
深くフードを被ってサングラスをしているシャロンはミラーに助けを求めた。
「もちろんよ。いつまでも居ていいよ」
その言葉を聞きやっと落ち着きを取り戻しコーヒーを口に含み、サングラスを外した。
ミラーは机に戻り、いつものように何か書き物を始める。
「真犯人を捜したい。わたしはどうしたらいいの?わからないわ」
彼女なら答えを導きだしてくれるかもと期待した。
「そうね。今は勝手に動いたらダメだわ。チームに任せてじっとしているの。感覚を研ぎ澄まして何かを感じるのよ。いつものように」
ミラーの言葉には力があり信頼しきるものを感じる。
「いつものようにね......もし、もしなんだけど......例の薬をまた打たれたらどうなるの?」
ミラーは驚いて椅子を回転させ振り返った。
「まさか......」
「ええ、そ、そのまさかよ」
困った顔をして考え込んだ。
「それはマズイわねぇ。また向こうの世界へ行ってしまうか、もしくはパラレルワールドに分岐点を作ってしまい、違うもう一つの現実へ行ってしまうか......わからないわね」
ミラーもまた違う星という解釈ではなく、パラレルワールドだと確信している。
少し考え込んでシャロンが話し始めた。
「ちょっと数日間の記憶が飛んでいるの。その薬のせいで無意識にテロを起こしたりすることってある?」
シャロンには爆弾の知識もある。地図には三か所自分自身で印をつけた。最近の行動が思い出せない。自分自身を疑う材料は揃っていた。
「それはあり得るわ。でもシャロンじゃない。薬を打たれたとしても悪の行動は無意識に制御できるはずだわ」
ミラーにも分からなかった。三度もあの忌まわしい薬を打たれたらどうなるかは想像すらできなかった。記憶が消えるのは確かだ。あの薬を打つと脳に微量の電流が到達するから記憶を改編してしまうことだって無くはない。何が起こっても不思議なことはない。
「シャロン、そこの扉を開けて下の部屋に行って。すべてそろっているから何でも使っていいわ。ただ驚かないでよ」
「ありがとう」
シャロンは扉を開けて螺旋階段を下りて部屋へ行き、そして驚いた。入口から見えたのは防犯カメラ三台。中はまるで秘密基地、いや作戦本部のようだ。部屋は割と広く大きな机の上には電話、パソコンが三台、モニター二台、NL州の地図、ガラスの扉の向こうには銃が並んでいた。奥には部屋が数室、ベッドがありシャワールームにトイレまで完備してある。
「なんなの、ここは......」
ミラーの正体がわからなくなる。昔にお世話になった先生は表の顔なのか?
あの時同じように治験されたのは嘘なのか?味方?敵?
シャロンはますます混乱してきた。
ミラーも上の部屋から降りてきた。
「驚くのも無理はないわね。色々と調べてるの。あたしも被害者だからね」
シャロンは机の資料に次から次へ目を通していた。
「極秘事項もあるわ」
「シャロン。あたしは紛れもなく味方よ。心配しないで頂戴」
「ええ。わかっているわ」
<もう来ているかも......>
「奥の扉を開けてごらん」
言われた通りシャロンは頑丈そうな木の扉を手前に引いた。
音楽が流れていて扉の向こうはジャズバーのカウンターの中だった。もちろん防犯カメラが上から見張っている。
マスターらしき男の人がグラスを磨いている。
「どうなっているの?これはいったい」
「そうよ。ここはジャズバーで《ビッグボーイブルース》っていうところ。通りの向こう側に入り口があるの。裏口はカウンターの中からこの部屋につながっているのよ」
開店前らしく客はいない。
「彼はジョイ。あたしの息子」
「こんばんは」
ジョイが軽く会釈をした。年は二十三歳でイケメン。どこか創一郎と似ている。ここは少しうす暗く店名に似合わず格調高い雰囲気のいい店だ。
「玄関の鍵はかけておくわ。丈夫なものに変えないとね」
シャロンは戸惑いしかなかった。
「悪が栄えた事などないわよ。最後は正義が勝つものよ」
黄色く塗られたレンガ造りの家に描かれた大きな顔は涙を流していて、子猫の横にはネズミが書き足されていた。
<ガチャ>
扉が開く。鍵はかかっておらず誰でも入れる状態だ。
「そうかい。やっぱり来たわね。シャロン。大変なことになっているわね。大々的にニュースになっているわよ」
ミラーは笑いながら背中越しにシャロンに話しかけた。いつものように派手なワンピースを着ている。
「ええ。そうみたいね」
ゆっくりと立ち上がりコーヒーを淹れたカップをシャロンに渡した。
「ありがとう。もう行くところがないの。少しかくまってくれない?」
深くフードを被ってサングラスをしているシャロンはミラーに助けを求めた。
「もちろんよ。いつまでも居ていいよ」
その言葉を聞きやっと落ち着きを取り戻しコーヒーを口に含み、サングラスを外した。
ミラーは机に戻り、いつものように何か書き物を始める。
「真犯人を捜したい。わたしはどうしたらいいの?わからないわ」
彼女なら答えを導きだしてくれるかもと期待した。
「そうね。今は勝手に動いたらダメだわ。チームに任せてじっとしているの。感覚を研ぎ澄まして何かを感じるのよ。いつものように」
ミラーの言葉には力があり信頼しきるものを感じる。
「いつものようにね......もし、もしなんだけど......例の薬をまた打たれたらどうなるの?」
ミラーは驚いて椅子を回転させ振り返った。
「まさか......」
「ええ、そ、そのまさかよ」
困った顔をして考え込んだ。
「それはマズイわねぇ。また向こうの世界へ行ってしまうか、もしくはパラレルワールドに分岐点を作ってしまい、違うもう一つの現実へ行ってしまうか......わからないわね」
ミラーもまた違う星という解釈ではなく、パラレルワールドだと確信している。
少し考え込んでシャロンが話し始めた。
「ちょっと数日間の記憶が飛んでいるの。その薬のせいで無意識にテロを起こしたりすることってある?」
シャロンには爆弾の知識もある。地図には三か所自分自身で印をつけた。最近の行動が思い出せない。自分自身を疑う材料は揃っていた。
「それはあり得るわ。でもシャロンじゃない。薬を打たれたとしても悪の行動は無意識に制御できるはずだわ」
ミラーにも分からなかった。三度もあの忌まわしい薬を打たれたらどうなるかは想像すらできなかった。記憶が消えるのは確かだ。あの薬を打つと脳に微量の電流が到達するから記憶を改編してしまうことだって無くはない。何が起こっても不思議なことはない。
「シャロン、そこの扉を開けて下の部屋に行って。すべてそろっているから何でも使っていいわ。ただ驚かないでよ」
「ありがとう」
シャロンは扉を開けて螺旋階段を下りて部屋へ行き、そして驚いた。入口から見えたのは防犯カメラ三台。中はまるで秘密基地、いや作戦本部のようだ。部屋は割と広く大きな机の上には電話、パソコンが三台、モニター二台、NL州の地図、ガラスの扉の向こうには銃が並んでいた。奥には部屋が数室、ベッドがありシャワールームにトイレまで完備してある。
「なんなの、ここは......」
ミラーの正体がわからなくなる。昔にお世話になった先生は表の顔なのか?
あの時同じように治験されたのは嘘なのか?味方?敵?
シャロンはますます混乱してきた。
ミラーも上の部屋から降りてきた。
「驚くのも無理はないわね。色々と調べてるの。あたしも被害者だからね」
シャロンは机の資料に次から次へ目を通していた。
「極秘事項もあるわ」
「シャロン。あたしは紛れもなく味方よ。心配しないで頂戴」
「ええ。わかっているわ」
郭
の最後の言葉が頭の中で何度も繰り返される。<もう来ているかも......>
「奥の扉を開けてごらん」
言われた通りシャロンは頑丈そうな木の扉を手前に引いた。
音楽が流れていて扉の向こうはジャズバーのカウンターの中だった。もちろん防犯カメラが上から見張っている。
マスターらしき男の人がグラスを磨いている。
「どうなっているの?これはいったい」
「そうよ。ここはジャズバーで《ビッグボーイブルース》っていうところ。通りの向こう側に入り口があるの。裏口はカウンターの中からこの部屋につながっているのよ」
開店前らしく客はいない。
「彼はジョイ。あたしの息子」
「こんばんは」
ジョイが軽く会釈をした。年は二十三歳でイケメン。どこか創一郎と似ている。ここは少しうす暗く店名に似合わず格調高い雰囲気のいい店だ。
「玄関の鍵はかけておくわ。丈夫なものに変えないとね」
シャロンは戸惑いしかなかった。
「悪が栄えた事などないわよ。最後は正義が勝つものよ」