文字数 1,285文字


『拝啓 橘刑事


この手紙をあなたはどこで読むのでしょう。

天国? それとも地獄?

どちらにしても、私たちはまたその場所で会えると思う。

あなたが人身売買をしていることを知ったとき、私には1ミリの迷いもなかった。

手伝いをしたい、という私を拒否したあなただけれど、どうしても役に立ちたかった。

勝手に『脅迫状』を送った私を、あなたは怒ったよね?

それはもう、殺されるかと思ったくらい。

だけど、私はあなたと同じ罪を背負いたかった。

宮崎悠香の誘拐を手伝ったことで、ようやくパートナーとして認めてくれたとき、本当にうれしかったの。

レポーターから情報を聞き出したのはお手柄でしょう?

彼女は私が共犯とも知らないで、情報の交換を提案してきた。

同じように琴葉にも話をしていたのには驚いたけれど、私が出したウソの情報に満足そうだった。

『警察署内に人身売買に関わっている人がいるらしい』

なんて情報を、メディアに出させるわけにはいかなった。

そこから私はみんなとの約束の時間までにレポーターを始末し、あなたはカメラマンを亡き者にしたよね。

はじめて人を殺す、という怖さよりもあなたと同じ罪で結ばれたことが、ほんとうにうれしかったんだよ。


すべてうまく行くはずだった。


最初からあなたは『いつか俺が疑われる日が来るかもしれない』なんて言ってた。

『その日が来たら、すべての罪をかぶる』とも。

私が誘拐されたことにするシナリオも、本当は乗り気じゃなかった。

琴葉や結城さんの推理次第では、ふたりを殺すか、あなたが逮捕されることになっちゃうから。

だけど、あなたは違うシナリオを選んだ。

結城さんに撃たれて殺される、という道を。


正直に言うと、私はがっかりしてるの。

だって、最後、私を殺さなかったでしょう。

足なんて撃って、これじゃあ私ひとりが残されることになるもの。

一緒に死んでも構わなかったのに。

これまでも何度も言ってきたじゃない。

『死ぬときも一緒だよ』って。

だから、私は殺してほしくてあなたの前に飛び出したのに。

だけど、それがあなたからの愛なんだ、と今は思えるよ。




今、病室でこうしてあなたに手紙を書いています。

いつかきっとまた会える日がくる。

その日まで、あなたの意志は私が受け継ぎます。

女子高生にできるとは思えないけれど、あなたの残した組織は守ります。

それくらい、あなたが好きだから。

あなたの名前、京史を『きょうじ』と間違えて読んだ私を笑った顔が忘れられない。

『きょうちゃん』なんて、わざと呼ぶ私を抱きしめてくれた感触が今でも残っているよ。

しばらくお別れだけど、いつかあなたのもとへ行く日を楽しみにしています。

だから、それまでしばらくの間さようなら。


さようなら、私の刑事。



さようなら京史(ケイジ)。




サヨナラケイジ。




            友季子より』




                      完


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