第81話 歪んだ悪意 - Overdrive

文字数 2,983文字

 ――四月××日――


 高校入学。

 やった! 私は最高にツイてる!

 高橋(駿)くんと同じ高校に合格して、

 しかも同じクラス!

 幸運の女神が私に微笑んでくれた!

 きっと楽しい毎日が待ってる!

 そして、いつか自分の思いを伝えるんだ……!


 ◇ ◇ ◇

 ――四月○×日――


 高橋くんが

 いつもぼっちだった

 山田さんをお昼に誘っていた。

 高橋くんは、ホントに優しい!

 誰にも相手にされない可哀想で

 哀れな女子に手を差し伸ばすなんて

 中々できることじゃない。

 やっぱり高橋くんはカッコイイなぁ……


 ◇ ◇ ◇

 ――五月××日――


 許せない! あのブス!

 あのブスが高橋くんと

 カフェでランチしていた。

 駅前へ買い物に行ったら、

 偶然見てしまった。

 高橋くんの優しさにつけ込んだんだ!

 高橋くんは、無理矢理

 楽しそうに装っていた。

 辛い思いをしてまで

 あんなブスと食事するなんて……

 高橋くんが可哀想だ……


 ◇ ◇ ◇

 ――五月○×――


 最悪の日。

 あのブスがバカ三人に絡まれていたから、

 委員長として

 仕方なく助け舟を出してやった。

 ワイセツな小説を読んでいたから

 それを注意してやった。

 そうしたら、伊藤(キララ)が

 噛み付いてきやがった。

 高橋くんもあの哀れなブスを

 仕方なくかばった。

 高橋くんだって、あんなそばかすだらけの

 気持ち悪い女をかばいたいわけがない。

 高橋くんの意を汲んで、

 ブスに頭を下げてやった。

 あのブス!

 いつまで高橋くんの優しさにつけこむ気だ!

 許せない!


 ◇ ◇ ◇

 ――五月○○日――


 気分がイイ。

 あのブスに鉄槌を下してやった。

 花に罪は無いが

 あんなブスに育てられたのが悪い。

 ブスめ!

 自分が罪深い存在であることを

 思い知ればいい。


 ◇ ◇ ◇

 ――五月△×日――


 あのブス!

 お涙頂戴でクラス中をたぶらかしやがった。

 バカ三人もしゃしゃり出てきやがった。

 死ねばいいのに。

 しかも、横にいた私は見てしまった。

 高橋くんがあのブスの手を握るのを。

 高橋くんは、あのブスに騙されている。

 まさか弱みを握られているのか?

 そうであれば、必ず高橋くんを救い出す!


 ◇ ◇ ◇

 ――六月××日――


 あのブスとバカ共が

 種を植えたと騒いでいた。

 高橋くんも巻き込まれているらしい。

 いい迷惑だろう。可哀想だ。

 カメラがあちこちに設置されるらしいので

 同じ鉄槌は下せない。

 だから、見えない鉄槌を下す。

 まずは、あのブスを味方するヤツを減らす。

 暴力女の中澤(亜由美)は後回しにして

 まずは、あのバカ共だ。

 あんなチャラチャラした格好を

 しているのが悪い。

 あんなバカ共がいるから

 校内の風紀が乱れるんだ。


 ◇ ◇ ◇

 ――六月○×日――


 見えない鉄槌が

 徐々に広がっていることを感じる。

 あのふたりもこころなしか

 ダメージを受けているように見える。

 厄介な伊藤(キララ)を引き離せば

 あのふたりはただのバカだ。

 これは高橋くんを救うための正義の鉄槌!

 この先が楽しみだ。


 ◇ ◇ ◇

 ――七月××日――


 絶対許せない!

 忘れ物を取りに学校へ行ったら

 あのブスが似合わない浴衣を着て

 高橋くんと腕を組んでいた。

 アイツは夏休みまで

 高橋くんの優しさを利用するのか!

 アイツは高橋くんを騙している!

 絶対にそうだ!

 ねんねの振りして、身体を使って

 たぶらかしているのかもしれない。

 あんな気持ち悪くても一応女だ。

 高橋くんだって男の子。

 目の前で脱がれたら

 誘惑に乗ってしまうかもしれない。

 いや、それすらも無理矢理かもしれない。

 ふざけやがって!

 私は絶対に

 高橋くんを私の元に連れ戻してみせる!

 高橋くんの幸せは

 私の元にあるのだから!


 ◇ ◇ ◇

 ――七月△○日――


 中学時代、塾で仲の良かった友達と遊んだ。

 ボウリングやったりして楽しかった!

 そのまま友達の家にお邪魔させてもらった。

 面白いものを見つけた。

 あのブスの小学生の頃の写真だ。

 アイツ、身体中にそばかすがあるらしい。

 ボツボツだらけの背中は

 吐き気がするほど気持ちが悪い。

 友達にお願いして、その写真と

 他にも数枚の写真をもらった。

 鉄槌を下す道具になるかもしれない。


 ◇ ◇ ◇

 ――八月○×日――


 超気分がイイ!

 ショッピングセンターのゲームセンターで

 ブスやバカ共が頭の悪そうな男に

 絡まれているのを見た。

 遠目で見ただけだが

 とりあえず放っておいた。

 ざまぁみろだ!

 いい気味だ!

 これは天罰なんだ!

 神様は見ているんだ!

 そのままどこかに

 連れてかれてしまえばいい!

 きっと良い夏の思い出ができるだろう。


 ◇ ◇ ◇

 ――九月××日――


 最悪だ。

 見えない鉄槌を

 高橋くんが払拭してしまった。

 私はあなたのためにやっているのに……

 きっとあのバカ共が身体をつかって

 高橋くんを籠絡させたんだ!

 援助交際とかパパ活とかやってるから

 そういうことには頭が回る。

 誰に抱かれたか分からない

 けがらわしいあの身体で高橋くんを……!

 なんて忌々しい!

 高橋くんに私の気持ちは届いている。

 高橋くんが私と同じ気持ちなのも

 分かっている。

 お願い、早く私の元に帰ってきて……


 ◇ ◇ ◇

 ――九月○×日――


 うまくいかない。

 高橋くんは、一体どうしたんだろう……

 チビブスと売女がふたりでいたから、

 売女を煽って

 暴力をふるわせようとしたが

 チビブスが止めやがった。

 しかも、あのチビブス

 この私に生意気な口を……!

 由紀乃も私の邪魔をする。

 うっとうしい!

 この期に及んで

 高橋くんまであのチビブスと売女の味方をした。

 高橋くんは洗脳されている。

 間違いない。

 あのチビブスが元凶だ。

 高橋くんは、アイツと関わるように

 なってからおかしくなった。

 私のそばから離れていってしまったんだ。

 やはりあのチビブスをどうにかしなければ。


 ◇ ◇ ◇

 ――十月××日――


 気分爽快!

 クソ生意気なチビブスに

 鉄槌を下してやった!

 夏休みに入手した写真を

 アイツらに見せつけてやった。

 あのチビブス、ブッ倒れてやんの!

 車にひかれたカエルみたいに

 ひっくり返ったアイツ見て、

 笑いを堪えるのが大変だった。

 保健室直行。

 そのまま、もう学校来んな。


 ◇ ◇ ◇

 ――十月○△日――


 余計なことしやがって!

 今度は、渡辺(遥)が調子に乗り始めた。

 あのチビブスにコスプレとメイクをさせた。

 みんなからチヤホヤされて

 チビブスが勘違いしている。

 しかも、私の高橋くんのところに

 すっ飛んでいきやがった。

 汚い手を使って私の高橋くんを奪った

 薄汚い泥棒ネズミめ!

 やっぱり、アイツを排除するしかない。

 排除すれば、高橋くんは目を覚まして

 私の元へ戻ってくるんだ。


 害虫は始末しなければ。


 ◇ ◇ ◇

 ――十一月××日――


 やってやった!

 害虫ごときが調子に乗ってるからだ!

 学校もバカしかいない。

 生徒がいるうちは

 防犯カメラを動かさないって、アホすぎる。

 でも、学校がバカだったおかげで

 害虫を駆除できた!

 これで高橋くんの洗脳も解けるはず。

 高橋くんが私の元に戻ってくる!

 もうじっとしていられない!

 こんなに興奮しているのは

 生まれて初めてだ。


 高橋くん、もうすぐだからね……

 私、待ってるからね……

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登場人物紹介

【主人公】


山田 幸子(やまだ さちこ)


高校1年生。通称「さっちゃん」。

身長150cm弱と小柄で、少し猫背気味。

背中に届く位の黒髪は、くせっ毛で所々が跳ねている。

胸もお尻もぺたんこ。顔全体に色濃くそばかすがある。


真面目でぼっち気質、自分を卑下する傾向が強い。

頭の中に響く<声>に悩まされている。

そばかすのコンプレックスと辛い過去が原因で、すべてを諦めている。

山田 澄子(やまだ すみこ)


幸子の母親。三十代後半。

黒髪をボブにしており、少しだけぽっちゃり気味。

美人ではないが、醸し出す優しげな雰囲気で可愛らしい印象。

高橋 駿(たかはし しゅん)


高校1年生、幸子の同級生。

身長180cmの細マッチョ。

肩くらいまで伸ばした目立たない程度の茶髪をポニーテールにしている。

いわゆるイケメンで、人当たりも良く、男女ともに人気が高い。

勉強も運動も得意な完璧超人。グループのリーダー格。

中澤 亜由美(なかざわ あゆみ)


高校1年生、幸子の隣のクラス。

身長160cm、標準体型だが少し細身。

背中まで伸びる派手な金髪のストレートヘアー。

端正な顔つきの結構な美人。人当たりも良く、人気が高い。

駿とは、小学生時代からの長い付き合い。

谷 達彦(たに たつひこ)


高校1年生、幸子の同級生。通称「タッツン」。

身長180cm弱の細マッチョ。

黒髪のツンツンヘアーに、目深に巻いたバンダナがトレードマーク。

無愛想で口が悪いので友だちは少ないが、実際は思いやりのある男の子。

武闘派で喧嘩っ早い。駿とは幼い頃からの長い付き合いで親友の間柄。

小泉 太(こいずみ ふとし)


高校1年生、幸子の隣のクラス(亜由美の同級生)

身長170cm、体重100kgの大柄な体格で、坊主頭にしている。

マイペースで、食欲が第一優先事項。

いつもニコニコしていて、物腰も柔らかいため、男女ともに人気は高い。

駿とは中学生時代からの付き合い。

山口 寿璃亜(やまぐち ジュリア)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団のリーダー格。

肩先まで伸びる黄色に近い金髪の白ギャル。

ノリ優先のお調子者でいつも賑やか。胸が大きい。

竹中 心藍(たけなか ココア)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団のマスコット枠。

背中まで伸びるストレートの銀髪の黒ギャル。

ほんわかしているが、時折下世話な爆弾を投げ込む。胸がすごく大きい。

伊藤 希星(いとう キララ)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団の良識枠で、影のリーダー。

茶髪のショートヘアのお姉さん。ギャル軍団のまとめ役兼ツッコミ役。

普段優しい分、キレると本気で怖い。胸が慎ましい。

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