第83話 歪んだ悪意 - Feedback (2)

文字数 4,120文字

 幸子を階段から突き落とした犯人は、委員長・櫻井 珠子だった。
 駿と幸子は、山辺生徒会長に相談し、校長との面会、防犯カメラの映像確認の立ち会いを行うことになった。

 ――木曜日の放課後

 校長室へ向かう山辺生徒会長、駿、幸子の三人。

「会長、仕事早すぎですよ……」

 駿が少し呆れた感じで話した。
 それに笑顔で返す会長。

「時間ばかりかけてもしょうがないからな」
「できる人は違いますね……」

 幸子は、会長を尊敬の眼差しで見つめた。

「女性にそう言われると、純粋に嬉しいね」

 ニッと笑う会長。

「さ、さっちゃん! オレ、オレもがんばったからね!」

 ふたりの様子を見て、焦る駿。

「はい、駿くんを一番頼りにしていますから」

 幸子は、優しい笑顔で駿に微笑みかけた。
 幸子の言葉に、ふふんっ、と気を良くする駿。

「高橋(駿)くん、私は馬に蹴られるようなことはしないよ」

 会長の言葉に、顔を赤くしたふたり。
 そんなふたりを見て優しく微笑む会長だった。

 校長室の前まで来た。

「ふたりとも準備はいいかい?」

 頷くふたり。

「よし」

 コンコン

「はい」

 扉の向こうから校長の声が聞こえる。

「山辺(会長)と高橋(駿)、山田(幸子)が参りました。失礼します」

 カラカラカラカラ

 扉を開けると、校長はすでに立っていて、ソファに座るように促された。
 駿が幸子を見ると、少々緊張しているようだ。
 肩をポンポンと叩く駿。
 幸子は、緊張がほぐれたのか、笑顔に戻った。

 口火を切る会長。

「校長先生、お忙しいところお時間を頂戴しまして、ありがとうございます」

 会長の言葉と共に、駿と幸子は頭を下げた。

「そんなに堅苦しくならないで。ここは私しかいないから、リラックスしてください」

 校長が優しく微笑む。

「まず、防犯カメラの件ですが……」
「うん、山辺くん。先にこれを見てくれないか」

 何枚かの書類を会長に手渡した校長。
 会長は書類に目を通す。

「すでに校長先生は問題点を……」
「そうなんだ。せっかくカメラを設置しても、きちんと運用ができていないとね……だから、私の方で運用案の叩き台をつくっていたんだ」
「先生方のセキュリティの意識向上も課題ですね」
「そうだね、山辺くんの言う通りだ」
「叩き台を拝見させていただきましたが、運用面の改善が見込めそうです」
「今は、すでに防犯カメラを運用している学校から情報を集めているところなんだ」
「わかりました。先走った指摘をしてしまい、大変失礼いたしました」
「いや、生徒が学校のセキュリティに高い感心を持つのは良いことだ。私たちだけでは気が付かないこともあるからね」
「そう言っていただけると救われます」

 頭を下げる会長に、校長はニッコリ微笑んだ。

「それと、もうひとつの件だけども……」
「はい、それはここにいる高橋くんと山田さんから説明をさせます。ふたりともいいかな?」

 会長の振りに頷くふたり。

「校長先生、一年の高橋と申します。お忙しいところ、ありがとうございます」

 改めて頭を下げた駿。

「先日の文化祭の後夜祭の後、ここにいる山田さんが階段から転落する事故がありました」
「うん、鈴木先生から報告は受けているよ。山田さん、大きな怪我が無くて良かったね」
「はい、ありがとうございます」

 幸子も改めて頭を下げる。

「改めまして、一年の山田と申します。ここから話の本筋なのですが、鈴木先生には転落したとお伝えしたのですが、実は突き落とされたんです」
「!」

 校長が驚きの表情に変わった。
 説明を続ける駿。

「今、山田さんから話のあった通りなのですが、もしかすると防犯カメラの映像が残っているのではないかと考えております」
「そうだね……今は細かな設定ができていないから、その日は二十四時間稼働しているはずだよ」

 会長が口を挟んだ。

「校長先生、その映像を確認させてもらえないでしょうか?」

 悩む校長。

「これは警察に届け出る必要があると思うのだが――」

 幸子が校長の言葉に被せるように話した。

「校長先生、私はこの件を警察沙汰にするつもりはないんです」

 また驚きの表情になった校長。

「え、山田さん、そんな目にあったんだから……」
「自分でもよく考えましたし、母にも相談して了承を得ています」
「うーん……とにかく映像を確認してみよう。三人ともそれでいいね?」
「はい」

 三人とも声を揃えて返答した。

「じゃあ、サーバー室へ行ってみよう」

 四人は校長を先頭に、生徒指導室の隣の部屋へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 ガチャリ

 カラカラカラカラ…… パチン

 校長の持ってきたカギで扉を開け、明かりを付けると、タワー型のサーバーが部屋の奥で鎮座していた。
 校長が慣れない手付きでマウスを操作している。

「校長先生、オレ、これだったら、ある程度操作できます」

 駿が遠回しに操作を変わるように校長へ促した。

「そうだな、私が変なことやってしまうとマズいから、高橋くん、頼んでいいかい?」
「はい、大丈夫です。それでは、変わりますね」

 校長に代わり椅子へ座り、マウスを握る駿。
 画面にウィンドウが表示されていく。

(この間、太の操作見ていたし、問題なさそうだな……)

 管理アプリケーションを開き、映像データの保存場所を確認。
 保存場所に潜っていく駿。

「ありました。映像データです」

 いくつものファイルが保存されている状況が画面に表示された。

「ファイル名が日付になっていますので、おそらくこれが該当する映像データかと……」

 ファイルをクリックする。

「このままここで再生できますが、よろしいでしょうか?」

 校長は頷いた。

「そのまま再生してみてくれないか」
「わかりました」

 ファイルをダブルクリックする駿。
 動画プレイヤーが起動して、映像が表示された。
 ディスプレイに、階段と廊下が映し出される。

「山田さん、時間は八時半位だったよね」
「はい、そうです」

 駿がスライドバーを動かした。

「このあたりから様子を見てみましょう」

 廊下から幸子が出てくる。
 その後ろから委員長が出てきて、幸子に手をかけるところで映像を止めた。
 少しだけ巻き戻し、顔が判別できるところで一時停止。

 会長が残念そうに尋ねる。

「これは……ウチの生徒だね……」

 画面から顔を背けた幸子。
 駿が答える。

「同じクラスの櫻井珠子(委員長)です」

 駿の言葉に頭を抱えた校長。

 ――サーバーの冷却ファンの音だけが部屋に響く。

 校長が口を開いた。

「山田さん、これを見てしまった以上、学校としては対応しなければならない。それは理解してもらえるかな……?」
「はい、理解いたしますが……退学だけは避けていただければ……」
「しかし、これは傷害事件だし、当人の考えによっては殺人未遂事件とも言える。それをそのまま見逃すことはできない」
「彼女にとって、退学は逃げ得になり得ますし、逆恨みを考慮すると、退学後の動向にも気を回さなければいけません。それと、強制的な退学は、彼女の今後の人生に影を落とすことにもなりますので……懲罰を与えるのであれば、在学している必要があると考えます」
「うーん……」

 頭を抱えて悩む校長。
 幸子は、制服の内ポケットから封筒を取り出し、校長へ手渡した。

「これは……」
「私からの彼女への在学の条件です。犯人が分かった時点で、相手が誰であれ、この条件を突きつけようと考えていました」
「読ませてもらってもいいかな?」

 校長の言葉に頷く幸子。
 校長は、封筒から書面を取り出し、目を通した。
 そして、書面をたたみ、封筒に収める。

「よく分かりました。この条件を当人がのむ場合は退学を避けるようにしますが、当人がこれを拒否した場合の処分は、退学も含め、我々に一任してほしい。それと、この条件を当人がのんだ後に、校内で山田さんに対して問題を起こした場合、山田さんは『自己責任』の名の下に、立場が弱くなる可能性のあることを理解しておいてほしい。大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。私には、私を助けてくれる友達がたくさんいますので」

 幸子の言葉に、校長がニコリと笑った。

「わかりました。それでは、今日当人の家に連絡の上、明日にも親同行で事情聴取します。山田さんからの条件をのむかどうか含め、その結果をもって、最終的な処分を決定します。皆さん、それでいいですね?」
「私に異論はありません。高橋くんと山田さんはどうかな?」
「山田さん、どう……?」
「はい、校長先生、よろしくお願いいたします」

 幸子は頭を下げる。
 それに合わせた駿。

「じゃあ、急いで動こう。キミたちの担任の先生にも話をしないといけないしね……ここを施錠して、解散ということでいいかな?」
「はい」

 解散を了承した四人。

 カチャリ

 部屋を施錠した校長は、急いで校長室へ戻っていった。

「会長には、借りを作りっぱなしですね……」
「山辺会長、本当にありがとうございました」
「それが生徒会だからね、何の問題もないよ」

 ふたりに笑顔で応える会長。

「さて、他にも案件を抱えててね。私もここで失礼するよ」
「ありがとうございました!」

 会長は、頭を下げるふたりに片手を上げて去っていった。

「さっちゃん、あとは委員長次第だね……」
「はい、彼女がどう変わるか……ですね……」
「ちょっと変だったからな……」
「なので、今回の件、もうひとり巻き込もうと思います……」
「あー、由紀乃か……なるほど、それがいいかもね……」
「はい、すべてが決まりましたら、話をしようと思います」
「由紀乃もショックを受けるだろうな……」
「はい……私たちで支えてあげたいです……」
「うん、そうしよう」
「駿くん、ありがとうございます」

「みんなにはどうする?」
「みんなにも、すべてが決まってからの方が良いかと思います」
「そうだね……亜由美とか怒り狂いそうだしね……」
「明日、すべてが決まれば、夜にLIMEで皆さんに報告します」
「オレから報告しようか?」

 首を振る幸子。

「私から報告させてください」

 幸子の目には力強い光が宿っていた。

「わかった、よろしく頼むね!」
「はい!」

 教室に向けて、笑顔で歩いていくふたり。
 しかし、委員長への処分やこれからの事を考えると、ふたりの心のうちは複雑だった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【主人公】


山田 幸子(やまだ さちこ)


高校1年生。通称「さっちゃん」。

身長150cm弱と小柄で、少し猫背気味。

背中に届く位の黒髪は、くせっ毛で所々が跳ねている。

胸もお尻もぺたんこ。顔全体に色濃くそばかすがある。


真面目でぼっち気質、自分を卑下する傾向が強い。

頭の中に響く<声>に悩まされている。

そばかすのコンプレックスと辛い過去が原因で、すべてを諦めている。

山田 澄子(やまだ すみこ)


幸子の母親。三十代後半。

黒髪をボブにしており、少しだけぽっちゃり気味。

美人ではないが、醸し出す優しげな雰囲気で可愛らしい印象。

高橋 駿(たかはし しゅん)


高校1年生、幸子の同級生。

身長180cmの細マッチョ。

肩くらいまで伸ばした目立たない程度の茶髪をポニーテールにしている。

いわゆるイケメンで、人当たりも良く、男女ともに人気が高い。

勉強も運動も得意な完璧超人。グループのリーダー格。

中澤 亜由美(なかざわ あゆみ)


高校1年生、幸子の隣のクラス。

身長160cm、標準体型だが少し細身。

背中まで伸びる派手な金髪のストレートヘアー。

端正な顔つきの結構な美人。人当たりも良く、人気が高い。

駿とは、小学生時代からの長い付き合い。

谷 達彦(たに たつひこ)


高校1年生、幸子の同級生。通称「タッツン」。

身長180cm弱の細マッチョ。

黒髪のツンツンヘアーに、目深に巻いたバンダナがトレードマーク。

無愛想で口が悪いので友だちは少ないが、実際は思いやりのある男の子。

武闘派で喧嘩っ早い。駿とは幼い頃からの長い付き合いで親友の間柄。

小泉 太(こいずみ ふとし)


高校1年生、幸子の隣のクラス(亜由美の同級生)

身長170cm、体重100kgの大柄な体格で、坊主頭にしている。

マイペースで、食欲が第一優先事項。

いつもニコニコしていて、物腰も柔らかいため、男女ともに人気は高い。

駿とは中学生時代からの付き合い。

山口 寿璃亜(やまぐち ジュリア)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団のリーダー格。

肩先まで伸びる黄色に近い金髪の白ギャル。

ノリ優先のお調子者でいつも賑やか。胸が大きい。

竹中 心藍(たけなか ココア)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団のマスコット枠。

背中まで伸びるストレートの銀髪の黒ギャル。

ほんわかしているが、時折下世話な爆弾を投げ込む。胸がすごく大きい。

伊藤 希星(いとう キララ)


高校1年生、幸子の同級生。

ギャル軍団の良識枠で、影のリーダー。

茶髪のショートヘアのお姉さん。ギャル軍団のまとめ役兼ツッコミ役。

普段優しい分、キレると本気で怖い。胸が慎ましい。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み