第21話 「捜索」

文字数 2,248文字





私はとりあえず、起こった事を整理しようと話を始めたかった。でもその前に一つ、ヘラ嬢に肝心な質問をした。

「ヘラ・フォン・ホーミュリア様。あなたは、誰の意思でこの家をお出になったのですか?」

ヘラ嬢は言いにくそうにしていた。それはそうだろう。事がここまで大きくなってしまったのだから。でも彼女は、顔は俯かせながらも私の目を見て、こう言う。

「わたくしが家を出たくて…ターカスに命じて、そうしました…ごめんなさい」

その言葉を聴いてマリセルを振り返ると、彼は思った通りにショックを受けていたようだった。私はまた前を見て、ヘラ嬢に聞く。

「命じたという事は、“命令の句”を使ってしまったのですか?」

ロボットに自分の意思を絶対的に示す時には、肩書きとフルネームを使い、「命じる」と断言しなければいけない。

ますます気まずそうに、もう泣きそうな顔をして、ヘラ嬢は「はい」と答えた。

「そうですか…」

ヘラ嬢は何も、ターカスに犯罪を起こさせたわけでもない。問題は、ヘラ嬢の望みを徹底的に完遂出来る以上の能力を持ったロボットであるターカスが、屋敷にも戻らず、どこかへ消えた事だ。

私はその場に居た全員を振り返り、こう話し始めた。

「ターカスが戻るまで、私達は安心出来ない。彼は兵器ロボットで、どうやらその実力を発揮出来るのだから。彼がどこに居るのか分かるまで捜査が続けられるよう、私は上に報告をする。シルバは続けて捜索に当たり、メルバは本部へ戻ってくれ。マルメラードフ氏、あなたはもう一度世界連への交渉にあたってくれますか?」

そこでマルメラードフ氏は、室内をきょろきょろと見回し、小さな声でこう言った。

「アームストロング君、いつまでもこのお屋敷を使わせてもらうのは、まずいんじゃないのかね?それに、本部の方が何かとやりやすいだろうし…」

そう言われるだろうと思っていた。私は、ヘラ嬢とマリセルが腰かけるテーブルに目をやる。予想通り、ヘラ嬢は私の目を見詰め、こう言った。

「ここで続けて捜査をして下さいませんか?こちらが出来る事はなんでもしますわ」

その言葉に私は頷き、マルメラードフ氏も納得してくれた。メルバだけは、不服そうに屋敷を去った。



マルメラードフ氏は、長い事、ウィンドウ越しに世界連の上司と話し合っていた。それで彼は、どうやらこうやら、継続して衛星の情報を提供してもらう許可を得た。

シルバはそれで情報探索のために使えるシステムが増えたが、だからと言ってすぐに見つかるわけではなかったらしい。

世界連の衛星をすべて動員しても、ターカスの痕跡さえ見つけられなかった。

「ダメです…出ません」

お茶を飲んでいたマルメラードフ氏は、顔を上げる。

「そんなはずはなかろう!衛星をすべて使えるというのに!」

「ええ、そのはずなんですが…どの衛星からターカスの型番、「GR-80001」にアクセスしようとしても、検索結果は0件なのです」

「ええ?という事は、彼はもう破壊されてしまったのかい?」

「そうなのかもしれません。なぜ、誰がそうしたのかは、分かりませんが…」

ヘラ嬢は食事をしていた時にそれを聴き、動揺してしまったようで、泣きながらテーブルを去った。


私はそれから、もう一度銭形とメルバに「過去都市ケルン」に行ってもらい、今度はターカスの痕跡がないか、捜査をしてもらう事にした。マルメラードフ氏は、上司に対して「戦争兵器が消えたんですぞ!絶対に捜査の必要がある!」と息巻いて叫び、今一度の射撃システム停止をしてもらった。



私とメルバは、マルメラードフ氏の運転で、また「ケルン」へと赴いた。そこには、もうステルス化の施されていない白い家があり、私達はまず、その家から始めて、近辺に何かターカスの痕跡がないか、探っていた。

家の中は、人が居なくなったもぬけの殻らしい佇まいで、キッチン、ベッドに、テーブルと、ウサギ小屋があった。大して見る物もなかったので、私達は家を出て、広範囲の探索をしようと話していた。

「俺はこっち、銭形殿、あなたは逆の方向を」

メルバは、私をあまりよく思っていない。私はそれが少々気になってはいたが、子供の機嫌になど構っていられないので、「そうしよう」と返事をして、私達はそれぞれ逆方向へと飛んだ。


燃焼室を開き、レンズをハイスピードモードにして、速く行き過ぎる景色を丁寧に確かめながら飛ぶ。私は、白い家の近くを通っていた川に沿い、地面すれすれを飛んでいた。

大分遡ったあたりに、木が何本も倒れている場所がちらりと見えた。

“あったか”

私は、やっと見つけたと思って倒木に近づいていった。

その辺りの草木は焼け焦げていて、地面も、ロボットが地上で高速移動をした時に特徴的な削れ方をしている。ただ、それは大きく、長く続いていた。

焼け跡を辿る間にメルバを通信で呼び寄せ、私は地面にまだ何かがないか、スキャンをしていた。すぐにメルバは私の所へ飛んできた。

「見つかったのか!?」

「痕だけだが」私は捜索を続けながら、振り向かず答えた。

「これは…」メルバは驚いたようにそうこぼす。彼にも、その焼け跡がどんな意味を持つのかは、分かったようだった。私達は二人で黙々と辺りを探し回っていたが、メルバが立ち上がった気配がして、私は振り向く。

「これ、目だよな」

彼は、片手にロボットのレンズを持っていた。それはターカスの物ではなかった。私はメルバに近寄り、慎重にその目を眺める。

「帰ってシルバに預けよう。誰の物か分かれば、ターカスを追う事も出来るかもしれない」

「ああ」




つづく
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