第13話「ターカスには心があった!?」

文字数 2,216文字




「ところでシルバ、君はさっきどのようにして令嬢のステータスを確かめたんだね?」

私がそう聞くと、シルバは少し言い淀んだが、やがてこう返した。

「かつて国際的に使われていた、「遺体収容」のため、死亡のステータスを持つパーソナルチップを認識する、軍用システムです」

「なるほど。それで初めて令嬢のステータスが知れたわけか…」

マリセルはうわごとのように「ああ」とか、「なんということでしょう」などとつぶやき続け、私たち捜査官でさえ、それに呑まれて落ち込みそうになってしまった。

「だが、ここで確認しておかなければいけないことがある」

「なんだよ、確認って」

メルバは壊れた右目のあたりを気にしながら、前に身を乗り出した。

「まだ何か、ターカスについてかね?」

マルメラードフ部長も真剣に話を聴こうとはしてくれたが、彼は前に進めない現状を少し不満に思っているように、頭をかいていた。

私はそこで、初めからの物事を整理しようと、少し黙り込んだ。それを全員が見守り、私が次に口を開く時には、自然と皆、私の周りに集まってくれていた。

「皆さんもお分りとは思いますが、パーソナルチップや、ロボットの位置情報への拒否信号送信は、もちろんその主人の命令でなければ行えない範疇にあります」

そこで皆、不意に呆気に取られたような顔をした。

“そういえばそうじゃないか!”

そんな心の声が聴こえてくるかのように、メルバとマルメラードフ部長は顔を見合わせ、驚いていた。

「私は、今まで自分の意志だけで、そのようなことが出来るメイドロボットには会ったことがありません。そんなことはありえないのです」

マルメラードフ部長は少々頷き、「ふーむ」とため息を吐いた。

「確かに、そんなのは一ロボットが自発的に思いつくことじゃない…ありえないだろうな…」

メルバは今になって気づいたことに、驚いているようだった。

「俺たちが家を襲った時には、「令嬢を守るため」という自分の役目を果たしただけかもしれないが、彼女のパーソナルチップへのアクセス拒否は、おそらくターカスが軍用ステルス機能を使ったからだろう。それにしても、それだって…」

「そう。一ロボットに、主人の命令なくして、そのような行動の判断が出来る、または「そうしたい」と「希望する」ことはできない」

マルメラードフ部長はマリセルがやっと支度したお茶を一口飲み、怪訝そうな顔でこう言った。

「そんなことを、お嬢様が命令できるほど、大人ではないということだね。もしかしたら彼女は、ターカスがそのようなことができるか、知らない可能性の方が高いんだからね」

「ええ。ですから、我々は一つの認識を共有しなければなりません」

「ほう?」

私はそこで、こう言い切った。

「ターカスは、自然発生的に「自らだけが望む要望」を持つことができ、そして、主人の命令を待たずにそれを実行する、「ほとんど人間と変わらない意志がある」、ということです」

「そんなメイドロボットがいるかぁ?」

メルバは素っ頓狂な声を上げ、少々信じ切れずにいたようだが、状況を見ればそうなっている。

「そして、ここに新たな可能性が浮上する」

「なんだよ」

私は自分を奮い立たせながら、次の一言が全員に聴こえるように、少し声を高くした。

メルバもマルメラードフ部長も、次々と起こる出来ごとや、交わされる推論に半ばくたびれたような顔をしていたが、私はそれを励まそうと思った。

「ターカスがステルス化を使ってヘラ嬢の追跡を一つずつ潰していたのだとすると…」

そこで、マリセルがちょっと緊張した様子でこちらを振り向いた。

「彼女はまだ死んでなどいなくて、シルバが探し当てた「死亡」のステータスさえ、ターカスの手によって寄越された偽の情報かもしれない。という可能性だ」

「それはまた…」

マルメラードフ部長は、私の考えに難色を示すように険しい顔つきだった。

「本当にそうなんでしょうか、アームストロングさん」

シルバは、自分が引き当てた情報に自信があったようで、彼もまた怪訝そうな顔をしたが、ここまでの話は飲み込んでくれているようだった。

私はそこで、マリセルが腰掛けていた、遠くにある一人がけのソファを振り返った。

マリセルはぬか喜びにならないようにと、必死に不安そうな顔をしていたが、やはりその目はちらりと喜びに光る。

「アームストロング殿…」

「まだはっきりとは分かりませんが、確認できる情報が「死亡」で、なおかつそれが他のアクセス方法では分からなかったというのは、やはりおかしいのです。なんらかの情報操作が行われていたと考えるのが自然です」

「確かに、充分に頷ける推論とも言える」

「そうかもしれねえな…」



私たちはまた新たに作戦を練るため、少し休息を取ろうという話になり、メルバは持参した充電アダプターに体を繋げて目を閉じ、マルメラードフ部長はマリセルがやっと用意してくれた食事を摂ることになった。


私はその間で考えていた。

“もしくは、ダガーリア前当主がターカスに残したプログラミングは、自然と人間が成長するように、はっきりとした自我を持つようなものだったのではないか…”

“そうだとするなら、枕の下のメモも、令嬢の情報が、偽物らしいものしか得られなかったことも、頷ける”

“ターカスは今、何を考えている?どうして令嬢は彼についていったんだ?”


尽きない疑問の中で、私たちはアルバが修理から戻るまでの間に、少しだけホーミュリア家でくつろいでいた。






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