第33話「工場日記」シモーヌ・ヴェイユ

文字数 859文字

 私も「サザエさん症候群」の一人である。同志の皆様へ。
 今、毎日仕事に行くのが辛くて、苦しくて、憂鬱な日々を過ごしている人に是非読んでみてほしい。「工場日記」は哲学書ではない。難しい言葉でもなく、今苦しんでいる君と同じ目線で語りかけてくれる友である。元来哲学というものは庶民のものであり、友愛の精神である。この本はヴェイユが工場での労働を記録した部分と、彼女の友人に宛てた手紙からなる。特に「ある女生徒への手紙」は大学生から社会人になり、資本主義経済の荒波に飲まれかけている君へ、きっと届く手紙に違いない。僕は応援したい。僕も同じ気持ちで毎日を送る人間だから。実は若い頃急な引越し代を稼ぎたくて、日雇いの工場で二週間働いたことがある。8時間ずっと立ちっぱなしで機械を操作して部品を検査する仕事だった。資本主義経済への疑念はその頃に芽生えたものかもしれない。機械と同様の扱いを受ける自分はいつでも替がきく一部品だった。資本家のために単なる自分の時間を切り売りしただけ。それに対し反発するものを確かに自分の中に認めた瞬間だったのを覚えている。工場日記は単なる工場体験記ではない。社会や暗く重苦しい格差への反発である。現在の日本、更に将来行き着く機械化された社会、効率化という一見スマートな歪んだ世界に突入することは避けられないだろう。それを否定するのではなくて、生身の人間と共存する社会を創造することが、機械ではない我々の存在理由である。僕はベーシックインカム擁護派である。AI社会と共存する唯一の方法だと考えている。ヴェイユの生き方は僕に未来を考えさせる。彼女は真っ直ぐで誠実な人だったろう。心の底から共感できる同志のような気がした。だが、運命とは皮肉なもので、彼女は三十四歳という若さで永眠している。しかも生まれ故郷のパリを離れた異国で。不条理だが、彼女はきっと知っていたのだと思う。今を全力で駆け抜けるその姿が、こうして遥か彼方の見知らぬ誰かに届くことを。そしてその実存的行動が未来を創造して行くのだということを。了
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