第8話「存在と時間2」マルティン・ハイデガー

文字数 1,895文字

 上巻は大前提として現存在が在ること、つまり存在了解がアプリオリにある地点から論理が成り立っていた。そしてもし、その現存在が無ければ存在という概念が無いだろうと言っている。それが実存主義と呼ばれる所以だが、ハイデガーは上巻の最後に、それは限定的だと述べている箇所がある。僕の持論でもあるのだが、本当は現存在が実存すること自体が限定的であり、例え現存在が存在しなかったとしても「世界=内=存在」の構図は変わることなく、世界の存在を否定することはできないだろう。実存主義は間違っていない。ただ限定的であるとは思うけど。さて前置はこれくらいにしようか。
 主観と客観の一致が認識だとすれば、僕は客観(神の視点)が存在する可能性を否定できない。ひとつの全体として存在するものなどあるのだろうか? 現存在が存在する限り、まだ済んでいない何かが存在する。そこには「終わり」そのものも含まれるが、世界=内=存在の終わりとは「死」のことである。その死に臨んで在るということの実存論的構造こそが、現存在が全体として在りうべき在り方の存在論的な体制である。現存在の根源的な存在論的な根拠は「時間性」である。簡単に言うと「人間は時間という概念」を持つということ。現存在の体制の本質はあくまで未完成である。「過程」と言い換えてもいい。現存在は「まだ無い」を在る。そして、既に自分の終わりを在る。死が意味する終わりとは現存在が終わりに達したということではなく、この存在するものが「終わりに臨んでいる」ということなのだ。死とは在りようのこと。ハイデガーは死について「追い越すことができない可能性」と言っている。ひとつの可能性に臨んで在ること。死は備わっているだけではなく、現存在を一人ひとりの現存在として呼び求める。現存在が本質的に自分自身であり得るのは、唯一自ら進んで自分がそう在るのを「選択」した時だけであり、一般的にではなく、自分に最も固有な在りうべき在り方に向け自らを投射した時である。他と何ら繋がりのない可能性の内側へ先駆ける。それは自分にとって最も固有な存在を自ら進んで、かつ自ら内発的に引き受けるという可能性の内側に入って行くことを意味する。言い換えれば、自らの死に向かって自分自身を解き放つということである。「ひとから自分自身を取り戻す選択」によって、現存在は初めて本来的な自分を可能にできるのである。そのためには勇気を持って自らの心の声を聞くことだ。心の声に対し自分自身を疑うことは即ちひとに埋もれるということだ。僕らがこの世界に生まれてきた本質的な意味など無いけど、僕らはその後に自分自身の選択をすることができる。それは意味の無い世界を有意味に変える可能性を秘めている。前に人間は時間という概念を持つと述べた。時間性とは「気遣い」の存在論的な意味である。ここでの気遣いは世界の内部で「先駆ける」ことであり、その性質は不安と向き合うことにある。つまり現存在が死に臨むことである。ハイデガーは時間性とは本来的に気遣いのことだと言っている。時間性は在るのではなく「時熟」する。余談だがこの本は本当に独自の造語があって楽しい。時熟という言葉で僕は「何を見ても何かを思い出す」というフレーズを思い浮かべた。時間性とは一度自分に迫って、何かに立ち返り、何かの元で出会うこと。それはまさに自分を引き戻す作業。「反復」とは現存在が自分を前に連れ出しつつも、在りうべき在り方の方へと自分を引き戻すこと。死は所詮、現存在の終わりに過ぎない。現存在の全体性を挟む一方の端に過ぎない。しかし現存在はその始まりと終わりの間で、時間的に伸び広がっている。このことを皆忘れている。(ホワイトヘッドだけは明記している)けれど、このことを存在論的に規定しようとしても難しい。僕はこの時、拡張する宇宙を思い浮かべた。きっと拡張にも終わりがある。以前は始まりと終わりなど存在しないと思っていた。でもそれは間違いで、僕らが認識できないものにもきっと始まりと終わりがあるのだと気付いた。僕らは死に臨むことはできても、決して死を体験することはできない。最後に「存在と時間」は本当に面白かった。どんな哲学書を読んでも、行き着く先のようにも感じる。始発駅であり、終着駅でもあるようだ。初学者には骨が折れるだろうがオススメできる。未完であることなど些細なことだ。なぜなら現存在自体が未完成であり、多くの書物にしたって本質的には未完なのだ。過程を楽しめばいい。この書物からナチへの結び付きなど微塵も感じられない。安心して思考の深みの溺れてみてほしい。了
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