第33話

文字数 594文字





 夏野がめずらしくおれの教室に来て、声をかけてくる。
「鯨瀬! あんた、牙野原って女と付き合ってるの?」
 すごい形相で、迫ってくる夏野。
「いや、付き合ってないけど」
「噂になってるわよ、二人が付き合っているって!」
「へぇ」
「やめておきなさいよ、あんなおかしな女は」
「おかしくないよ、普通だよ、牙野原は。良い奴なんだ」
「いきなりわけのわからないことを口走る、って噂よ」
「あー、それは詩からの引用で」
「それにね! あの子には良くない噂もたくさんあるのよ。それが原因で田舎に転校してきたんじゃないか、って話もあるんだから!」
「良くない噂?」
「鯨瀬はなにも知らないであんなのにホイホイくっついて行っちゃったわけ? バカでしょ?」
「確かに、おれはバカだが」
「そういう話をしてるんじゃないのよ!」
「今、バカかどうか訊いたから答えたんだが」
「学校で話す内容じゃないから電話かけるから、夜。あんた、あの女にボロボロにされるわよ」
「もうボロボロだぜ」
「もういい! このバカ!」
 言いたいことを言い終えたのか、夏野は教室を去っていく。まったく、なんだってんだろうか。おれと牙野原が付き合っているわけないだろう。あいつは緋縅先生と付き合っているのだし。誤解されたことについては、夜、電話があったときに話そうか。
 良くない噂か。あいつ、乱暴な奴だし、自分の実の姉と付き合っているし、問題はたくさんありそうだよなぁ。


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