第38話

文字数 849文字





 詩人猫のメイズースが鳴くリズムに合わせて月明かりのもとで跳ねるぷりる。ぴょんぴょん、と跳びながら、住宅地の塀の上にあがってしまう。
 塀の上で不安定に揺れながら、ぷりるは笑顔でおれに言う。
「ギスギスした世界だけが〈詩〉ではないわ、鯨瀬!」
 大きな月と星々をバックにして、大見得を切るぷりる。
 メイズースがブリキの太鼓のような音を出すと、そのリズムに合わせてぷりるは、胸に手をあて、それから差し出すように手を伸ばし、歌う。
 それはこんな歌詞だった。


 Twinkle, twinkle, little star,
 How I wonder what you are!
 Up above the world so high,
 Like a diamond in the sky.
 Twinkle, twinkle, little star,
 How I wonder what you are!

(きらめく、きらめく、小さな小さなお星さま。あなたは一体何者なの? 世界の空の、はるかかなたで。空のダイアモンドのように浮かんできらめく、小さな小さなお星さま。あなたは一体何者なの?)


 ああ、これが〈詩〉の魅惑なのか、ぷりるの魅惑なのか。
 目がくらむようだ。
「ねぇ、鯨瀬」
 歌い終わったあとの静寂に、ぷりるはおれに問いかける。
「どんなものが、〈詩〉だと、あなたは思うかしら、わたしのトゥインクルリトルスターさん?」
 完璧だった。そこにはパーフェクトしかなく、ぷりるが塀の上に乗っていなければ抱きしめていただろう。
 でも、君の手を握ってしまったら、すべてが壊れてしまう、そんな気がしたんだ。おれは静かに、
「友達になってくれないか、ぷりる」
 と、声を振り絞っていた。そうするしかなかった。
「世界の果てまで連れていってほしい。この〈詩の世界の果て〉まで」
 ぴょん、と塀からアスファルトまで降りるとぷりるは、
「お安いご用よ、鯨瀬! でも、ゆっくりね!」
 忘れることなんて絶対に出来ない、そういう星降る夜になっていた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み