第23話

文字数 1,381文字





 汁粉屋の外に出たおれと牙野原は、汁粉屋前の駐車場に立つ。
「自画自賛しちゃうけど、あたしの書く詩は、ウェブって土壌があるから生まれたような詩だ、と自分では思っているんだよな。あたしが書いた詩をコンクールに送るとして、そこで理解されなかったら、ずいぶんと作品の下読みさんや選考するひとも、あたまが古くさいんだな、と思っちまうぜ。あたしのなかでは、テーマ的にはオーソドックスな事柄を扱うけど、表現自体はウェブっていう原始の海のスープで生まれるしかなかったような尖ってて先端を行く表現、それを地で行く詩を書いているんだと考えて書いてるからよぉ。ウェブである程度理解されていても編集部が理解出来なかったなんて、それこそ読者と編集部の見る〈売りたい本〉の食い違いが甚だしいことなんだ、と思うよ」
「は、はぁ。おまえらしいよ、牙野原。豪語するじゃねーか」
 おれが言うと両手を合わせて胸の前でパチン、と叩いてから、
「……はい。檄を飛ばしていても、汁粉屋の駐車場でわめくこと自体が負け犬感があるぜ。今日はこのへんにしておこう」
 と言って、その場を締めた。
「連絡先ありがとな」
「いやいや、鯨瀬があたしなんかを気にかけてくれていると思うと、うれしいもんだぜ?」
「あたしなんか、だなんて、弱気だな、意外と」
「そーだよ。あたしは弱い。繊細な詩人なのだよ!」
 言って笑うと、牙野原は、
「じゃ、また明日な、相棒」
 と、おれに手を振って、歩き去っていく。
 なるほど、繊細な詩人、か。
 確かに、繊細じゃなけりゃ詩人なんて出来ないだろう。
 おれも手を振ってから、自分の家に戻る。



 家に戻ると、船便でNIRVANAの楽譜がアメリカから届いていた。弾き語り用のソングブックと、バンドスコア。おれは中学生時代から弾き語り用の一段譜が載ってる本を何冊も買って、アコースティックギターを弾いて歌っていたのだ。

 で、ルーズリーフに歌詞とコード進行書いて、曲を作ってて。

 ニルヴァーナはグランジと呼ばれるジャンルのバンドだが、おれは高校進学時に、グランジはパールジャムから入った。そのライバルのニルヴァーナは、気になってすぐにサブスクで聴いて知ることになり、音源をレコード屋で買いそろえた。
 ニルヴァーナのカートのシャウトもギターも楽曲も大好きになり、そうしているうちに、J-POP最盛期のタイミングの日本に何故か表舞台に這い上がってきたBLANKEY JET CITYを知ることになり、大好きになった。
 ロックの塊な曲『ガソリンの揺れ方』、そして『赤いタンバリン』をひっさげての表舞台への登場をしたブランキーを聴いているうちにおれはある意味、それ以降はロックへの傾倒が著しくなり。そして、目が洋楽や洋楽味が強い邦楽へ完全に向いてしまった。

 洋楽はアメリカのグランジバンドだけでなくもちろん、oasisやBlurたち英国のブリット・ポップも聴くようになるし、遡ってNewOrder聴くし、そうするとセカンド・サマー・オブ・ラブで、テクノやダンスミュージックも聴くようになる。具体的にはエイフェックス・ツインやアンダーワールドだ。逆にレディオヘッドみたいなポストロックも聴く。

 村上春樹さんはジャズの作法から小説をつくるらしい。ロックの作法でおれも生きていきたいと考えている。
 これが脱法ロックの礼法なんだよな。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み