第30話

文字数 844文字





 今日も体力限界だった。
 あたしはこころもからだも弱い。
 弱いのに文章を書きたくて、「なにか」を表現したくてたまらなくて。
 身体が疼いて。
 多くのひとはあたしをして「クズ」と呼ぶ。
 まあ、そうなんだろう。
 あたしはクズだ。
 だが、クズにはクズなりに、いや、あたしにはあたしなりに倫理がある、ほかの奴のことなんて、あたしごときにはわからないけど。
 意識のマトリョーシカ、入れ子構造の呪詛。
 あたしは文学の毒に浸食されていて、いずれ無様に死に、それを多くのひとが手を叩いて喜ぶだろう。
 ヘラってる場合でない、この緩慢な自死への十三階段で、あたしはまだもがきたいだけなんだ。
 曝け出して、同時に暴かれて、この猿芝居の人生劇場のお粗末な演技を享楽に変えるような吹っ切れ方も出来ず、恥ずかしげに、青白い顔で笑ったふりをして。
 眩しさに眼がくらんだ土竜の手つきでスポットライトに触れようとして火傷をする。
 あたしはなにを見つめていた、なにを眩しいと感じていて、それを何故欲していたんだろう。
 あたしはあたしだ、なんて本当は思ってもいないくせに。
 カメラ目線の薄ら笑いのモノクロ写真のなかで、あたしはひとりだけ腹を立てて写っている化け猫で、カメラのシャッターのあとには灰燼ひとかけらも残らない。
 すべては他人に奪われていくだけなのに、何故まだあたしはバカのようにここに立って、息をしているんだろう。
 殺したいのはいつだって自分自身。
 死にゆく獣はあたしで、それはこの世界全土に対する呪いと殺意へ転嫁する。
 派手な花火を打ち上げよう。
 四肢が破裂して飛び散る打ち上げ花火を楽しもう。
 この真夜中の闇にあたしの身体を差し出して、他人の薄ら汚い欲望に飲み込まれていくのをこころの底でバーボンを飲みながら祝杯としよう。
 あたしに足りないものはこの世のすべてだ。
 あたしは持たざる者。
 壊れるくらいにさげすんで。
 ヤリ潰された自分がこれでもないくらい笑えるから、それでハッピーエンドにして、さあ、銃の引き金を。


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