3-18. スタッフ一号

文字数 1,589文字

「どう? スタッフやらない?」
 レオはニコッと笑って言う。
「いやいやいや、こんなすごいもの誰も見逃さない。どっかしら必ず攻めてくる国はあるし、盗賊も狙うだろ? 維持できんよ!」
「あー、軍事警察力の心配は不要じゃ。うちを狙う者は瞬殺じゃよ」
 レヴィアが横から説明する。
「瞬殺?」
「うちの防衛大臣にかなう者はこの世に存在せんのじゃ」
 そう言ってレヴィアはシアンの方を向いた。
「防衛大臣? あのネーチャンが?」
 男は怪訝(けげん)そうにシアンを見る。
 シアンはニコニコしながら近寄ってくると、
「どっからでもかかっておいで。拳交わした方が話早いよ」
 そう言ってクイクイッと手招きをした。
 男はシアンをなめるように見回して言う。
「ほう……。可愛い顔して言うことがエグいね。俺が勝ったら……そうだな、俺の女になってもらうよ」
「いいよ! 勝てたらね」
 シアンはニコッと笑った。
 男は軽くステップを踏みながらシアンに近づき、ジャブを二、三回放った。
 軽くスウェーして避けるシアン。
 そして次の瞬間、鋭い右ストレートが放たれた。
 が、シアンが素早く指先で触れた瞬間、右腕は四角い白黒のブロックノイズ群を残して消えてしまった。
「へっ!?」
 焦る男。ニヤリと笑うシアン。
「うわぁぁぁぁ!」
 ヒジから先が消えてしまった右腕を見て喚く男。
「君の女にはなれなかったなぁ、ふふふっ」
 シアンはうれしそうに笑った。
 男はきれいさっぱり無くなってしまった右腕を何度も見直し、
「ちょ! ちょっと待てよ! 俺の腕返せよぉ!」
 と泣き出してしまった。
 シアンはニヤッと笑って言った。
「男がそう簡単に泣かないの! レヴィアちゃん治してあげて」
「えっ!? 私ですか?」
 いきなり振られて焦るレヴィア。
「た、頼むよぉ~」
 男はレヴィアの手を握り、みっともない顔で頼んだ。
 レヴィアは手を振り払うと、渋々男の右腕の残った所をしげしげと眺め、
「シアン様の消し方複雑だから難しいんですよね……」
 と、つぶやく。そして目を閉じて右腕を両手で包むと、スーッと動かして消えた腕を再生させていく……。
「お、おぉ!」
 男は歓喜の声を上げ、右手を開いたり閉じたりしながら治った手を確認する。

「うちのスタッフやってみたいと思う?」
 シアンが聞いた。
「……。あんた達すごいわ……。そうだな……、うちの連中をみんな受け入れてくれるならやるよ」
「うちの連中って何人?」
 レオが聞く。
「だいたい千人だ」
「それはいいね!」
 レオはうれしそうに言った。
「入国審査は要りますけどね」
 奥からオディーヌが出てきて言った。
 ポカンとする男を、オディーヌは鋭い視線で男を射抜く。
「あ、あんたは……、もしかして……」
 男がビビって後ずさりしながら言う。
「オディーヌ、出てきちゃイカンって言っとったじゃろ……」
 レヴィアが渋い顔をして言う。
「お、王女様、見苦しい所をお見せしました……」
 男はひざまずいてうやうやしく言った。
「スタッフやるって本気なの? あなたの所属を述べなさい」
 オディーヌは威厳のある声で言った。
「お、俺……じゃない、私はヴィクトー。スラムの自警団のヘッドやってます」
「そう。じゃ、うちの運営にも協力してくれるかしら?」
「王女様のご命令なら……」
「命令を聞くのでは意味が無いのよ。ヴィクトーがやりたいかどうかが大切よ」
「……。チラシを初めて見た時、ふざけた連中だと怒りを覚えました。それで乗り込んできたんですが、少年の語る言葉、見せられた数々の奇跡、感服いたしました。ぜひ、非力ながら私も、少年の理想の実現に尽力させていただきたいと思います」
 そう言うと、ヴィクトーはまっすぐな目でオディーヌを見た。
「よろしい! それではお前はこれより我がアレグリスのスタッフよ」
 オディーヌはニッコリとそう言い渡す。
「ははぁ!」
 ヴィクトーは胸に手を当てて深く頭を下げた。
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