1-8. 勝負! 勝負!

文字数 1,592文字

 ジュルダンは紙に巻いた大麻を一口大きく吸うと、レオをギロっとにらんで言った。
「なんだ? さっきの事で文句でもあるのか?」
「いえ、そうではなく、僕の奴隷の権利を買い取らせてください!」
 ジュルダンは目をキラッと光らせ、
「へぇ……? そんな金、どうした?」
 と、怪訝(けげん)そうな顔をする。
「これです!」
 レオは金の短剣を両手でジュルダンに手渡した。
 ジュルダンは大麻をくわえたまま、短剣を裏返したりしながらじっくりと検分する。
「なるほど。これは良い品だな……。その女にもらったのか?」
 ジュルダンはアゴでシアンを指しながら言った。
「そうです。彼女にもらいました」
「悪いが、これじゃ足りんな。あと金貨百枚持ってきな」
 そう言って、ジュルダンは短剣をテーブルにおいて突っ返した。
「えっ!? 相場だったらこれでもお釣りがくるくらいですよ?」
 レオは焦った。
「相場は相場。売値は俺が決める。奴隷のくせに生意気だ!」
 ジュルダンはそう言っていやらしい笑みを浮かべた。
「そ、そんなぁ……」
 ガックリし、うなだれるレオ。
 そんなレオの背中をシアンはポンポンと叩き、ジュルダンにニコッと笑って言った。
「賭けをしようよ!」
「賭け……?」
 ジュルダンは大麻をゆっくりと吸いながら、シアンを上から下までジロジロとなめ回すように見た。
「あなたが勝ったら金貨千枚あげる。でも、負けたらレオの条件で売ってよ」
「千枚……? お前そんなに金持ちなのか?」
「ほら」
 シアンはそう言ってどこからともなく金貨を出すと、テーブルの上にジャラジャラと金貨の山を築いた。
 唖然(あぜん)とするジュルダンとレオ。
「勝負! 勝負!」
 シアンはニコニコと笑った。
 ジュルダンはニヤッといやらしい笑みを浮かべ、
「千枚じゃ足りんな。俺が勝ったら今晩お前に夜伽(よとぎ)をやってもらおう」
 そう言って、豊満なシアンの胸をいやらしい目つきで見た。
「いいよ!」
 シアンはあっけらかんと返す。
「ダ、ダメだよ! シアン! 夜伽っていうのは、裸にされて、エ、エッチなことをされちゃうんだよ!」
 レオは真っ赤になって言ったが、
「大丈夫、負けなければどうということもないよ!」
 と、優しくレオを見た。

「負けないだと? 何で勝負するんだ?」
 ジュルダンは(いぶか)しげに言う。
「何でもいいよ? 好きに決めて」
 うれしそうに言うシアン。
 ジュルダンはちょっと考えて……、
「じゃあ、腕相撲な」
 と言ってニヤッと笑った。
「いいよ!」
 シアンはそう言うと、ヒョロッとした腕を曲げ、わずかに盛り上がる力こぶを見せた。
 ジュルダンはドアを開けると、
「ウォルター! 来い!」
 と、叫んだ。
 ほどなく、筋肉ムキムキのごつい男がやってくる。
「ウォルター、このネーチャンと腕相撲して勝て」
「えっ? この子と……ですか!?」
 ウォルターはヒョロッとした女の子と腕相撲なんてどういうことか、悩んでしまった。
「遠慮せず、バチコーン! と腕をへし折ってやれ!」
 ジュルダンは発破をかける。
「わ、わかりました……」

 ジュルダンは脇に置いてあった小さな丸テーブルを持ってきて、椅子に二人を座らせた。そして、
「はい、じゃあ手を出して……」
 そう言って二人の手を組ませる。
「ウォルター、手を抜くなよ! 勝ったら金貨一枚やるからな。今晩のお楽しみがかかってるんだ。絶対勝て!」
「き、金貨!? か、勝ちますよ!」
 ウォルターの気合が十分に上がったところで、ジュルダンは声をかける。
「レディー!」
 部屋にはピリピリとした緊張感が走る。
 レオは手を合わせ、不安そうにシアンを見た。もちろん、神様より強いシアンが負ける訳がない。しかし、ジュルダンが狡猾な男だということは嫌というほど知っている。絶対ただでは負けないはずだ。嫌な予感にレオは押しつぶされそうになる。
 シアンは相変わらず口元に微笑みをたたえ、勝負を楽しみにしているようだった。
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