3-11. アットホームな職場です

文字数 1,599文字

「で、明日は何するんだい?」
 シアンが聞くと、レオは、
「えっとね。日本のネットに人材募集広告を出そうと思うんだ」
 そう言ってニコッと笑った。
「へ!? 日本に?」
 驚くレヴィア。
「だって、『IT分かる人いないとこの国回せない』ってオディーヌが言うんだもん」
 オディーヌが続けた。
「国の管理は結局情報の管理で、そのためには情報システムが不可欠ですよね? それってこの星の人には無理ですよ」
「いいね!」
 赤ら顔のシアンはサムアップしながら上機嫌に言った。
「いやいやいやいや、そんなの管理局(セントラル)に怒られますし、そもそも地球の管理者が許すわけないですよ!」
 レヴィアが立ち上がって断固とした調子で言った。
「『いい』って」
 シアンが答える。
「へ!?」
「ヴィーナさんが『構わない』って言ってるよ」
 シアンはニコニコしながら言う。
「え? あ……、そ、そうですか……」
 レヴィアはそう言いながらゆっくり腰を下ろした。
「それでですね、国民全員にスマホを配りたいんですが……、大丈夫ですか?」
 オディーヌは恐る恐る言う。
「いいよ!」
 シアンは即答する。
「いやいや、スマホ配ったら基地局建ててSIMカードや番号管理システム動かさないとならないですよ?」
 レヴィアが眉間にしわを寄せて言う。
「ん~、任せた!」
 シアンは酔いの回った声で返す。
「ま、任せたって……、メッチャ大変なんですが……。とほほ……」
 レヴィアはガックリとうなだれた。

       ◇

 翌日、日本のネットは奇妙なSNSへの投稿で持ちきりだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
異世界で国づくり! フルスタックエンジニア募集!
アットホームな職場です♡

◆概要
異世界で十万人の国を作る事になりました。国民には全員スマホを配ります。
国が回るように、電子決済、戸籍管理、行政サービス管理などのシステムを構築してください。
インフラ部分は完備してるのでアプリ部分をお願いします。

◆必須項目
 GitHubにて顕著な成果を公開していること

◆勤務地
異世界(タワーマンション内社宅完備)

◆待遇
週休二日、有給完備
社会保険は無し(病気やけがは責任をもってすぐに治します)

◆給与
月給制:金貨五十枚(日本円換算二百五十万円)

◆応募方法
 こちらの『フォーム』に必要事項を記載のこと。書類選考を通過された方には面接の案内が行きます。

異世界国家アレグリス 設立準備委員会 オディーヌ=オルタンス・ニーザリ

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 さらに圧巻だったのが添付されていた動画だった。タワマンが林立し、超高層ビルや巨大なスタジアムが見える最先端な街の風景をバックに、男の子と女性二人が手を振っている。そして、そこに巨大なドラゴンが飛んできて、鮮烈な炎を吹くという物だった。
 ネットの人たちはその異様な動画を必死に分析したが、それは最新のiPhoneで撮って出しの物で、編集の形跡が一切見えなかった。地球上にそんな都市は無いし、CGでないとするとドラゴンの存在は理解不能であり、みんな首をひねるしかなかった。
 
 二十八歳のエンジニア一条零(いちじょうれい)もネットニュースでその動画を見つけた。明らかに作り物のはずなのにどこにも破綻のない動画、それは零の心を千々に乱した。零はベンチャー企業でWebサービスを開発していたが、無能な上司にわがままな顧客という環境にウンザリとしていたのだ。
 異世界は大好きなラノベで毎日のように親しんでいるものの、さすがに虚構であると割り切っていた。しかし、もし、これが本当の動画であるとしたら異世界は本当にある事になる。それは思いもかけなかった事態であり、零は仕事が手がつかず、飛んでくるドラゴンの動画を何度も何度も食い入るように見入っていた。

 そして、逡巡(しゅんじゅん)した後に、零は意を決すると応募フォームに必要事項を記載し、送信ボタンを押したのだった。
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