第2話 王都へ
文字数 3,665文字
※
「よし!
ラス、こんな感じでどうかしら?」
フィリアはサクッと準備を完了させていた。
出会った時も思ったが、こいつの格好はやたらと露出が多く目に毒だ。
「も、もう少し……普通の服はないのか?
それと角を隠したほうがいいような……」
「ど、どうしても、だめ?
角は邪神の誇りだから……隠したくないの。
でも、ラスがどうしてもっていうなら……奴隷として従うしかないんだけど……」
「っ……」
うるうると上目遣いを俺に向けるフィリア。
そんな庇護欲をくすぐられる顔でお願いされては、ダメと言えるわけがない。
なんだか俺は、こいつに対して徐々に意見が言えなくなってしまっている気もする。
主人と奴隷という関係のはずなのに、これでは立場などあって意味がないようなものだ。
「まぁ、多分大丈夫か……」
人間界には様々な種族がいる。
世界で最も種族を反映させているヒューマンは勿論、永遠に近い命を持つと言われるエルフやダークエルフ、物作りが得意なドワーフなど。
少数種族を含めれば、フィリアのような角有りも存在していた。
「!? ありがとう、ラス! 大好き!」
パ~ッ! と眩しい笑顔を向けて、フィリアは俺に抱き着こうとした。
が、俺は彼女の頭を押さえる。
「あまりベタベタするな。
また呪いが発動したらどうする?」
「そ、そしたら、あたしが解消してあげる」
「またここで一晩過ごすことになるだろうがっ!
準備できたならもう移動するぞ」
「……わかったわ。
それでまずはどこへ? 呪いを解く為の当てはあるの?」
「確実かはわからないが……まずは手っ取り早く情報の集まる場所へいくぞ」
「それって……?」
「人間界の王都にある冒険者ギルドだ」
行き先を告げた後、俺は彼女の手を取って転移の魔法を使った。
※
そして――やって来たのは王都フリューゲル近くの街道だ。
人間界で最も人口が多いこの場所なら、俺の身体に掛かった呪いを解く手段を知る者がいるかもしれない。
一応……この世界で最も博識と言われるエルフもいるしな。
「転移魔法って便利なのね。
一瞬で人間界に来ちゃった。
どこにでも移動できるの?」
「一度言った場所ならな。
というか、お前は邪神なのに転移が使えないのか?」
「うん。
前にも言ったけど戦闘特化なの。
まぁ、ラスに比べたら全然だけど……」
話しながら俺たちは視線の先にある大きな門に向かっていく。
「人間を滅ぼすと宣言していたが……どうやってこっちに来るつもりだったんだ?」
あれはもう数ヵ月ほど前だったろうか?
突如、邪神フィリアの声が天から降り注いだ。
この世界では魔界や邪神界の連中が人間界や神界に喧嘩を売ってくることは日常茶飯事で……その度に神やら勇者と呼ばれる者たちが、世界を救う為の旅に出る。
ちなみには俺は勇者ではないが……既に100を超えるくらいには各世界を救っている。この世界には救世者ランクというのが存在していてその第一位は俺だった。
「補助系の魔法は臣下たちが得意だったから、転移を使える者はいたと思うわ」
「臣下の能力くらい把握しておいたほうがいいだろう」
「そういうの、あまり興味ないわ。
でも……あいつらに言われるがままに人間界に喧嘩を売ったお陰で、ラスに会えたから言うことを聞いて正解だった!」
「……言い出したのはお前じゃないのな」
邪神にしては純粋なフィリアは、割と臣下たちにいいように操られていたのかもしれない。
「暇だったからね。
魔界や神界の連中と遊ぶのも飽きちゃってたから、たまには人間もいいかなぁ~って思ったの」
「適当だな……」
俺たちの世界はこの四つに分かれている。
それが人間界、邪神界、魔界、神界だ。
ほぼ干渉されることはないが、稀に宣戦布告があり戦争状態となる。
基本的には人間界と神界VS魔界、もしくは邪神界という構図になることが多い。
「ふ~ん……。
人間界って思ってたよりも綺麗なのね……」
歩きながら景色を見つめるフィリア。
緑いっぱいの景色は、邪神界では見られるものではない。
あちらに存在するのは枯れ果てた大地か、毒沼だからな。
「こっちに来たのは初めてなのか?」
「うん! 見て見てラス! 生きている動物がいるわ! 信じられない!」
「邪神には動物はほぼいないもんな……」
「そうなの! グロテスクなモンスターしかいないから……あ~見て、生きてる、走ってるわ! 可愛い~!! 生命の息吹を感じるわ!」
街道から森へと走る狼を見て、フィリアは子供みたいにはしゃいでいる。
住めば都などという言葉があるが、あんなところに一般人が住めば一週間と持たない。 犬や猫のような小動物なんて、それこそ一瞬で死んでしまうだろう。
それくらい人間界と環境は違っている。
「さて……」
門前に付いて、俺は冒険者ライセンスを取り出そうとした。
王都に入るには門番に身分証明書が必要なのだ。
ちなみに道具関連に関しては全てアイテムボックスという収集魔法で管理して――。
「ら、ラス・アーガイル!?」
突然ん、俺の姿を見た門番が声を張り上げた。
どうやら俺のことを知っているらしい。
「ああ、お疲れ様」
「な、なぜこんなところに!?
人間界を救う為、再び邪神界に赴いたとお聞きしていたのですが……」
「もう救ってきた」
「え?」
「いや、だからもう救ってきたんだ」
「もう!? はっ――失礼いたしました」
「ちなみにあたしがその邪神よ。
見なさい、この立派な角を!」
なぜか偉そうに、フィリアが胸を張った。
というかなんで自ら主張する!
「はっ!? そ、それは邪神の証……!?」
「それと昨晩からラスの奴隷になったの!」
「ふえっ!?」
なに言ってんだこいつ!?
予想外の発言に言葉も出ない。
が、俺は思わずフィリアを睨む。
しかし、当の本人は俺を見てえへへ~と嬉しそうに笑っていた。
(……ま、マズい。
どう誤魔化そう……邪神を奴隷にしているなんて誤解……いや、事実なのか? 違う! 俺がそれを望んだわけじゃないんだから)
とにかくなんとか誤魔化さなくては。
俺が必死に言い訳を考えていると。
「さ、流石は冒険王ラス・アーガイルだ!」
「え?」
「自らの奴隷とすることで、邪神の心を入れ替えようと言うのですね」
なんだか勝手にいい方向に誤解してくれている。
ていうか、冒険王ってなんだ?
俺の二つ名がまた勝手に増やされていた。
いや、それはいいとして……。
「ま、まぁ、そんな感じだ」
「素晴らしいです!
全種族最強と名高いだけではなく、無駄な殺生を避けようという御心の高さ。
あなたと同じヒューマンとして生を受けたことを誇りに思います」
大袈裟だが、俺が邪神を奴隷にするようなアブノーマルと思われることは避けられたようだ。
「これが冒険者ライセンスだ。
中に入れてもらっていいか?」
俺は収集魔法を使用してライセンスを取り出すと門番に見せた。
「はい、確認しました。
ラス・アーガイルにライセンスを提示していただくことなど恐れ多いのですが……」
「気にしないでくれ。
ルールだからな」
「恐縮です」
例外を作る必要はない。
俺はこの国の王でもなければ、人間界のルールが適用されない神や邪神、魔族とは違う。
特別ではない一介の冒険者なのだから。
「入っていいの?」
フィリアが門番ではなく俺に尋ねてきた。
「はい。
どうぞ、お通りください」
「ありがとう。
それじゃあ、行くか」
「うん!」
フィリアが俺を腕を取る。
ふにゅっと柔らかい感触を感じて思わず戸惑ったが、俺は心を無にして王都に入った。
※
ラスたちが王都に入った頃。
王都の門前から少し離れた木陰に一人の少女いた。
「ら、ラスになれなれしく!
な、なんなのかしら、あの女!?」
魔女帽を被った少女は、ラスの気配を感じてずっと門前で待ち伏せしていたのだ。
突然現れて驚かせようと思っていた。
なのに、ラスが見知らぬ女を……。
(……それも、あんな美少女と一緒なんてどういうことかしら!?
わ、わたしにはちょっと負けてると思うけど……)
でも、胸部は完全に負けていた。
ラスは大きいほうが好きなのだろうか? と谷間のない自分の胸を見つめながら、少女は暗い気分になる。
「って――こうしてはいられないのだわ!」
気を取り直して、少女はラスたちを追う為に木陰を飛び出して門前へと向かったのだった。
「よし!
ラス、こんな感じでどうかしら?」
フィリアはサクッと準備を完了させていた。
出会った時も思ったが、こいつの格好はやたらと露出が多く目に毒だ。
「も、もう少し……普通の服はないのか?
それと角を隠したほうがいいような……」
「ど、どうしても、だめ?
角は邪神の誇りだから……隠したくないの。
でも、ラスがどうしてもっていうなら……奴隷として従うしかないんだけど……」
「っ……」
うるうると上目遣いを俺に向けるフィリア。
そんな庇護欲をくすぐられる顔でお願いされては、ダメと言えるわけがない。
なんだか俺は、こいつに対して徐々に意見が言えなくなってしまっている気もする。
主人と奴隷という関係のはずなのに、これでは立場などあって意味がないようなものだ。
「まぁ、多分大丈夫か……」
人間界には様々な種族がいる。
世界で最も種族を反映させているヒューマンは勿論、永遠に近い命を持つと言われるエルフやダークエルフ、物作りが得意なドワーフなど。
少数種族を含めれば、フィリアのような角有りも存在していた。
「!? ありがとう、ラス! 大好き!」
パ~ッ! と眩しい笑顔を向けて、フィリアは俺に抱き着こうとした。
が、俺は彼女の頭を押さえる。
「あまりベタベタするな。
また呪いが発動したらどうする?」
「そ、そしたら、あたしが解消してあげる」
「またここで一晩過ごすことになるだろうがっ!
準備できたならもう移動するぞ」
「……わかったわ。
それでまずはどこへ? 呪いを解く為の当てはあるの?」
「確実かはわからないが……まずは手っ取り早く情報の集まる場所へいくぞ」
「それって……?」
「人間界の王都にある冒険者ギルドだ」
行き先を告げた後、俺は彼女の手を取って転移の魔法を使った。
※
そして――やって来たのは王都フリューゲル近くの街道だ。
人間界で最も人口が多いこの場所なら、俺の身体に掛かった呪いを解く手段を知る者がいるかもしれない。
一応……この世界で最も博識と言われるエルフもいるしな。
「転移魔法って便利なのね。
一瞬で人間界に来ちゃった。
どこにでも移動できるの?」
「一度言った場所ならな。
というか、お前は邪神なのに転移が使えないのか?」
「うん。
前にも言ったけど戦闘特化なの。
まぁ、ラスに比べたら全然だけど……」
話しながら俺たちは視線の先にある大きな門に向かっていく。
「人間を滅ぼすと宣言していたが……どうやってこっちに来るつもりだったんだ?」
あれはもう数ヵ月ほど前だったろうか?
突如、邪神フィリアの声が天から降り注いだ。
この世界では魔界や邪神界の連中が人間界や神界に喧嘩を売ってくることは日常茶飯事で……その度に神やら勇者と呼ばれる者たちが、世界を救う為の旅に出る。
ちなみには俺は勇者ではないが……既に100を超えるくらいには各世界を救っている。この世界には救世者ランクというのが存在していてその第一位は俺だった。
「補助系の魔法は臣下たちが得意だったから、転移を使える者はいたと思うわ」
「臣下の能力くらい把握しておいたほうがいいだろう」
「そういうの、あまり興味ないわ。
でも……あいつらに言われるがままに人間界に喧嘩を売ったお陰で、ラスに会えたから言うことを聞いて正解だった!」
「……言い出したのはお前じゃないのな」
邪神にしては純粋なフィリアは、割と臣下たちにいいように操られていたのかもしれない。
「暇だったからね。
魔界や神界の連中と遊ぶのも飽きちゃってたから、たまには人間もいいかなぁ~って思ったの」
「適当だな……」
俺たちの世界はこの四つに分かれている。
それが人間界、邪神界、魔界、神界だ。
ほぼ干渉されることはないが、稀に宣戦布告があり戦争状態となる。
基本的には人間界と神界VS魔界、もしくは邪神界という構図になることが多い。
「ふ~ん……。
人間界って思ってたよりも綺麗なのね……」
歩きながら景色を見つめるフィリア。
緑いっぱいの景色は、邪神界では見られるものではない。
あちらに存在するのは枯れ果てた大地か、毒沼だからな。
「こっちに来たのは初めてなのか?」
「うん! 見て見てラス! 生きている動物がいるわ! 信じられない!」
「邪神には動物はほぼいないもんな……」
「そうなの! グロテスクなモンスターしかいないから……あ~見て、生きてる、走ってるわ! 可愛い~!! 生命の息吹を感じるわ!」
街道から森へと走る狼を見て、フィリアは子供みたいにはしゃいでいる。
住めば都などという言葉があるが、あんなところに一般人が住めば一週間と持たない。 犬や猫のような小動物なんて、それこそ一瞬で死んでしまうだろう。
それくらい人間界と環境は違っている。
「さて……」
門前に付いて、俺は冒険者ライセンスを取り出そうとした。
王都に入るには門番に身分証明書が必要なのだ。
ちなみに道具関連に関しては全てアイテムボックスという収集魔法で管理して――。
「ら、ラス・アーガイル!?」
突然ん、俺の姿を見た門番が声を張り上げた。
どうやら俺のことを知っているらしい。
「ああ、お疲れ様」
「な、なぜこんなところに!?
人間界を救う為、再び邪神界に赴いたとお聞きしていたのですが……」
「もう救ってきた」
「え?」
「いや、だからもう救ってきたんだ」
「もう!? はっ――失礼いたしました」
「ちなみにあたしがその邪神よ。
見なさい、この立派な角を!」
なぜか偉そうに、フィリアが胸を張った。
というかなんで自ら主張する!
「はっ!? そ、それは邪神の証……!?」
「それと昨晩からラスの奴隷になったの!」
「ふえっ!?」
なに言ってんだこいつ!?
予想外の発言に言葉も出ない。
が、俺は思わずフィリアを睨む。
しかし、当の本人は俺を見てえへへ~と嬉しそうに笑っていた。
(……ま、マズい。
どう誤魔化そう……邪神を奴隷にしているなんて誤解……いや、事実なのか? 違う! 俺がそれを望んだわけじゃないんだから)
とにかくなんとか誤魔化さなくては。
俺が必死に言い訳を考えていると。
「さ、流石は冒険王ラス・アーガイルだ!」
「え?」
「自らの奴隷とすることで、邪神の心を入れ替えようと言うのですね」
なんだか勝手にいい方向に誤解してくれている。
ていうか、冒険王ってなんだ?
俺の二つ名がまた勝手に増やされていた。
いや、それはいいとして……。
「ま、まぁ、そんな感じだ」
「素晴らしいです!
全種族最強と名高いだけではなく、無駄な殺生を避けようという御心の高さ。
あなたと同じヒューマンとして生を受けたことを誇りに思います」
大袈裟だが、俺が邪神を奴隷にするようなアブノーマルと思われることは避けられたようだ。
「これが冒険者ライセンスだ。
中に入れてもらっていいか?」
俺は収集魔法を使用してライセンスを取り出すと門番に見せた。
「はい、確認しました。
ラス・アーガイルにライセンスを提示していただくことなど恐れ多いのですが……」
「気にしないでくれ。
ルールだからな」
「恐縮です」
例外を作る必要はない。
俺はこの国の王でもなければ、人間界のルールが適用されない神や邪神、魔族とは違う。
特別ではない一介の冒険者なのだから。
「入っていいの?」
フィリアが門番ではなく俺に尋ねてきた。
「はい。
どうぞ、お通りください」
「ありがとう。
それじゃあ、行くか」
「うん!」
フィリアが俺を腕を取る。
ふにゅっと柔らかい感触を感じて思わず戸惑ったが、俺は心を無にして王都に入った。
※
ラスたちが王都に入った頃。
王都の門前から少し離れた木陰に一人の少女いた。
「ら、ラスになれなれしく!
な、なんなのかしら、あの女!?」
魔女帽を被った少女は、ラスの気配を感じてずっと門前で待ち伏せしていたのだ。
突然現れて驚かせようと思っていた。
なのに、ラスが見知らぬ女を……。
(……それも、あんな美少女と一緒なんてどういうことかしら!?
わ、わたしにはちょっと負けてると思うけど……)
でも、胸部は完全に負けていた。
ラスは大きいほうが好きなのだろうか? と谷間のない自分の胸を見つめながら、少女は暗い気分になる。
「って――こうしてはいられないのだわ!」
気を取り直して、少女はラスたちを追う為に木陰を飛び出して門前へと向かったのだった。