第15話 解呪神

文字数 2,437文字

            ※



「やっと起きたか、ラス」

「「おはようございます」」

 酒場に向かった俺たちをマスターとウェイトレスたちが出迎える。
 そして何故か、スキンヘッドの店主が歩み寄ってきた。

「昨日は随分とお盛んだったみたいじゃねえか」

「んなっ!? 聞こえてたのか?」

「あ、やっぱそうなのか?」

 カマを掛けやがった!?
 動揺している俺を見て、マスターはニヤッとする。

「ここにいないってことは……あの嬢ちゃんか。
 ついに英雄を射止める者が現れたってわけだ。
 まぁ、人間とは思えないくらいの別嬪だもんな」

 そもそも、人間ではなく邪神だからな。
 というかスキンヘッドのおっさんが耳元で話し掛けてくるな。

「そ、そんなことより、適当に食事を頼む!」

「おうよ。今日は祝いといこうじゃねえか!」

 なんの祝いだ……と突っ込み掛けたが、今日の朝食はとんでもなく豪華だ……あれ?

「ぁ……」

 しまった。
 今更気付いたことがあったが……どうやら、酔いつぶれているアーヴィーをそのまま放置してしまっていたらしい。
 一本角の邪神は二日酔いにでもなっているのか、頭を抑えながら椅子を枕にしてぶっ倒れていた。

(……あいつもベッドに運んでやれば良かった)

 酔い潰れ掛けていたフィリアとルインをベッドに運んだあと、すっかり忘れていた。
 そんなことを考えていると、

「ぁ……、わ、わが、ある、じ……お、おはよ……」

「ま、待て、無理しておきなくていい!」

 俺に気付き立ち上がろうとするアーヴィーだが、明らかに顔色が悪い。
 一歩、また一歩と歩く度に、口元を抑えて――。

「そ、そういうわけ――うえ……」

 直後――アーヴィーは慌てて酒場を飛び出す。
 逃げ出したわけではない……が、何が起こっているかは考えないでおこう。

「……適当に座るか」

 俺の言うと、レナァとルインが頷いた。



          ※



 朝食を取りながら四人で今日の予定について話す。
 メンバーは俺、レナァ、ルインの三人だ。

「ワタシは今日から工房に引き籠って【秘薬】の製作に没頭するよ。
 何かあったらいつでも呼んで」

「わかった。
 忙しくなると思うが……」

「大丈夫……これでも大賢者と呼ばれているんだよ?
 それにラスだって、ワタシの実力はわかってでしょ?」

 全次元で並ぶ者はないと言われる道具創造者(アイテムクリエイター)として、その名を響かせる大賢者レナァ。
 彼女のユニークスキル【知恵の泉】に掛かれば、アイテムの生成に失敗することはないだろう。

「現時点で他に必要な素材はあるか?」

「こっちは平気。
 それよりもラス……問題はキミにかかっている呪いのほうだよ。
 ワタシが秘薬を製作している間は、そっちに集中して」

「わかってる」

 秘薬が使えなくなった以上は別の方法で邪神の呪いを解呪する必要がある。
 それに……。

(……呪いの効果が徐々に強まっている気がしてならない)

 発情状態になるまでの時間も、日に日に短くなっているのではないだろうか?
 解消すれば死ぬことはないとはいえ、あまりのんびりしている余裕はないだろう。

「ラス様、聞いて聞いて!
 昨日、邪神の呪いについてわたしがしっかりと調べてきたのだわ!」

 バン! と、ルインはテーブルに手を突いて俺のほうに迫ってきた。
 褒めて褒めてとばかりに目を輝かせている。

「助かる! ありがとうルイン。
 それで、何か手掛かりはあったか?」

「もちろんなのだわ!
 天界に解呪神っていうのがいるのを知ってる?」

「解呪神?」

 聞いたことがない。
 当然、天界には何度も行っているが、他の世界と同様に無数の次元がある。
 その為、全ての次元について把握することは極めて困難だ。

「わたしも初めて聞く名前だったのだけど、エルフの里の長老に聞いたから間違いないのだわ」

「わざわざあの偏屈エルフに会いに行ってくれたのか……」

 俺も面識があるが、中々癖のある人物だ。
 エルフの中でも上位種に当たるハイエルフであり王族――エルフの王国に戻ればすぐさま女王となってもおかしくはないほどの女傑。
 人間界で最も博識であると言われている為、頼りになる存在ではあるが……まぁ、色々と面倒な人物だ。
 が……なぜかルインのことは気に入っている。
 魔道に通じる者同士、気が合う部分もあるのかもしれない。

「いや、王都に来ていたところをたまたま会ったのよ。
 それでラスが邪神の呪いに掛かったって話をしたら相談に乗ってくれたの。
 それで解呪神のことを教えてくれたのよ」

「そうか……」

「で、でも……ラス様に貸し1だって言ってたのだわ……」

 視線を右往左往させるルイン。
 嫌な予感がしていたが、やはり条件を出してきたか。
 だが……その情報はありがたい。

「なら――解呪神に会いに行ってみるか」

「了解なのだわ。
 一応、神界の座標情報も聞いてきたから魔法陣で直ぐにでも転移できるのよ」

 ちびっちゃい魔女だが、ルインは非常に頼りになった。

「ありがとう、ルイン」

「感謝するなら、撫でてほしいのだわ」

 言ってルインは魔女帽を取った。
 期待に目をキラキラとされている。
 頑張ってくれた褒美というなら、もっと大きなことを頼んでくれてもいいのだが……。 そう思いながら、彼女の頭を俺は撫でてやる。

「ふあぁ……幸せなのだわ~」

 だらしくなく表情を緩めるルイン。
 本当に幸福に満ちた顔をしている。

「ラス……ワタシにはないの?」

「れ、レナァもか?」

「当然でしょ。
 秘薬の製作、がんばるんだから」

「わ、わかった」

 俺は二人が満足するまでの間、絹のように柔らかな髪を撫で続けた。
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