第9話 嘘じゃなかっただろ?
文字数 3,288文字
※
転移を使って城下町付近まで転移する。
「やっぱり便利な力だね」
「本当にね。
あたしも使えたらいつでもどこでも行けちゃうのに」
レナァとフィリアが羨ましそうに俺を見た。
「ヒューマンで転移が使えるのは職業が勇者の者だけと言われてるんだけどね」
「へぇ……でも、ラスは冒険者なのよね?」
「勇者適性は0だな」
この世界には職業適性というものがある。
それは教会で啓示を受けることで判明するもので、この世界に生を受けて直ぐに行うのが原則となっている。
ちなみに俺は冒険者としての適性値が0と診断されたのだが、実際は∞と表記されていることが診断書を出されたことで判明した。
まぁ、俺は生まれながらにして『何を』目指すか決まっていたということだな。
「でも、勇者適性0で転移が覚えられるなんてすごいことよね!」
「すごいというか前代未聞だよ。
しかも、ラスは勇者系魔法だけじゃなくて賢者や盗賊、商人やら遊び人まで、この世界で獲得可能な魔法やスキルはほぼ全て使えるんだ」
付け足して説明しておくと、ユニークスキルやらエクストラスキルは例外だ。
「ステータスを見せてもらったことがあるけど、全ステータス計測不能だったし、魔法やスキルも表示可能数を超えてたのよ」
「ラスだから仕方ないさ。
全てにおいて規格外、人類史上最高の英雄だからね」
「最高で英雄! 流石はあたしのご主人様ね!」
ふにゅ――と、この世の神秘を感じさせるほどの柔らかさが腕に広がる。
何度触れても飽きることはないその感触に、俺の鼓動は早まっていく。
「お、お前はスキンシップが過剰すぎる。
直ぐにくっつくのはやめろ」
「どうして?」
発情してしまうからに決まってるだろ! とは言えない。
「フィリア……ラスの気持ちをわかってあげなよ。
キミのせいで彼がどんな呪いにかかってるかわかってるの?」
「発情してエッチなことがしたくなっちゃうんでしょ?」
「わかってるなら……」
「でも好きな人に、自分で興奮してくれたら嬉しいじゃない」
「ぐっ……そ、それはちょっとだけわからなくはないけど……」
あれ?
さっきまで、フィリアの暴挙を止めようとしてくれていたレナァが、急に理解を示し始めた。
このままレナァまで説得されては、フィリアを止める者がいなくなってしまう。
そんなことを心配していると、
「……ぅ……」
「お、起きたか?」
一本角の邪神が目を覚ました。
「おい、大丈夫か?」
「こ、ここは……ふごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
邪神が周囲を確認しようと首を動かそうとした瞬間、首の後ろを押さえながらぶっ倒れて絶叫を上げる。
「きゅ、急にどうしたのよ?」
その異常な痛がりかたに驚いたのか、フィリアも目を丸めた。
「首が、首の後ろが――今にもへし折れそうなほど痛いんだあああああああっ、し、死ぬうううううっ……」
「それは……ラスのせいだね」
「もしかして、あの時の手刀か?」
「それしかないでしょ」
冷静に状況を分析するレナァ。
死ぬほど手加減したんだけど、結構なダメージを与えてしまっていたらしい。
「……ラス、助けてあげて。
こいつの自業自得なのはわかってるけど……」
フィリアが言った。
あまりに痛がっているので、不憫に思えてきたのだろう。
「レナァ、いいか?」
「いいよ。
騒がれっぱなしのほうが迷惑だから」
「わかった。
なら――完璧治癒(パーフェクトキュア)」
俺は絶望に打ちひしがれる一本角に、治癒魔法を使ってやった。
温かく優しい光が苦しむ邪神を包み込む。
「!? な、治った!?」
一瞬で痛みが引いたのだろう。
完璧治癒は対象が生きてさえいれば、どんな怪我でも一瞬で治してしまう禁忌魔法の一つなのだから。
「あ、あれほどの痛みが一瞬で……」
驚愕からか呆然とする一本角。
そして、ゆっくりと首を動かしながら痛みがないことを確かめていく。
「あんた、ラスに感謝しなさいよ。
彼が本気になったら、あなたなんて【目】で殺されてたんだから」
「め、目で……?」
フィリアの発言に、復活した邪神は困惑顔だ。
「そうだよ。
もしワタシに掠り傷でも負わせてたら、【目】で殺されてたよ?」
「いや、だから目ってなんなんだ!?
目は見るものだろ、殺すもんじゃないだろっ!」
続けてレナァにも言われて、困惑顔が不安に変化していた。
「いや、殺せるぞ、目で?」
「そんなこと本当にできる奴がいたら物騒すぎるだろ!」
即否定された。
嘘を吐いてないのに、嘘吐き扱いだ。
「ぐっ……しかもいつの間にか拘束されてるなんて。
さっきまでダンジョンの中で魔力石を集めていたはずなのに……何があったんだ?」
「あなた、ラスを襲って一瞬で撃退されちゃったのよ。
覚えてないの?」
「は? 俺が……?
笑わせるなよ?
この各次元の邪神界でも上位100位には入ると言われているこのオレが――人間ごときに負け……負け――ぬ~~~こ、拘束が、解けない! なんでだ!?」
ふん、ふんっ! と、腕に力を込める男邪悪(おとこじゃしん)だが、一向に拘束が破壊できる気配はない。
「ラスの魔法だもの。
あなた程度の魔力抵抗じゃ無理よ」
「う、うるさい! そ、そうだ――これならどうだ!!」
思い出したかのように一本角は魔法を使った。
青い空がゴゴゴゴゴゴと唸りを上げたかと思うと、黒く、暗い――暗黒に染まり、世界が闇に覆われていく。
「生まれいでよ――世界を混沌に堕とす竜よ」
どうやら召喚魔法のようだ。
召喚の呪文に呼応するように、空を覆う闇が裂けた。
その次元の裂け目から巨大な竜を出した。
「へぇ……エンシェントドラゴンじゃない。
実物は初めて見たわ」
「ワタシもだよ。
確か、古の時代から存在していたという竜の王族だったよね」
別名――古竜とも言われる。
現れれば世界に災いをもたらすとされ、かつては勇者や名だたる冒険者たちが束になりなんとか退けることに成功したと言われていた。
「は~はははははははっ! こいつでこの世界を滅ぼしてやる! だが、もしそれがイヤだと言うなら――」
「ちょうどいい」
「え?」
俺は生まれ出(い)でる古竜を睨み【目】で殺した。
瞬間――パアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!
激しい爆発音。
だが、何かが爆発したわけではない。
起こったことだけを語るのであれば古竜は消滅した。
「嘘じゃなかっただろ?」
「ふぇ……」
いや、なんだよ、ふぇって……。
「今のが目で殺すだ」
「……ふぇ!?」
さっきと反応は違うが、やっぱりその二文字なのな。
ドラゴンが消滅したことで、次元の裂け目もなくなり世界に青空が戻っていく。
それを見て王都の住民は思っただろう。
『ああ、またラス・アーガイルが世界を救ってくれたのだ』と。
さらにこの日、王城に住む世界で一番ラスのファンを自称するプリンセスが彼の銅像をもう一つ追加発注することを決めた瞬間でもあった。
「……さて、城下町に行くか。
そういえば、お前、名前は?」
「邪神アーヴィーです」
なぜか敬語になっている一本角。
確か前にフィリアが言っていた邪神の掟だったか?
強い者には屈してしまうのが、邪神界の通例なのだろう。
「アーヴィ―。
とりあえず宿屋に付いたら、お前が人間界で魔力石を集めていた理由を聞かせてもらうからな」
「はい」
無表情で即答するアーヴィ―。
この時、フィリアとレナァはもう絶対にアーヴィ―は悪さを働くことはないだろう。
そう確信して、顔を見合わせて苦笑したのだった。
転移を使って城下町付近まで転移する。
「やっぱり便利な力だね」
「本当にね。
あたしも使えたらいつでもどこでも行けちゃうのに」
レナァとフィリアが羨ましそうに俺を見た。
「ヒューマンで転移が使えるのは職業が勇者の者だけと言われてるんだけどね」
「へぇ……でも、ラスは冒険者なのよね?」
「勇者適性は0だな」
この世界には職業適性というものがある。
それは教会で啓示を受けることで判明するもので、この世界に生を受けて直ぐに行うのが原則となっている。
ちなみに俺は冒険者としての適性値が0と診断されたのだが、実際は∞と表記されていることが診断書を出されたことで判明した。
まぁ、俺は生まれながらにして『何を』目指すか決まっていたということだな。
「でも、勇者適性0で転移が覚えられるなんてすごいことよね!」
「すごいというか前代未聞だよ。
しかも、ラスは勇者系魔法だけじゃなくて賢者や盗賊、商人やら遊び人まで、この世界で獲得可能な魔法やスキルはほぼ全て使えるんだ」
付け足して説明しておくと、ユニークスキルやらエクストラスキルは例外だ。
「ステータスを見せてもらったことがあるけど、全ステータス計測不能だったし、魔法やスキルも表示可能数を超えてたのよ」
「ラスだから仕方ないさ。
全てにおいて規格外、人類史上最高の英雄だからね」
「最高で英雄! 流石はあたしのご主人様ね!」
ふにゅ――と、この世の神秘を感じさせるほどの柔らかさが腕に広がる。
何度触れても飽きることはないその感触に、俺の鼓動は早まっていく。
「お、お前はスキンシップが過剰すぎる。
直ぐにくっつくのはやめろ」
「どうして?」
発情してしまうからに決まってるだろ! とは言えない。
「フィリア……ラスの気持ちをわかってあげなよ。
キミのせいで彼がどんな呪いにかかってるかわかってるの?」
「発情してエッチなことがしたくなっちゃうんでしょ?」
「わかってるなら……」
「でも好きな人に、自分で興奮してくれたら嬉しいじゃない」
「ぐっ……そ、それはちょっとだけわからなくはないけど……」
あれ?
さっきまで、フィリアの暴挙を止めようとしてくれていたレナァが、急に理解を示し始めた。
このままレナァまで説得されては、フィリアを止める者がいなくなってしまう。
そんなことを心配していると、
「……ぅ……」
「お、起きたか?」
一本角の邪神が目を覚ました。
「おい、大丈夫か?」
「こ、ここは……ふごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
邪神が周囲を確認しようと首を動かそうとした瞬間、首の後ろを押さえながらぶっ倒れて絶叫を上げる。
「きゅ、急にどうしたのよ?」
その異常な痛がりかたに驚いたのか、フィリアも目を丸めた。
「首が、首の後ろが――今にもへし折れそうなほど痛いんだあああああああっ、し、死ぬうううううっ……」
「それは……ラスのせいだね」
「もしかして、あの時の手刀か?」
「それしかないでしょ」
冷静に状況を分析するレナァ。
死ぬほど手加減したんだけど、結構なダメージを与えてしまっていたらしい。
「……ラス、助けてあげて。
こいつの自業自得なのはわかってるけど……」
フィリアが言った。
あまりに痛がっているので、不憫に思えてきたのだろう。
「レナァ、いいか?」
「いいよ。
騒がれっぱなしのほうが迷惑だから」
「わかった。
なら――完璧治癒(パーフェクトキュア)」
俺は絶望に打ちひしがれる一本角に、治癒魔法を使ってやった。
温かく優しい光が苦しむ邪神を包み込む。
「!? な、治った!?」
一瞬で痛みが引いたのだろう。
完璧治癒は対象が生きてさえいれば、どんな怪我でも一瞬で治してしまう禁忌魔法の一つなのだから。
「あ、あれほどの痛みが一瞬で……」
驚愕からか呆然とする一本角。
そして、ゆっくりと首を動かしながら痛みがないことを確かめていく。
「あんた、ラスに感謝しなさいよ。
彼が本気になったら、あなたなんて【目】で殺されてたんだから」
「め、目で……?」
フィリアの発言に、復活した邪神は困惑顔だ。
「そうだよ。
もしワタシに掠り傷でも負わせてたら、【目】で殺されてたよ?」
「いや、だから目ってなんなんだ!?
目は見るものだろ、殺すもんじゃないだろっ!」
続けてレナァにも言われて、困惑顔が不安に変化していた。
「いや、殺せるぞ、目で?」
「そんなこと本当にできる奴がいたら物騒すぎるだろ!」
即否定された。
嘘を吐いてないのに、嘘吐き扱いだ。
「ぐっ……しかもいつの間にか拘束されてるなんて。
さっきまでダンジョンの中で魔力石を集めていたはずなのに……何があったんだ?」
「あなた、ラスを襲って一瞬で撃退されちゃったのよ。
覚えてないの?」
「は? 俺が……?
笑わせるなよ?
この各次元の邪神界でも上位100位には入ると言われているこのオレが――人間ごときに負け……負け――ぬ~~~こ、拘束が、解けない! なんでだ!?」
ふん、ふんっ! と、腕に力を込める男邪悪(おとこじゃしん)だが、一向に拘束が破壊できる気配はない。
「ラスの魔法だもの。
あなた程度の魔力抵抗じゃ無理よ」
「う、うるさい! そ、そうだ――これならどうだ!!」
思い出したかのように一本角は魔法を使った。
青い空がゴゴゴゴゴゴと唸りを上げたかと思うと、黒く、暗い――暗黒に染まり、世界が闇に覆われていく。
「生まれいでよ――世界を混沌に堕とす竜よ」
どうやら召喚魔法のようだ。
召喚の呪文に呼応するように、空を覆う闇が裂けた。
その次元の裂け目から巨大な竜を出した。
「へぇ……エンシェントドラゴンじゃない。
実物は初めて見たわ」
「ワタシもだよ。
確か、古の時代から存在していたという竜の王族だったよね」
別名――古竜とも言われる。
現れれば世界に災いをもたらすとされ、かつては勇者や名だたる冒険者たちが束になりなんとか退けることに成功したと言われていた。
「は~はははははははっ! こいつでこの世界を滅ぼしてやる! だが、もしそれがイヤだと言うなら――」
「ちょうどいい」
「え?」
俺は生まれ出(い)でる古竜を睨み【目】で殺した。
瞬間――パアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!
激しい爆発音。
だが、何かが爆発したわけではない。
起こったことだけを語るのであれば古竜は消滅した。
「嘘じゃなかっただろ?」
「ふぇ……」
いや、なんだよ、ふぇって……。
「今のが目で殺すだ」
「……ふぇ!?」
さっきと反応は違うが、やっぱりその二文字なのな。
ドラゴンが消滅したことで、次元の裂け目もなくなり世界に青空が戻っていく。
それを見て王都の住民は思っただろう。
『ああ、またラス・アーガイルが世界を救ってくれたのだ』と。
さらにこの日、王城に住む世界で一番ラスのファンを自称するプリンセスが彼の銅像をもう一つ追加発注することを決めた瞬間でもあった。
「……さて、城下町に行くか。
そういえば、お前、名前は?」
「邪神アーヴィーです」
なぜか敬語になっている一本角。
確か前にフィリアが言っていた邪神の掟だったか?
強い者には屈してしまうのが、邪神界の通例なのだろう。
「アーヴィ―。
とりあえず宿屋に付いたら、お前が人間界で魔力石を集めていた理由を聞かせてもらうからな」
「はい」
無表情で即答するアーヴィ―。
この時、フィリアとレナァはもう絶対にアーヴィ―は悪さを働くことはないだろう。
そう確信して、顔を見合わせて苦笑したのだった。