第10話 依頼の成功報酬で

文字数 1,795文字

 城下町の正門で、門番をしている衛兵に再会した。

「ラス・アーガイル!? そ、それに大賢者様も!?
 さ、先程の闇を退けたのはあなた様たちが退けたのですか?」

「そうよ! ラスが一瞬で倒しちゃったんだから」

「ワタシは何もしてないよ。
 全部、ラス一人でやったんだ」

 フィリアはとても自慢そうに、レナァは少しだけ誇らしそうに伝える。
 二人とも、まるで自分が褒められているかのように嬉しそうだった。

「流石はラス・アーガイル! あなたの伝説がまた一つ増えたのですね!」

 衛兵は尊敬の眼差しを向けてきた。
 正直、そこまで大したことはしていない。
 エンシェントドラゴンを倒すだけなら、フィリアやレナァ、ルインにもできたはずだから。

「……ところで、こちらかたは?」

「邪神だ」

「え!? また邪神ですか!?」

 フィリアに続き二度目の邪神なのだから、衛兵が驚くのは当然のことだろう。

「大丈夫だ。
 な、アーヴィ―、お前は人間に危害は加えないだろ?」

「はい。
 もちろんです」

「か、飼いならされてる!?」

 そして衛兵はいつもの『流石はラス・アーガイルだ』という顔をした。
 もう口にしなくてもわかる。
 語彙力を喪失してしまうくらい、彼が驚いているのが一目でわかった。



          ※



 正門を通りまずはギルドに向かう為に足を進める。
 まずは大賢者が無事であったことを、ギルド職員のミーネアに伝えておくことに決めた。
 そのほうが彼女も安心するだろうからな。

「ラス……気配消しを使ったほうがいいんじゃない?」

「……そうだな」

 レナァに言われて俺は気付く。
 普段はそんなせこい魔法を使うまでもなく、相手を瞬殺してしまうので忘れていたが、一般人から隠れる際にこれほど便利な魔法はないと。
 そして俺は気配消しの魔法をフィリアとレナァに掛けた。
 この魔法は名前の通り対象者の気配を消し去る魔法だ。
 つまり、これで城下町の住民の視線から逃れられるわけだ。

「本当に誰も、誰もあたしたちに気付かないのね。
 ……はっ!?
 この魔法をマスターすれば、ラスに悪戯し放題なんじゃ?」

 なんて不穏なことを思いつくのか。
 こいつがもし、この力をマスターすれば絶対に良からぬことをするに決まってる。

「フィリア、一応伝えておくけど、気配消しの効果は使い手の能力に依存する。
 ラスよりも魔法力が低いキミじゃ、気配消しをしても直ぐに気付かれちゃうよ」

「そうなんだ。
 つまんないの……」

 レナァに言われて直ぐに諦めたようだ。
 俺がナイスだレナァとアイコンタクトを送ると、彼女は小さな笑みを返した。
 付き合いが長いだけあって、互いの考えはある程度わかっていた。
 そして、俺たちは冒険者ギルドに向かった。



          ※



 冒険者ギルドに入ると俺は気配消しを解いた。
 カウンターに立っているミーネアが俺たちに気付く。

「ラスさん!? それに大賢者様!?」

「すまない、ミーネア。
 どうやら心配をかけてしまったみたいだね」

 表向きにはまだ判明していない大賢者の失踪。
 それを知る一部の者からすれば、レナァが無事に帰ってきたことは非常に喜ばしいことだろう。
 実際、ミーネアや一部のギルド職員は涙を浮かべている。
 それを見て冒険者たちは何事か? と不思議そうな眼差しを向けていた。

「ご無事でなによりです。
 ラスさんも、依頼達成感謝します」

 ミーネアをはじめ職員一同から一斉に感謝される。
 その光景を見て、この場にいる冒険者たちは、

『ああ、きっとまたラス・アーガイルが何かしたに違いないと』

 とか思ってるんだろうなぁ。
 実際、ただ救出依頼をこなしただけだ。
 しかも今回の対象は俺の身内のようなもの。
 クエストが出ていなかったとしても、助けだしに行っただろう。

「……これで一件落着ね!」

 なぜか話をまとめるフィリアに、皆が微笑を向けた。
 そして俺は救出依頼の達成報酬を受け取った。
 結構な金額だったので――。

「よし、今から酒場にきた奴全員の食費を俺が全部だしてやる!」

 言い切ると冒険者たちの野太い鬨の声のような、大喝采が上がったのだった。
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