第6話 無茶苦茶なダンジョン攻略――そして遭遇!

文字数 2,660文字

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 呪いが治まり、今は随分と体調もいい。
 これなら探索の間は問題なさそうだ。

「フィリア……大丈夫か?」

「うん! ……少しだけ股の辺りに何か入ってる感じがするけど……」

「……か、身体が辛くないなら……いいんだが」

「それは大丈夫よ!
 寧ろ、あのロリ魔女がいないお陰で、ラスとイチャイチャできたから気力は充実中!」
 ロリ魔女というのは、あのルインのことだろう。
 もしルインがいたら……どうなっていたか。
 今よりも大きな問題になっていたのではないかと思うと、なぜか肝が冷えた。
 ダンジョンを捜索しながら地下を目指していく。

「……ラス、このダンジョンは地下何階まであるの?」

「わからん。
 俺も10階までしか下りたことがないからな」

「そこそこ深いかもしれないのね」

「だな……まぁ、恐らく大賢者は10階にいると思うぞ。
 あいつ取りに来た万能薬(エリクサー)の素材は10階で手に入るはずだからな」

「そうなの。
 なら、さっさと10階までいっちゃいましょう!」

 確かに……さっきそのあれをしてしまったせいで、探索のペースがいいとは言えない。 地図(マッピング)スキルを俺は持っている為、一度通った場所は正確に記録される。 その為、地下10階までは少なくとも迷うことはない。

「なら少し急ぐが大丈夫か?」

「……ええ。
 というか――こうすればいいのよ!
 デストラクション・キャノン」

 フィリアが地面に手を向けると、暗黒の砲弾が射出される。
 ドガドガボゴン、ガガガガガガガガガガ――轟音を響かせながら、ダンジョンの地面が崩れ落ち、激しく揺れる。

「やめろフィリア! ダンジョンが崩落するだろっ!」

「え……この程度で?」

 焦って俺が口にすると、フィリアが目をパチパチさせながら魔法を止める。

「当たり前だ!
 しかも、下層には大賢者や他の冒険者だっているんだぞ!」

「逃げればいいじゃない。
 転移とか、それに崩落したくらいで死にはしないわよ」

「……それもそうか……って――そうじゃない!」

 一瞬、納得しそうになってしまった。
 だが一般の冒険者が崩落に巻き込まれたら間違いなく命を失う。
 ダンジョンの中にいる生物の気配を探ってみたが、人間の気配はほぼなかったようだったのは幸いだ。

「邪神界でダンジョンを一つ破壊したことがあったけど、邪神族や魔族はみんな無事だったわよ?」

「ここは人間界だ!
 邪神界の常識は適用されない」

「そ、そうなの?」

「そうだ。
 こっちにいる間は、繊細な行動を要求する。
 なんでも力任せにしてはダメだ」

「……ラスがそういうなら……」

 しょんぼり……と顔を下に向ける。
 普段は朗らかなフィリアに悲しそうな顔をされると、俺はどうにも弱い。

「そんな顔しないでくれ。
 人間界についてしっかりと伝えておかった俺も悪いからな……」

「ら、ラスは悪くないわ!
 あたしががさつなのがいけないの……」

「そんなことない。
 悪いのは俺だ……ここから出たら、もっと色々と教えるから、少しずつ覚えていけばいい」

「ラス……」

 気付けば強い熱の籠った眼差しで、フィリアが俺を見つめる。
 頬に朱色に染まって恋をする乙女のような顔になっていた。

「……と、とりあえず、地下へと繋がる穴を作ってくれた以上は、有効的に使うとするか」

 この年齢で、照れているとは思われたくない。
 動揺を隠しながら俺はフィリアに答えた。

「うん!
 ねぇ……ラス……」

「うん?」

「奴隷の分際で偉そうなことをって思うかもだけど……お姫様抱っこして、ほしいなぁ」
 甘えるような上目遣いを向けてくるフィリア。
 その瞳は期待と不安で揺らいでいた。

「……まぁ、そのくらいなら」

 誰かに見られてるわけでもないしな。

「やった! ラス、大好き!」

 美の象徴のような女の子がピタッとくっ付いてきた。
 そんな彼女を俺はそのまま抱きあげて、お姫様抱っこをした。

「じゃあ、いくぞ」

 一言だけ伝えて、俺たちは穴の中に飛び込んだ。
 目指すは地下10階だ。
 ビューン! と風を切る感覚が心地いい。
 結構な深さの為……落下は一分ほど続き……。

「――到着だ。
 ……フィリア、くっ付いてないで降りろ」

「もうちょっとダメ?」

「……ダメだ。
 もし俺の友人の大賢者にでも見られたら、絶対にあいつは俺を――」

「もう見てるんだけど……」

 感情の起伏の少ない女の声――それは俺たちに向けられていることがわかった。

「っ――れ、レナァ、こ、これは別に、その……って、お前、なんでそんなところで……」

 人間界一の天才と謳われ、ユニークスキル『知恵の泉』を有している大賢者レナァが、地面に横たわっている。
 どうやら拘束されてしまったようで、身体に銀の鎖を巻かれており、豊満な肉体が変に強調されてしまっている。

「……少し見ない間に……女ができたのかい?
 もう童貞を卒業したの?」

「出会って早々に聞くことがそれか?
 しかもその姿で……――うん?」

 強い気配を感じ反射的に剣を振る。
 するとギン! と剣戟が響いた。

「……へぇ、やるじゃないの」

 見知らぬ男が挑発的に頬を吊り上げる。
 だが、こいつは人間ではない。
 なぜわかったかと言えば、フィリアと同じく頭部に角が生えていた為だ。
 しかし角の数は1本。

「……1本角か……そこそこ強いみたいだけど、ラスの敵じゃないと思うわ」

「あん? ……なんだ、お前……邪神か?」

「どこの次元の邪神かは知らないけれど……喧嘩を売る相手は考えたほうがいいわよ?
 ラスなら、あんたなんてワンパンだから」

「あん、笑わせんな。
 たかが人間に邪神であるオレ様がやられるかよ!」

 男の邪神は自信満々に口を開いた。

「なら、やるのか?」

「当たりまえだ。
 そこの女みたいに直ぐに拘束して――」

「そうか――なら、気絶してもらおう」

「……え?」

 男が間の抜けた声を上げたのは、俺の姿が見えなかった為だろう。
 その証拠になんの反応もできぬまま邪神は背後を取られて、俺は首筋に手刀を叩き込んだ。
 かな~り手加減して。

「がっ……」

 たったそれだけで、邪神は白目を向いて気絶してしまった。
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