第21話

文字数 1,078文字


『それでこの地には何をしに来たのだ?』神は老人たちに訪ねた。

「ええと、ワシらはどちらかっつうと、呼ばれてここに来たと思っとります。森っ子を(つか)わされたのは、神さまの方じゃないですかね?」

(あ……しまった)

 社の建物の奥からくぐもった音がした。

『そ、そのとおりだ。よくぞ森っ子の存在に気づいてくれた。褒めてつかわす』

「だっから偉そうなんだってば……」

『……』

「あのう、ワシらを呼んだ理由は……」神が沈黙してしまったので、たまりかねて余一が尋ねた。

『そう、本題に移ろう。誉田の森のことだ』

 咳払いする神は、どことなくホッとしたようだった。

『お前たちの行いは、森っ子の報告でよく知っておる。我が森を守ろうとして何度も抗議してくれたこと、とても嬉しく思う』

「あやぁ、さっすが神さまだ。何でもお見通しなんだあ」

『賢いフクロウたちのおかげだ。この森が(けが)されるのは心が痛むし、木々がなくなるのが残念でならぬ。街から来た少年・少女たちも悲しんでおった。茶髪の美少年の男の子は特に……』

「はい?」キヌが、ぽかんと口を開けた。

(もう! 自由演技すぎ! 余計なこと言わないで!)

「誉田の神さま。あのでべろっぱーっちゅう奴らを何とか追い払って下さいませんか? 森の平和の為にも何卒……」

『うむ……気持ちはよおく分かる。だが私は思う。そこまで頑張らなくても良いのではないか?』

「はい?」

『確かにこの森を汚す奴らは許せない。しかしその家を建てようとしている者どもは土を掘り起こし、ゴミを取り除いてくれるのであろう』

「そうは言っておるのですが……」治兵衛が渋々、うなずいた。

『木々は犠牲になるやもしれん。けれど臭いや土(ぼこり)に悩まされなくても済むのだぞ。なら良い面もあるではないか』

「まあ、それはそうなんだけどなあ」余一がうなった。

 村人たちから反対の言葉が出ないので、神の喋りはますます饒舌になった。

『残念だが、神社はどこかに移されるかもしれん。しかし神の存在は無くなるわけではない。遥か高みから村を見守っておる。我が魂は不滅なのだからな。はっはっは――』

「いんや、間違っとる」年季のいった声が神の大笑いを遮った。治兵衛だった。「そんな話、納得できねぇ」

『な、なぬ?』

「オレもそう」続けてキヌが立ち上がって、コックリとうなずいた。

『え……?』

「森が無くなってもいいなんて、あんたオレらの知ってる誉田の神さまじゃねえ」

『な、なんだって?!』
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