第26話

文字数 1,084文字



 小夜たちが乗り込んだ電車は、着いた時と同じで乗客はゼロだった。三人は車両の真ん中付近の対面シートに席を決め、腰を下ろした。

 小夜が荷物を棚に乗せようと苦労している最中に、列車が動き出した。

 駅のホームから離れて間もなく、瀧が大きなあくびをした。窓越しに流れる風景が同じで飽きてしまった。

「田舎だよな、ほんと」

「うん」

 小夜も遠くを見ていた。

「小さい頃はここで暮らしてたんだ。街に出たら忘れちゃったね」

 会話はそこで途切れた。沈黙が車内を支配する。

「誉田に来なきゃよかったのかな……」

 不意に瀧が漏らした一言が、場を凍りつかせた。それは誰も怖くて口にできない一言だった。

「だって結局俺ら、あの人たちを止められなかったじゃん。森が無くなっても、どうにかなるって、希望すらあげられなかったぜ。だったら、あんな事やらなくて良かったんじゃないのか? もっと言うと、誉田に行かなきゃ、こんな後悔せずに済んだはずだろ?」

「何言ってるの、瀧? 違うよ!」

 小夜が立ち上がって瀧を睨んだ。友人の言葉を最後まで聞きたくなかった。そうやって抗っていないと、自分も後悔の渦に飲み込まれそうな気がした。

「そんな言い方しないで! 絶対にそんな――」

「そんなことはない!」

 小夜の震える声を遮ったのはマルだった。小夜は目を丸くした。おとなしい友人がここまで声を荒げて反論する場面を、今まで見たことがなかった。

「後悔はしたかもしれない。いや、したって認める。でも行かなければ良かったなんて思わないよ。だって僕たちは誉田に大きな問題があること、知ったじゃないか」

「全員が嫌な気持ちを貰ったっていうのに?」

 マルが首を振った。「このまま森が消えてフクロウがいなくなっても、僕たちの故郷の森はあそこだけなんだよ、瀧。僕は大人になっても忘れたくない。だから今回は一生忘れないよう、後悔をセットで貰ったって思うことにするんだ」

「マル……」

 滅多にないマルの長広舌に、小夜は自分に消えていた勇気を分けてもらえた気がした。昨日の失敗以来、ずっと暗かった小夜の心に、初めて安堵という名の(あか)りが揺らめいた。

 一方で瀧の方は、ばつが悪い顔をしていた。二人に責められ自分だけが悪い気がして、チッと舌打ちする。

「……んだよ、良かったのかな(・・)って言っただけだろ? みんなの雰囲気が暗いからちょっと刺激(スパイス)を振っただけじゃん。本気で――」

 瀧の弁明(いいわけ)を、またしても一件の着信音が遮った。

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