第35話 【友達から親友へ】<光と影の視線>

文字数 8,199文字


 午後の授業もつつがなく終わった終礼の時
「今日はちょっとした連絡事項があるから、少しだけ時間をくれ」
 教室内が静かになったのを確認したところで
「えっと、今回の定期考査から総合得点の順位を貼り出す話を前にしたと思うが、内容が少し変わって、成績上位二十位までの公表に変わったからな。だからと言って成績が振るわない者は甘んじるんじゃなくて、成績上位者に聞くなりして、各自が努力を重ねる事」
 昨日の交渉の件から、さっそく教頭先生が動いてくれたみたいで、次の日には具体的な内容が通達される。
「せんせー! それって統括会の人からの意見があったからですか?」
 対して例のグループの一人が先生に質問する。
「いや、俺は教頭先生からの通達で聞いただけだから、詳しくは知らない」
 こっちに一目向けてから、質問した女生徒に向けて返事をする。
 返事を聞いた女生徒が明確な回答を得られなかったからだろうけれど、返事をせずにそのまま次の話に移る。
「それとテスト結果の貼り出しは金曜日にするから、それまでに返却されたテストの答案と自分の点数を見て、上位者とどれくらいの差があるのかを、この際自分でしっかり把握する様に」
 言い終えて、そのまま質問が無い事を見て取った後、
「ちなみに、追試や補習が無い事には変わりないから成績には直接影響するからな。それじゃ終了! お疲れさん」
 先生の号令と共に放課後に入――
「あっとすまん。岡本ちょっとだけ良いか?」
 先生が私の方を見て、嫌そうに声をかける。
 だからどうして終わってから思い出したかのように声をかけるのか。
「ごめんね。咲夜さん、実祝さん。ちょっとだけ待っててくれる?」
「……はい」
「分かった」
 先生の方へ向かう際、私の方へ向いていた二人の所に立ち寄って、錆びた歯車を無理やり動かしたような動作で返事をする咲夜さんと、私と咲夜さんを一見無表情に見える、戸惑いを浮かべた実祝さんの返事を確認してから、先生の元へ向かう。
「悪いな岡本。ちょっと廊下で良いか?」
 そしてそのまま廊下へ連れ出される。
「先生、私を廊下へ連れて行くのはかまいませんが、私を呼び出しておいてどうしてそんな嫌そうな顔をするんです? 私だって傷つきますよ」
 私には思い当たる理由はあるけれど、クラスのみんなには分からないはずだから、そこは大人として対応して欲しい。
「……はぁ……教頭先生が直接岡本に課題だって」
 私の言葉に先生が無言で私を見た後、先生の視線を受けて無意識のうちに襟元のボタンを私が確認したのをみて取り合うのを辞めたのか、一つため息をついて用件を伝えられる。
「課題……ですか?」
 私の方は先生からの用件があまりにも意外だったので、瞬きを繰り返して先生に聞き返す。
「岡本、教頭先生に何を言ったんだよ? 俺が岡本の事、成績の事も含めて色々聞かれたんだぞ?」
 余程教頭先生に聞かれたのがプレッシャーだったのか、はたまた別の理由だったのか比較的最近よく見るようになった、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべるも、
「で、先生は答えたんですか?」
 あの教頭先生なら大丈夫だけれど、この担任の先生は最近私に向ける視線も含めてちょっと怪しいから、少しだけ探りを入れさせてもらう。
「そんな事言ったって、答えないわけにはいかないだろ? もし答えられなかったらあの教頭から“普段から生徒たちの事を見て気配りをするのも担任の役割ですよ”なんてネチネチ言われんのはこっちだからな」
 うんざりした表情を浮かべる担任。このままだとお後がよろしくないので
「私も一応女生徒なので、プライバシーだけは守ってもらえれば」
 そう言ってスカートをはたく私を見た担任が
「――」
 額に手を当てて、天井仰ぎ見る。ちょっとやり過ぎたかな。
「で、その教頭先生の課題って何ですか?」
 と思ったから、その事にはそれ以上触れずに本題をお伺いする。
「取り敢えずメモを取らさないでくれって言われてるから、このまま言うぞ?」
『仮に喧嘩して双方の気分が悪くなった後“雨降って地固まる”のことわざの通り、以前よりお互いの理解が深まる場合がある事も多いかと思いますが、その事についてはどう思いますか』
「だってよ。岡本。一体あの教頭先生とどいう話をしたら、こんな事になるんだよ?」
 ……こんなことって……。
 でもその中身については十分思い当たる。そしてこれが教頭先生の言う荒削りの部分なのかなって思う。実際すぐには言い返すのは難しいし。ただ
「その回答ってこの場でしても良いんですか?」
 教頭先生の求める回答ではないだろうけれど、私にもやっぱり思う事も、思う所もあるのだ。
「いや岡本。この課題の意味わかるのか? 別に今答えるのはかまわないが」
「先生? これって私と教頭先生の話なんですよね?」
 答える前に、統括会とは関係なしで私個人としての意見・考え方って言うのは先に確認しておかないといけない。
 私が先生に確認をするけれど、先生は具体的な内容までは聞いてないのかな。気になる事も多かったけれど、私は二人を待たせている事もあったから、私自身の回答を教頭先生の課題に合わせて述べる。
「確かに雨降って地固まると言うことわざ・言葉はありますけれど、それはお互いに譲れない主張がある時に使う言葉だと思います。スポーツ選手、部活なんかでの主張だと、インターハイや大会での必勝のためにお互いの意見をぶつけ合う。それは大いにありだと思いますし、そう言う事なら私だって、暴力沙汰にならない限りは口をはさむつもりはありません。今回私が懸念している嫉妬や妬みには主張なんてない、ただのやっかみでしかないと私は考えます。それに“お互い”が意見出来ればまだ良いですが、意見できない人も実際私は見ています。ですので私の考えとしてはテストの総合順位の公表を再考して頂きたいなって思いました」
 少し長くなってしまったけれど、私の気持ちや思いは全部乗せられたはず。
 これで教頭先生の課題をクリアできれば良いんだけれど。
「今の言葉、岡本が今考えたのか?」
 ただ先生の方は少し違ったようで、驚きの表情を隠そうともせず私を見やる。
「そうですけれど、やっぱりおかしかったですか?」
 自分の考えだけを前面に出したので、ちょっと変なのかもしれない。
「いやおかしいって言うか、教頭先生とそんな話してるのか? それ、もう学生の普通する話じゃないよな?」
 まあ私も普段からこんな話ばかりするわけじゃないけれど
「教頭先生相手に友達とする話もまた、普通しないと思いますよ?」
 教頭先生と雑談する女生徒はいないと思う。
「……はぁ。分かったよ。今のが教頭先生の課題に対する回答で良いんだよな?」
「はい! 長くなってしまいましたけれど、よろしくお願いします」
「わかった。ちゃんと伝えておく。悪いな時間を取らせて。友達待たせてるんだろ?」
 先生が教室の中で私を待っている二人を認めると、先生が会話を切り上げようとする。
「はいっ! 先生ありがとうございましたっ!」
「……ああ。また明日な」
 なんだかんだ言って比較的話しやすい担任の先生は嫌いじゃない。こっちの聞きたい事も応えてくれるし、何より生徒目線で答えてもくれるから。
 私は先生を見送ってから待たせている二人の元へ向かう。


「二人ともお待たせ。ごめんね時間かかって」
 気が付けば少し話し込んでいたのか、もう教室内には残っている生徒はほとんどいなかった。
 ……蒼ちゃんも含めて。私が蒼ちゃんと喋り損ねたのを後悔していると
「……えぇ……マジ?」
「……」
 二人が驚きを含んだ表情で私を見ている。
「えっと……どうしたの?」
 まずは何を言いだすのか分からない咲夜さんの方に聞いてみると
「愛美さん。その笑顔はむやみに見せない方が良いっす」
 また咲夜さんの口調がおかしい。これは本当に何を言いだすのか分からないから
「とりあえずお茶し行こっか。実祝さんもそれで良い?」
「分かった。後で愛美に聞く」
 咲夜さんは問答無用で、ずっと担任の先生が歩いて行った方を見ていた実祝さんに確認してから喫茶店へと向かう。


 私は温かいココアを、咲夜さんはショートケーキと紅茶、実祝さんはブラックのコーヒーを注文したところで、
「愛美さっきのはイケナイ。あの担任は危険」
 雑談も何もなく、ダメ出しをされる。
「えっと。担任の先生が危険って? あの先生は良い人だよ? 生徒目線で意見も言ってくれるし」
 ちょっと先生の視線が怪しいのは先生の威厳のためにも言わないでおく。
「いや~そう言う事じゃないんじゃないかな?」
 実祝さんに苦手意識があるのか、今の雰囲気に押されているのか腰も言葉も引け気味に補足する咲夜さん。
「明日から愛美は担任の先生に近づいたらダメ」
 いや駄目って……
「統括会絡みで先生に色々聞きたい事もあるからさすがに近づかないのは無理だよ」
「……むぅ」
 どうも今日の実祝さんはちょっと理由は分からないけれど、拗ね気味な気がする。
 今みたいな実祝さんを見てもらえれば実祝さんの印象も変わるのにと、歯がゆい思いをしてたのだけれど今日は咲夜さんがいるのだ。
「ひょっとして夕摘さん、愛美さんが先生に――『うるさい……月森さん』――」
 ただ難点は咲夜さんがすぐに実祝さんをいじろうとするから、実祝さんからすぐにその雰囲気が無くなってしまう事か。
 でも実祝さんとの付き合い方も分かってきているから
「先生と仲良く? って……実祝さんとの方が仲が良いに決まってるけれどな」
 先生はあくまで先生で、実祝さんと比べる対象にならないって事を笑顔と共に、私自身の口から伝えると、
「そんな事イチイチ言わなくても良い。月森……さんが勝手に言ってるだけ」
 実祝さんがムッとした表情を咲夜さんに向けつつ、言葉は私に向ける。
 今の実祝さんの姿を咲夜さんにもっと知って欲しくて
「咲夜さんが勝手に言ってるだけなんだ……私は残念かな」
 咲夜さんの方を向いた時に髪をかき上げた時の耳が染まっている事を分かった上で、少しだけ実祝さんをからかう。
「今日の愛美……性格悪い」
 案の定実祝さんの表情が目に見えて変わる。
「あたしの知ってる夕摘さんとやっぱり違う」
 頼んだのを店員さんが運んできてくれた後、咲夜さんが一言漏らす。
「だからそうなんだって。クラスのみんなが勝手に決めつけてるだけで、実祝さんはいつもこうなんだよ」
 みんながそう言うから、あの人がそう言うから。みんなの間違った意見でも大人数が正義・正しくなってしまっているこの状況。蒼ちゃんを苦しめている戸塚君に関する“同調圧力”と何ら変わりはない。
「だから実祝さんの事“姫”って呼んだら駄目だよ。ま、咲夜さんはそう呼んでないから心配はしてないけれど」
 咲夜さんが少し前から“麗人”と呼んでる事は知ってる。
「ありがとう愛美。出来ればこのままあたしの彼女になって欲し――『ごぶっ……げほっ……げほっ』――ちょっと月森さん汚い」
 咲夜さんが突然噴き出す。
「ごめん――いやでもこれ、あたしが悪い?」
 まだ少しむせながら、私が差し出したお手拭きで周りを拭きながら抗議する。
「もし愛美にかかってたら、あたしがつまみ出す」
「実祝さん今日はせっかく“友達”と放課後に“遊んでる”んだから仲良くね」
 実祝さんの雰囲気に咲夜さんの腰が再び引け気味になったから実祝さんをなだめる。
「愛美は月森さんの肩を持つの?」
 私の言葉に少し不安そうな表情をのぞかせる。
「そんなわけないよ。今日は実祝さんとも楽しく過ごしたかったから、誘ったんだし。それに実祝さんの事を咲夜さんにも知って欲しかったし。ねっ」
 そう言って少しでも実祝さんの不安が消えるようにと、出来るだけの笑顔を実祝さんに向ける。
「……魔性の聖女」
 私たちのやり取りを見ていた咲夜さんの一言で、今日問い詰めないといけない一言を思い出す。
「そう言えば“月森”さん。空木君に何か余計な事言った?」
「余計な事って何の事かしら?」
 咲夜さんの口調が変わる。これは当たりなのか。
「“聖女”」
 自分で言うには恥ずかしすぎるから、一言だけにする。
「いや~言ってないような? 言ったような?」
 明らかに挙動がおかしくなる。この反応は優希君が教えてくれた通り、間違いなくクロだと私の勘が告げる。
「月森さんケーキに手を付けなくて良いの?」
 私は咲夜さんに微笑んで食べるように促す。
「いや待って?! 聖女って悪い言葉じゃないじゃん! それに前呼んだ時は満更でもなさそうだったじゃ――『安売りの』――……」
 私のボソッとつぶやいた一言に、咲夜さんの勢いがピタッと止まる。
「安売り?」
 そして実祝さんがその言葉に反応する。
 実祝さんが反応してくれたから、その由来を私が実祝さんに説明しようとしたところでさっきの私と実祝さんのやり取りを思い出して恐怖したのか
「すいやせんでしたっ!」
 咲夜さんが勢いよく頭を下げる……のは喫茶店の中なので辞めて欲しい……みんな見てるし。
「私。空木君の前でとっても恥ずかしい思いをしたんだけれど? “安売り” の事、絶対空木君には知られたくないんだけれど?」
 あの時の事を、ドキドキを伴って思い出してしまう。
「はい。以後は発言に気を付けます」
 咲夜さんが反省してくれるのは良いけれど
「で? 空木君にはどういう説明を?」
 優希君だけには絶対に誤解されたくない。
「……えっと……副会長の事、本気で?」
「……それ。咲夜さんに言う必要ある? もし咲夜さんも同じ人をって言うなら、私も今この場でハッキリとしておくけれど? どうする? 私の気持ちちゃんと言っておこうか?」
 当然恥ずかしい気持ちは強いけれど、これが私の嘘偽りのない気持ちなのだから。
 この気持ちだけはごまかしたくも嘘をつきたくもない。
「いえ! 滅相もございません。“安売り”の件についても“あたくしめ”が勝手につけた言わば親しみを込めた愛称と言う事で、ご説明させて頂きます」
「じゃあ今日から、ううん。今から空木君が“安売り”って言う事は無いよね?」
「はっ。その件も合わせて申し上げておきます」
 最近どんどんと咲夜さんのイメージが壊れて行ってる気がする。
「あの~ところで愛美さん。統括会の中って平和?」
 まだ何かあるのか咲夜さんが遠慮しもって聞いてくる。
「私たちは協力しないといけない一つのチームのなのだから、咲夜さんが変な事を言わない限り平和だよ」
 雪野さんも頭が固いだけで、普段はまじめに活動してくれている。
「……気付いてないって……嘘でしょ……」
 でも、私の答えに不満があるのか、小声で何かをつぶやく。
 先の優希君の件もあるから
「何を考えてるのか分からないけれど、余計な事だけは言わないでね」
 釘だけは刺しておく。
「大丈夫。あたしには怖くて迂闊な事は言えない」
 なにが怖いのかは分からないけれど、蒼ちゃんの事でも協力をしてもらっているから、これ以上は言わないでおく。


「愛美。月森さんと仲良い」
 私と咲夜さんの会話を一通り聞き届けたところで実祝さんが一言。
「まぁ、友達だから普通には喋るよ」
 そして私の返答にもう少し考えてから更に一言。
「……あの時の愛美を元気にしたのは……月森さん?」
 私のほぼ治りかかっている左頬をじっと見ながらの一言に、あの日実祝さんの家でのことを言っているのだと気付く。
「ううん違うよ。実祝さんの知らない人。本当にその人以外には誰にも言ってないよ」
 だから私も友達として実祝さんに誠実さを持って答える。
「でも愛美が元気になったんだったら問題は解決?」
 だったのならどれほど良かったか。
「解決どころかテスト期間だったし」
 あれからテストの事もあって金髪の子と会っていないのだから、話すら聞けていない。解決どころか膠着状態で進みすらしていないのだ。
「解決できていないのに、愛美は元気になったの?」
「元気になったって言うか、元気になるお呪(まじな)いを教えてもらったよ」
 もちろんあの日は言葉だけじゃない。本当に私を大切にしてくれているのも伝わったし何よりあの日私の代わりに泣いてくれた朱先輩の事を私は一生忘れないと思う。
「問題が解決できていないのに、それだけの笑顔を見せられるって、その人愛美さんのことを本当によく知ってるんだね」
 咲夜さんがさっきまでの雰囲気とは全く別の、本来の空気だろう雰囲気を出して訪ねてくる。
「うんそうかな。でも私が中学三年の時からの付き合いだよ」
「愛美さんもまたその人の事をよっぽど信用してるんだね。今の愛美さんの表情を見れば嫌でもそれは伝わるよ」
 私の言葉に咲夜さんが少しだけ羨ましそうな表情をする。
「信用もしてるけれど、その人……朱先輩には秘密を作らせてもらえないんだよ」
 ――愛さん。わたしと愛さんの間では遠慮は無しなんだよ。本当にいつでも何時でも
    どんな事でも連絡をくれて良いから。わたしの前では取り繕う必要は無いんだよ――
 私はそっと心の中でもう何度同じことを繰り返したのか分からない朱先輩とのやり取りを反芻する。
 あの日河原で朱先輩に偶然でも会っていなければ、今の私は無かったと言い切れる。
「その事、防さんは?」
 実祝さんの一言に、まだ私の伝えたい事が伝わっていないと分かって、私の肩が落ちる。
「蒼ちゃんにも同じ事しか言ってないよ。何だったら蒼ちゃんに直接聞いてくれれば良いのに」
 私があの時の実祝さんの気持ちを推し量るなんて、そんな心の冒涜は出来ないけれど
 それでも蒼ちゃんは必要以上に苦しんで涙を流している事も知っているから、
 目の前で見ているから……どうしても、どうしても仲直りをして、仲良くなって欲しいと切に希う。
「愛美……」
 私が落胆したのに気づいたのかな、実祝さんが何かを言いかけるも
「私は蒼ちゃんの“親友”だから、私はクラスがどうなろうと蒼ちゃんと喋るし、仲良くするよ」
 ――わたしはこの先学校で愛さんがなんて言われたとしても、愛さんの味方だから――
 ――蒼依はもっと愛ちゃんと同じ学校で、一緒に過ごしたいから勉強頑張るよ――
 朱先輩が・蒼ちゃんが私に言ってくれた言葉が思い浮かぶ。だからってわけじゃない。でも私は蒼ちゃんの味方でいたいって思う。それは私と朱先輩との信頼“関係”にも繋がって行くものだと言う事も分かるから。

 ――私は今いる人間関係を切りたくないのかもしれない――

「前にも言った通り、実祝さんには蒼ちゃんと仲良くしてとは言わない。でも蒼ちゃんを傷つけるような事だけはしないで、言わないで欲しい」
「愛美……」
 実祝さんにとっては重たい言葉だと思う。それでも私は実祝さんとも信頼“関係”を作って行きたいから自分の気持ちをさらけ出す。
「咲夜さんには蒼ちゃんの事で協力してもらってるから、これ以上“今”は望まないけれど蒼ちゃんを傷つけたら、ううん私の親友を傷つけたら私絶対怒るよ」
 それは咲夜さんに対しても同じ事で、
「あたし、今までの自分の行動を振り返ってよく考えてみる」
 咲夜さんが真剣な表情で答えてくれる。
「ありがとう。咲夜さん」
 だから私も誠意を持って咲夜さんに笑顔で持って答える。
「愛美さん――」
 咲夜さんが何かを言いかけて言葉を飲み込む。
「どうしたの?」
 だから私なりに言い易くなるような声音で咲夜さんを促す。
「ううん。愛美さんと友達になれて良かったって」
 何となく初めに言おうとしていた事とは違うのは分かったけれど、
「ありがとう咲夜さん」
 私にもその経験は嫌と言うほどあるので、素直にお礼だけを伝える。
 その間実祝さんは無言だった。



―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――

        『……もしもし。どうしたの? 愛ちゃん』
              自分の中で変わる意識
       『ありがとう愛ちゃん――それと……ごめんね』
         それでも取り返しのつかない事もあって
          「わぁーお。愛美さんダ・イ・タ・ン」
         知っている人と知らない人のこれほどの違い

                「……え?」

         36話 捉え切れない視線<選ぶ言葉の重さ
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