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文字数 1,072文字

 礼拝堂に戻り、床にある扉を開く。地下に続く階段は三段目から先が見えないほど真っ暗だったが、恐る恐る下りていくと終着点が淡く光っていた。
儀式場かよ。こわ
おにいさん、戻ろう?
ここも嫌かー。正直、オレも怖いし嫌なんだけど。なんか真ん中のやつ、光ってるし

 正方形の地下室には、十二体の白い像が円を描くように座っていた。各々が思い思いの格好で、独立した椅子に腰を下ろしているため、間を通ることができる。



 そして、十二体の像の中心には白いローブをまとった男の像があった。地下室があまり暗くないのは、この一体の像が屋根裏部屋の少女像のように淡く発光しているためだ。

光ってるやつの足元に水瓶、手には布。ステンドグラスに描かれてたやつらか
(救世主と十二使徒。様子がおかしいのは、救世主の真後ろの席に座ってるこいつだな。救世主の表情も暗いが、こいつの顔はもっと暗い)
(なんか壮絶に後悔しているような、でももう戻れないと知っているような。麻の袋を持ってるけど、カラだ。それに、他の十一体の像は綺麗なのに、こいつだけ足が汚れてる)
(裏切り者を告発せよ、か。ユダが答えでいいなら、楽なんだが)
 室内や計十三体の像を見て回っていたツァックは、少年が視界から消えていることに気づいた。慌てて探すと、礼拝堂と地下室を繋ぐ階段の、一番下の段に座っている。
疲れたか?
……違う
動きそうなくらい綺麗な像だぞ。近くで見てみないか?
……見たくない
真ん中のとか、特に綺麗なんだけどな
……
近くで見たら、案外、なにか思い出せたりするかもよ?
……
(顔を上げようともしない。本当に疲れてるのか、精神になんらかの負担がかかっているのか)
(それとも、なにか見たくないものでもあるのか。たとえば、足の汚れたユダの像が、キリストの背中すら見ようとしていないように)
なぁ、少年。この像、足が汚れてるんだ。洗ってもいいかな?
放っておけばいいんじゃないかな。汚れてるのには、それだけの理由があるんだよ
たとえば?
よごれた道を歩いてきたとか
(雰囲気が変わった。とげとげしい)
オレは洗っちゃうぞー。布に水もあるわけだし
 中央の男の像から布をとり、足元の水瓶の中で軽く洗ってから絞る。うつむく像の汚れた足を洗うと、ちゃりん、と麻の布の中から音がした。
銀貨だ。三十枚はあるけど、どこの国で使われてたのもなんだ?
ここはこんなもんだろ。戻るか
うん

 像がつくる円の中から、ツァックは出る。少年は暗い顔で立ち上がった。

なんだ!?
 少年に先導され、地下室から出ようとした刹那、ツァックの背後でがらがらとなにかが崩れる音がする。
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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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